2025.06.01
  • オステオパシーについて
膝の痛みは「結果」であって「原因」ではない

——オステオパシー的に捉える膝関節痛



■ 一般的な考え方

膝の痛みを訴える患者さんに対して、整形外科ではまず画像診断(レントゲン・MRIなど)を行い、以下のような診断が下されることが多いです:

  • 変形性膝関節症(OA):関節軟骨の摩耗、関節裂隙の狭小化、骨棘形成
  • 半月板損傷:加齢や外傷による断裂
  • 靱帯損傷や腫脹:靱帯の過伸展・部分断裂、滑膜の炎症など

これに対し、

  • 消炎鎮痛薬やヒアルロン酸注射
  • 物理療法や運動療法(筋力強化、歩行指導)
  • 重度変形例に対してはTKA(人工膝関節置換術)

といった保存療法または手術療法が行われます。

(参考論文:Hunter DJ, et al. “Osteoarthritis.” BMJ. 2008.)


■ オステオパシー的な視点:「膝は犠牲者」

オステオパシーでは、「膝関節自体に器質的な異常がある場合も、必ずしもそれが痛みの本質的な原因とは限らない」と捉えます。

むしろ、「**膝は他の部位の機能不全の代償として壊れていく“結果の場”**である」ことが臨床的に非常に多く見られます。

以下に、実際によく見られる原因部位とそのメカニズムを示します。


■ 原因として頻出する部位とその病態連鎖

部位典型的な問題膝への影響
股関節外旋・伸展制限、腸腰筋の短縮歩行時に膝が過回旋し、内側への剪断力が増加
骨盤仙腸関節の不動性、寛骨の捻れ片側への加重パターンが固定され、膝へ偏荷重がかかる
足部(距骨・踵骨)回内・回外の過剰/制限歩行時の力の伝達に歪みが生じ、膝のバイオメカニクスが崩れる
内臓(特に女性:子宮)子宮後屈や靭帯の緊張骨盤底筋群・骨盤帯に緊張が波及、骨盤アライメントに影響
胸郭・横隔膜呼吸制限、肋骨の可動性低下体幹の安定性が失われ、下肢の代償運動が増加

■ オステオパシーの詳細なアプローチ

① 全身評価(Tensegrity視点)

  • 膝だけを局所で評価するのではなく、立位・歩行・座位・仰臥位における全体のテンションバランスを評価します。
  • 特に「力がどこから伝わってきて、膝で受け止めざるを得なくなっているか?」を判断します。


② 股関節と骨盤の再統合

  • 股関節のモビライゼーション(例:前方制限へのカウンターラスト・HVLA)
  • 腸腰筋・梨状筋などの短縮解除(MET・FPR等を組み合わせる)
  • 仙腸関節の調整(主にS2レベルのアンカーとするファシアリリース)

➡ 股関節-膝の連動性を回復し、代償パターンからの解放を促します。



③ 骨盤内臓器(子宮・膀胱・直腸)への調整

  • 子宮支持靭帯(円靭帯、仙骨子宮靭帯など)のテンション調整
  • 子宮後屈や右回旋などの位置異常に対するマニュピレーション
  • 膀胱・直腸に対する内臓マニピュレーション

➡ 骨盤底筋や骨盤帯のファシアの緊張を解除し、動的な安定性を取り戻します。

(参考:B. Barral. Visceral Manipulation.)



④ 膝関節そのものへのアプローチ

  • 関節内モビライゼーション(特に脛骨の前方変位や回旋ストレスへの介入)
  • 膝蓋骨の可動性、滑液包や滑膜の状態の調整
  • 膝周囲のリンパドレナージ・炎症部位の循環促進

➡ 局所の循環と可動性を整えることで、関節環境を改善します。



⑤ セルフケア・エクササイズ指導

  • 骨盤・股関節のモビリティエクササイズ(例:四つ這いでの骨盤回旋運動)
  • 内臓の可動性を高める呼吸法・骨盤底筋トレーニング
  • 膝に負荷をかけない、バランス強化型の体幹トレーニング

➡ 自宅でも取り組める内容を症状に応じてカスタマイズし、継続可能な形で指導します。



■ まとめ

膝の痛みは「老化」や「軟骨のすり減り」として一括りにされがちですが、

本当の問題は、膝に“無理をさせている何か”にあることがほとんどです。

オステオパシーでは、身体全体の力の流れとテンションバランスを再調整することで、膝への負担を減らし、自然な回復力を引き出すことを目指します。

局所的なアプローチで限界を感じている方は、ぜひ全身を診る視点から、膝の痛みを捉え直してみてください。



■ 参考文献(論文・書籍)

  • Hunter DJ, Felson DT. Osteoarthritis. BMJ. 2006;332(7542):639–642.
  • Liem T, et al. Osteopathic manipulative treatment in patients with knee pain. J Am Osteopath Assoc. 2013.
  • Barral JP. Visceral Manipulation. Eastland Press.
  • Degenhardt BF, Kuchera ML. Osteopathic evaluation and treatment of the lower extremity. Foundations of Osteopathic Medicine. 3rd ed.

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