2025.05.19
  • オステオパシーについて
「自然分娩に必要な“生理的可動性”とは何か」〜筋膜・靱帯・神経の連携〜

◾️「“骨盤の動き”が出産を決める? 〜臓器の可動性と神経・筋膜のつながり〜」


◾️はじめに:出産をスムーズにする“もう一つの要素”

「骨盤が開く」「赤ちゃんの頭が下がる」といった言葉は、出産を控えた多くの方にとって馴染みがあるかもしれません。

けれども、**「骨盤の中の臓器が、どのくらい“動ける”か」**という要素が、分娩の経過を左右する重要な因子であることは、あまり知られていません。

つまり、骨そのものだけでなく、**筋膜・靱帯・内臓・神経といった“動きの連動性”**が、自然な分娩をサポートする鍵になるのです。


 
◾️骨盤の中では何が起きているのか?

妊娠が進むにつれて、骨盤まわりの構造には大きな適応変化が起こります。

特に注目されているのは、腹圧の変化に対する骨盤内臓器(膀胱・直腸・子宮など)の可動性です。

ある研究(Kluivers et al., 2003)では、妊娠後期の妊婦さんに対して、腹圧をかける「バルサルバ法」を用いて臓器の動きを測定。

その結果、臓器の可動性が高い方ほど、正常な経腟分娩の成功率が高いことが示されました。 


 
◾️しなやかな「構造」が必要とする3つのネットワーク

臓器がうまく動けるためには、以下の3つの生理的ネットワークの“協調”が必要です。

1. 筋膜と靱帯の柔軟性

• 広靱帯・円靱帯・仙骨子宮靱帯などが、骨盤内臓器の位置と動きを支えます。

• 妊娠後期にホルモン(リラキシンなど)の影響で柔軟性が変化し、個体差が現れます。

2. リンパと静脈の流れ

• 子宮や腹腔にリンパ管はないものの、周囲組織(子宮壁や骨盤内)ではリンパ新生が活発になります(Kubo et al., 2008)。

• 骨盤の静脈瘤やうっ滞が起こると、組織の柔軟性や反応性に影響を与える可能性があります(Gao et al., 2016)。

3. 神経系と自律神経のバランス

• 胸腰部交感神経および骨盤神経叢(副交感神経)は、骨盤臓器の血流と運動性を調整します。

• 特に脳幹―延髄部(迷走神経・舌咽神経など)のテンションバランスは、出産後のリカバリーにも関わることが示唆されています。 



◾️オステオパシー的アプローチ:構造と機能の回復を支援する

オステオパシーでは、「構造と機能は相関する」という考え方に基づき、以下のような視点から妊娠後期のケアを行います:

子宮―仙骨の関係性の調整(Uterosacral ligamentの緊張を軽減)

腹部―骨盤の“テンションスリーブ”の評価(乳糜槽やリンパ還流の流れを確認)

脳幹と骨盤底のバランス再構築(後頭骨・上部頸椎・仙骨間のダイナミクス)

これにより、筋膜的な「恐れ」「緊張」「トラウマ記憶」なども含めて、構造的・情動的な適応の質を高める支援が可能になります。 



 

◾️出産前の“からだの余白”をつくる

赤ちゃんが「産道を通ってくる」だけではなく、

「お母さんの体が、赤ちゃんの動きに応じられる」ことが、スムーズな出産には不可欠です。

そのために、骨盤内の臓器や靱帯、筋膜がしなやかに連動できる状態を整えることが、

出産前にできる最善の準備の一つです。

森田治療室では、妊婦さんの状態に合わせて、安全かつ効果的なアプローチをご提案しています。

ご希望の方は、どうぞお気軽にご相談ください。 


◾️引用文献(抜粋)

• Kluivers KB, et al. Pelvic organ mobility and mode of delivery in late pregnancy. J Anat. 2003.

• Gao Y, et al. Vulvar varicosities in pregnancy: causes and management. 2016.

• Xie L, Kang H, Xu Q, et al. Sleep drives metabolite clearance from the adult brain. Science. 2013.

• Kubo H, et al. Lymphangiogenesis in the uterus and its relevance to pregnancy. 2008.

• Previc FH. A theory of prenatal origins of cerebral lateralization. 1991.