- オステオパシーについて

婦人科疾患と骨盤内血流の関係 〜オステオパシー的視点からのアプローチ〜
婦人科の問題の約70%は、骨盤内の血流不足が関与していると考えられています。この血流不足の主な要因として、胸腔・腹腔内圧の不均衡や横隔膜の機能低下が挙げられます。オステオパシーでは、骨盤内の血流やリンパの循環を改善し、内臓の適切な位置を保つことが、生殖機能の健康維持に重要であると考えます。
本記事では、生理痛や不妊症の原因となる骨盤内の血行不良がどのようにして発生するのか、そしてオステオパシーがどのようにアプローチできるのかについて解説します。
1. 婦人科疾患と骨盤内の血流不足の関係
子宮や卵巣などの婦人科系器官は、骨盤内に位置し、主に内腸骨動脈(または子宮動脈)を介して血液供給を受けています。しかし、次のような要因があると、この血流が制限されてしまう可能性があります。
(1)胸腔・腹腔内圧の異常
胸腔と腹腔の圧力バランスは、体液循環に大きく影響を与えます。呼吸によって横隔膜が上下に動くことで、血液やリンパの流れが促進されるため、横隔膜の機能低下は骨盤内の血行不良の原因になります。
特に、慢性的なストレスや姿勢の悪さ、呼吸の浅さが横隔膜の機能を低下させることが分かっています。例えば、猫背の姿勢が続くと横隔膜が十分に動かなくなり、結果的に腹腔内圧が低下し、内臓が下垂します。これにより、子宮や卵巣への血流が滞り、生理痛や不妊の原因となる可能性があります。
(2)内臓の下垂と骨盤内圧の上昇
腹腔内圧が低下すると、重力の影響で内臓が下垂し、子宮や卵巣が圧迫されます。特に、腸や膀胱の圧力が増すことで、子宮が後傾し、骨盤内の血流が妨げられることがあります。
オステオパシーの視点から見ると、この内臓の下垂は「膜の緊張」と「骨格の歪み」によって引き起こされると考えられます。例えば、腹部の膜組織(腸間膜、横隔膜、骨盤底筋膜など)が硬くなることで、内臓の可動性が制限され、骨盤内の循環が悪化するのです。
2. レンゾー・モリナーリの研究とオステオパシー的アプローチ
オステオパシー界の著名な専門家であるレンゾー・モリナーリ(Renzo Molinari)は、婦人科領域におけるオステオパシーの可能性について多くの研究を行っています。
彼の著書『Osteopathy in the Gynaecological Field』では、骨盤内の血流と婦人科疾患の関連性について詳述されており、オステオパシーの手技が骨盤内の血流を促進し、婦人科的健康をサポートする可能性が示されています。
モリナーリの臨床研究によると、骨盤内の循環が改善されることで、多くの患者が生理痛の緩和や月経周期の安定、不妊症の改善を経験していることが分かっています。彼の研究では、内臓の可動性を高め、横隔膜の機能を正常化することで、婦人科的な問題を軽減できるとされています。
彼のアプローチは、解剖学的・生理学的知識に基づき、患者の全体的な健康状態を考慮した包括的なケアを提供することを目指しています。
3. オステオパシーによる具体的な治療アプローチ
(1)横隔膜と胸郭の調整
横隔膜の動きを改善することで、胸腔・腹腔内の圧力バランスを整え、血流の循環を促します。特に、肋骨や横隔膜の可動性を高めることで、呼吸が深まり、自律神経の安定にも寄与します。
横隔膜の機能を高めることで、骨盤内の静脈還流が改善され、婦人科疾患の原因となる鬱血(うっけつ)を軽減することができます。
(2)内臓マニピュレーション
内臓の可動性を回復させるために、腸間膜や子宮靭帯の緊張をリリースする手技を行います。これは、オステオパシーの内臓マニピュレーション(Visceral Manipulation)と呼ばれる技術で、子宮や卵巣への血流を直接的に改善することを目的とします。
(3)骨盤底筋の調整
骨盤底筋の緊張や弛緩のバランスが崩れると、骨盤内の血流に影響を及ぼします。特に、過度な緊張がある場合、子宮や膀胱が圧迫され、排尿障害や生理痛の悪化を引き起こすことがあります。
オステオパシーでは、骨盤底筋のバランスを調整することで、骨盤内圧を正常化し、循環を改善することを目指します。
4. まとめ
婦人科の問題の多くは、骨盤内の血流不足が原因となっている可能性があります。その要因として、横隔膜の機能低下や内臓の下垂が挙げられ、これらが生理不順や不妊症を引き起こしている可能性があります。
オステオパシー的なアプローチでは、
- 横隔膜の機能を回復し、腹腔内圧を最適化する
- 内臓マニピュレーションで子宮や卵巣の血流を改善する
- 骨盤底筋の緊張を調整し、骨盤内の圧力バランスを整える
といった方法で、根本的な治療を目指します。
参考文献
• Iwakura, et al. “Respiratory Function and Low Back Pain.” (Ritsumeikan University)
• Barral, Jean-Pierre. “Visceral Manipulation.”
• Kuchera, Michael L. “Osteopathic Considerations in Women’s Health.”