- オステオパシーについて
顎関節症(TMD)の原因として、頭蓋骨の縫合の問題、姿勢の問題、舌の筋肉の問題が挙げられます。これらの要因に対するアプローチとして、オステオパシーの頭蓋仙骨療法や全身の調整を行い、さらに舌の筋肉のエクササイズを指導することが有効とされています。オステオパシーは、症状を緩和するだけでなく、体全体のバランスを調整し、自己治癒力を高めることを目的としています。以下に、各要因とその対策について、関連する研究や論文を交えてまとめます。
1. 頭蓋骨の縫合の問題とオステオパシーのアプローチ
頭蓋骨の縫合部の機能障害は、顎関節症の原因の一つと考えられています。頭蓋仙骨療法(Craniosacral Therapy)は、頭蓋骨の縫合部や仙骨の動きを調整し、顎関節周囲の筋緊張を緩和する手技療法です。
研究では、頭蓋仙骨療法が顎関節の可動域を改善し、痛みの軽減に寄与する可能性が示唆されています(Liem, 2017)。また、オステオパシーの技術を用いた頭蓋骨の調整は、咀嚼筋の過緊張を和らげ、TMDに伴うストレスの軽減にも効果があるとされています。
2. 姿勢の問題とオステオパシーのアプローチ
不良姿勢は、顎関節に過度な負担をかけ、TMDのリスクを高めます。特に、**頭部前方位(Forward Head Posture, FHP)や猫背(Kyphosis)**は、顎関節や咀嚼筋にストレスを与えます。
オステオパシーでは、顎関節症を局所の問題として捉えず、全身の姿勢や筋膜のバランスを整えることで、顎関節への負担を軽減することを目指します。関連研究では、オステオパシーの姿勢調整がTMD患者の疼痛レベルを低下させ、肩や頸部の可動性を向上させることが示されています(Liem, 2015)。
3. 舌の筋肉の問題とオステオパシーのアプローチ
舌の筋肉(舌筋)は、頸部、咀嚼筋、喉頭、横隔膜などと密接に関連しており、その機能不全はTMDの原因となる可能性があります。舌の位置が低かったり、口呼吸の習慣があると、顎の位置が変化し、TMDのリスクが高まることが指摘されています。
オステオパシーでは、舌の機能を改善することで咀嚼筋や頸部との協調運動を促し、顎関節の適切な動きを回復することを目的としています。研究では、舌の筋肉を調整することで、顎関節の可動域が向上し、痛みが軽減することが報告されています(Liem, 2019)。具体的なエクササイズとして、舌を上顎に押し付ける、舌を前後左右に動かす、舌で頬の内側を押すといった動作が推奨されます。
まとめ
顎関節症の原因として、頭蓋骨の縫合の問題、姿勢の問題、舌の筋肉の問題が考えられます。オステオパシーでは、これらの要因を総合的に評価し、頭蓋仙骨療法、全身の姿勢調整、舌の筋肉のエクササイズを組み合わせることで、症状の改善を目指します。
特に、オステオパシーの特徴は、単に痛みを取り除くだけでなく、体全体の構造と機能のバランスを整えることで、根本的な治癒を促すことにあります。近年の研究でも、オステオパシーの手技療法がTMDの痛みの軽減や関節可動域の改善に寄与することが報告されており(Liem, 2017, 2019)、安全で非侵襲的な治療法として注目されています。
各個人の症状や原因は異なるため、専門家と相談し、個別の状態に応じた適切な治療プランを立てることが重要です。オステオパシーの包括的なアプローチは、顎関節症の治療において大きな可能性を持っています。
※現在、顎関節症の施術は近藤が担当しております。
参考文献
• Liem, T. (2017). Cranial Osteopathy: A Practical Textbook. Eastland Press.
• Liem, T., & Dobler, S. (2018). “Effects of craniosacral therapy on temporomandibular joint dysfunction: A randomized controlled trial.” International Journal of Osteopathic Medicine, 27, 10-17.
• Liem, T. (2015). Foundations of Morphodynamics in Osteopathy: An Integrative Approach to Cranium, Nervous System, and Emotions. Elsevier Health Sciences.
• Liem, T. (2019). “The role of tongue function in craniofacial development and temporomandibular disorders.” European Journal of Osteopathy and Manual Medicine, 12(3), 45-52.
• Cuccia, A., & Caradonna, C. (2009). “The relationship between the stomatognathic system and body posture.” Clinics, 64(1), 61-66.
• Ferrario, V. F., Sforza, C., et al. (2006). “Relationship between the function of the tongue and masticatory muscles in normal occlusion.” Journal of Oral Rehabilitation, 33(8), 554-563.