- オステオパシーについて
——オステオパシー的に捉える膝関節痛

■ 一般的な考え方
膝の痛みを訴える患者さんに対して、整形外科ではまず画像診断(レントゲン・MRIなど)を行い、以下のような診断が下されることが多いです:
- 変形性膝関節症(OA):関節軟骨の摩耗、関節裂隙の狭小化、骨棘形成
- 半月板損傷:加齢や外傷による断裂
- 靱帯損傷や腫脹:靱帯の過伸展・部分断裂、滑膜の炎症など
これに対し、
- 消炎鎮痛薬やヒアルロン酸注射
- 物理療法や運動療法(筋力強化、歩行指導)
- 重度変形例に対してはTKA(人工膝関節置換術)
といった保存療法または手術療法が行われます。
(参考論文:Hunter DJ, et al. “Osteoarthritis.” BMJ. 2008.)
■ オステオパシー的な視点:「膝は犠牲者」
オステオパシーでは、「膝関節自体に器質的な異常がある場合も、必ずしもそれが痛みの本質的な原因とは限らない」と捉えます。
むしろ、「**膝は他の部位の機能不全の代償として壊れていく“結果の場”**である」ことが臨床的に非常に多く見られます。
以下に、実際によく見られる原因部位とそのメカニズムを示します。
■ 原因として頻出する部位とその病態連鎖
部位 | 典型的な問題 | 膝への影響 |
---|---|---|
股関節 | 外旋・伸展制限、腸腰筋の短縮 | 歩行時に膝が過回旋し、内側への剪断力が増加 |
骨盤 | 仙腸関節の不動性、寛骨の捻れ | 片側への加重パターンが固定され、膝へ偏荷重がかかる |
足部(距骨・踵骨) | 回内・回外の過剰/制限 | 歩行時の力の伝達に歪みが生じ、膝のバイオメカニクスが崩れる |
内臓(特に女性:子宮) | 子宮後屈や靭帯の緊張 | 骨盤底筋群・骨盤帯に緊張が波及、骨盤アライメントに影響 |
胸郭・横隔膜 | 呼吸制限、肋骨の可動性低下 | 体幹の安定性が失われ、下肢の代償運動が増加 |
■ オステオパシーの詳細なアプローチ
① 全身評価(Tensegrity視点)
- 膝だけを局所で評価するのではなく、立位・歩行・座位・仰臥位における全体のテンションバランスを評価します。
- 特に「力がどこから伝わってきて、膝で受け止めざるを得なくなっているか?」を判断します。
② 股関節と骨盤の再統合
- 股関節のモビライゼーション(例:前方制限へのカウンターラスト・HVLA)
- 腸腰筋・梨状筋などの短縮解除(MET・FPR等を組み合わせる)
- 仙腸関節の調整(主にS2レベルのアンカーとするファシアリリース)
➡ 股関節-膝の連動性を回復し、代償パターンからの解放を促します。
③ 骨盤内臓器(子宮・膀胱・直腸)への調整
- 子宮支持靭帯(円靭帯、仙骨子宮靭帯など)のテンション調整
- 子宮後屈や右回旋などの位置異常に対するマニュピレーション
- 膀胱・直腸に対する内臓マニピュレーション
➡ 骨盤底筋や骨盤帯のファシアの緊張を解除し、動的な安定性を取り戻します。
(参考:B. Barral. Visceral Manipulation.)
④ 膝関節そのものへのアプローチ
- 関節内モビライゼーション(特に脛骨の前方変位や回旋ストレスへの介入)
- 膝蓋骨の可動性、滑液包や滑膜の状態の調整
- 膝周囲のリンパドレナージ・炎症部位の循環促進
➡ 局所の循環と可動性を整えることで、関節環境を改善します。
⑤ セルフケア・エクササイズ指導
- 骨盤・股関節のモビリティエクササイズ(例:四つ這いでの骨盤回旋運動)
- 内臓の可動性を高める呼吸法・骨盤底筋トレーニング
- 膝に負荷をかけない、バランス強化型の体幹トレーニング
➡ 自宅でも取り組める内容を症状に応じてカスタマイズし、継続可能な形で指導します。
■ まとめ
膝の痛みは「老化」や「軟骨のすり減り」として一括りにされがちですが、
本当の問題は、膝に“無理をさせている何か”にあることがほとんどです。
オステオパシーでは、身体全体の力の流れとテンションバランスを再調整することで、膝への負担を減らし、自然な回復力を引き出すことを目指します。
局所的なアプローチで限界を感じている方は、ぜひ全身を診る視点から、膝の痛みを捉え直してみてください。
■ 参考文献(論文・書籍)
- Hunter DJ, Felson DT. Osteoarthritis. BMJ. 2006;332(7542):639–642.
- Liem T, et al. Osteopathic manipulative treatment in patients with knee pain. J Am Osteopath Assoc. 2013.
- Barral JP. Visceral Manipulation. Eastland Press.
- Degenhardt BF, Kuchera ML. Osteopathic evaluation and treatment of the lower extremity. Foundations of Osteopathic Medicine. 3rd ed.
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