- オステオパシーについて
起立性調節障害の子どもに対する、親の立ち位置の大切さ
朝なかなか起きられず、学校に行けない。
やっと起きても、ふらふらして食事も取れない。
「怠けてるの?」と周囲から誤解されやすいこの状態が、**起立性調節障害(OD)**です。
身体の不調でありながら、「やる気の問題」として捉えられやすいこの病気。
だからこそ、子どもにとって親の関わり方がとても重要になります。
起立性調節障害とは?
起立性調節障害は、自律神経の調整がうまく働かなくなることで、立ち上がったときに血圧や脈拍が適切に保てず、めまいや立ちくらみ、倦怠感などが起こる疾患です。
思春期に多くみられ、特に小学校高学年から中学生の子どもに多いとされています。
成長過程の体の変化や、心理的なストレスが重なって発症するケースも少なくありません。
「本人の努力不足」ではない
起立性調節障害の子どもは、朝がつらい、でも夜は元気という特徴があり、周囲からは「本当はサボってるんじゃないの?」と誤解されがちです。
しかし、これは交感神経と副交感神経の切り替えがうまくいかないことが原因で、本人の意志や努力ではどうにもならない身体の問題です。
たとえば以下のような研究があります:
• **Tilt試験(起立試験)**によって、ODの子どもは起立時に急激な血圧低下や心拍上昇を示し、自律神経の反応異常が確認されています(Kawakami et al., 2001)。
• MRIを用いた研究では、ODの児童の前頭葉や視床に機能的な変化が見られたという報告もあり、**脳内の神経ネットワークの可塑性(plasticity)**との関連も指摘されています(Tanaka et al., 2020)。
つまり、「やる気の問題」ではなく、神経レベルの身体的な問題として認識する必要があります。
親の立ち位置で回復が変わる
このようなとき、親の対応が大きな鍵を握ります。
精神科医の益田先生(早稲田メンタルクリニック)は、起立性調節障害のような「身体と心のあいだにある病気」において、家族の反応が症状の長期化にも回復にも影響すると語っています。
特に大切なのは、次の3つの立ち位置です。
1. 「信じて、見守る」姿勢
子どもが「朝起きられない」と訴えても、それが続くと「本当にしんどいの?」「学校に行く努力をしてないのでは?」と疑いたくなる気持ちもあるかもしれません。
でも、子どもはその視線を敏感に感じ取ります。
「自分は信じてもらえていない」と思うと、自尊心が傷つき、症状の悪化や抑うつを招くこともあります。
大切なのは、「今は本当にしんどい時期なんだね」と、身体の状態を理解し、信じてあげることです。
2. 「問題を解決しようとしすぎない」こと
心理学的には、親が「子どもの不調をなんとかしてあげたい」と思えば思うほど、子どもは**「申し訳なさ」と「プレッシャー」**を感じてしまうことがあります。
無理に病院に連れて行こうとしたり、「なんとか元気になろう」と励ましたりするよりも、
ただそばにいて、安心できる空間を保つことのほうが、長い目で見て回復に繋がることが多いです。
3. 「子どもが自分でコントロール感を取り戻せる」環境づくり
起立性調節障害の回復過程では、少しずつ「自分で起きる」「少し外に出てみる」「食事を整える」など、自分のペースでコントロール感を取り戻していくことが大切です。
そのとき、親が「今日は起きられたね、すごいね」と小さな一歩を認めたり、
逆に「今日は無理だったね、でもまた明日やってみようか」と声をかけたりすることで、
子どもは「失敗しても大丈夫なんだ」と感じることができます。
子どもは、親の感情を「身体で」感じ取っています
オステオパシーの臨床でも、起立性調節障害の子どもの身体の緊張や呼吸の浅さをみると、
その背景にある家庭の空気感や親の不安感を感じることが少なくありません。
子どもは、言葉以上に「親の表情・声のトーン・動き」など、非言語的な情報を通して、親の感情を受け取ります。
そのため、親自身が落ち着いた心で過ごすことが、子どもにとっての大きな安心になります。
最後に:親は「応援団」でいい
起立性調節障害の子どもにとって、親が「監督」や「コーチ」になる必要はありません。
必要なのは、そっと横で寄り添う「応援団」のような存在です。
「何もしない」のではなく、**「子どもが自分の力で立ち上がるのを信じて待つ」**という、
とても難しいけれど、最も効果的なサポートです。
子どもの調子がよくなるまでには波があります。
でも、焦らず、慌てず、長い目で見て「大丈夫」と信じて関わっていくことで、
子どもは安心して、少しずつ自分を取り戻していけるのだと思います。