2025.03.22
  • オステオパシーについて
オステオパシーからみる受け口と姿勢

小児の受け口(下顎前突)に対するオステオパシー的アプローチ

 

― 上顎骨の発育と姿勢の問題から考える ―

はじめに

受け口(下顎前突)は、小児における咬合異常の中でも比較的多く見られる状態であり、審美的・機能的に様々な影響を及ぼします。原因は多因子的であり、遺伝的要因もあれば、環境因子や生活習慣、成長発育のバランスなども影響します。本稿では、**「上顎骨の狭窄」および「姿勢の問題」**に焦点を当て、オステオパシー的な視点から受け口へのアプローチを考察します。

1. 上顎骨の狭窄と受け口の関係

1-1. 上顎骨の成長とその重要性

上顎骨(maxilla)は、頭蓋顔面骨の中でも中心的な位置を占め、隣接する蝶形骨、頬骨、鼻骨、口蓋骨などと縫合により接続されています。上顎の発育は咀嚼、呼吸、嚥下などの機能と密接に関係しており、顔面の垂直的・前後的な成長にも大きな影響を与えます。

とくに乳幼児期においては、舌のポジション(舌が口蓋に接触していること)と鼻呼吸が上顎の幅広い成長を促進します。(方形型)逆に、**口呼吸や低位舌(舌が下に落ちた状態)**が続くと、上顎は十分に広がらず、V字型の狭窄上顎となります。 


1-2. 狭窄上顎が受け口を引き起こすメカニズム

上顎骨の幅が狭くなると、以下のような問題が起きます。

歯列のアーチが狭くなり、下顎の歯列との位置関係が崩れる

上顎前方の成長が阻害される(前後方向の発育不足)

下顎が相対的に前方へ突出する形になりやすい

これは、構造的には受け口と同様の咬合状態を引き起こします(骨格性ではなく機能性の下顎前突)。この段階であれば、オステオパシーによる頭蓋調整や舌・口腔周囲筋の機能調整により、成長の補正が期待できます。 

1-3. 口腔外科的知見:骨格性下顎前突との鑑別

日本口腔外科学会の報告によると、骨格性の下顎前突(遺伝性が強いもの)では、下顎枝の過成長が関与しますが、「機能的な受け口」では上顎の発育不全や咬合力の不均衡が主要因とされており、早期介入で可逆的であると報告されています(参考:東京歯科大学 小児外科・成長発育研究室 2022)。 

2. 姿勢の問題と下顎の前方偏位

2-1. 頸椎・頭蓋のバランスと咬合の関係

姿勢と顎位(下顎の位置)は密接に関連しています。特に、

• 猫背(胸椎後弯の増大)

• 頭部前方位(フォワードヘッドポスチャー)

• OA関節(後頭骨と環椎の関節)の伸展位

といった不良姿勢は、頭部の重心が前方に移動し、それに伴い下顎も相対的に前方に引き出される傾向があります。

このメカニズムは、咬合や嚥下、発声のパターンに影響し、長期的には骨格の成長にも偏りを生じさせることがあります。 

2-2. 姿勢と呼吸・嚥下機能の連動

姿勢が崩れると、呼吸や嚥下の機能も影響を受けます。口呼吸が慢性化すると、舌が上顎を刺激しない位置(低位)に固定され、上顎骨の発育が妨げられます。また、首の筋肉(胸鎖乳突筋、舌骨上筋群)なども過緊張し、顎関節周囲の動きが制限されることで、さらに下顎の前方偏位が強調されます。 

3. オステオパシーによる介入の意義

オステオパシーでは、成長期の小児に対して以下のアプローチを行います:

3-1. 頭蓋調整(クラニアル・オステオパシー)

• 上顎骨・蝶形骨・口蓋骨・前頭骨などを調整し、頭蓋全体のリズムと動きを改善

• 上顎骨の自然な拡がりを助けることで、歯列や咬合バランスの正常化を促進

3-2. 姿勢と体幹の調整

• 骨盤・胸郭・頸椎・OA関節のアライメントを整え、自然な頭部重心を回復

• 舌・顎・嚥下パターンの正常化をサポートし、呼吸機能の改善も含めて統合的に対応

3-3. 成長に合わせた定期調整

• 成長期は骨格の可塑性が高いため、月1回程度の継続的な調整が望ましい

• 咀嚼や呼吸、睡眠姿勢、生活習慣の指導もあわせて行うと効果的 

まとめ

受け口(下顎前突)は、単なる歯並びの問題にとどまらず、上顎骨の発育不全姿勢の問題など、全身の構造的・機能的バランスの乱れが関与しています。オステオパシーでは、これらの要因に対して非侵襲的かつ包括的にアプローチすることで、成長を利用した自然な矯正が期待できます。

歯科的・外科的治療と並行しながら、体全体を診る視点を持つことが、将来的な予後の安定につながります。

 

引用・参考文献

1. 東京歯科大学 学位論文

骨格性下顎前突患者における下顎枝部の三次元的形態評価

• 東京歯科大学学会誌 第119巻(2022)

2. 日本口腔外科学会雑誌

• 小児の下顎前突に関する骨格的特徴と成長予測

• 日本口腔外科学会雑誌 第65巻(2019)

3. Proffit, W. R., Fields, H. W., Sarver, D. M.

Contemporary Orthodontics, 6th Edition, Elsevier, 2019

• (歯科矯正分野での骨格・筋機能と咬合の関係を詳細に解説)

4. Torsten Liem

• “Osteopathy and the cranial concept in children”, Journal of Osteopathic Medicine

• オステオパシーによる頭蓋治療と発達への影響を論じた資料

5. Renzo Molinari

• “The Pediatric Spine: An Osteopathic Approach”, 2020

• 姿勢・頭蓋・顎顔面の統合的調整についての臨床ガイド