2025.06.02
  • オステオパシーについて
男性不妊とオステオパシー -食事や電磁波の影響と骨盤内蔵神経へのアプローチ

—— 身体全体から考えるアプローチ


男性不妊の現状

不妊の原因は「女性側にある」と考えられがちですが、実際には全体の約50%は男性側にも原因があります。WHOの報告によると、世界の不妊カップルのうち約1/3は男性因子が単独の原因とされ、複合要因を含めると50%以上とも言われています。

日本国内においても、年々男性不妊の受診率は高まっており、20代〜40代の男性にとっても非常に身近な問題となっています。


男性不妊の主な原因

男性不妊は、以下のように多因子的です。

● 精子の形成異常(造精機能障害)

  • 精子数の減少(乏精子症)
  • 運動性の低下(精子無力症)
  • 精子の形態異常(奇形精子症)

● 精路の閉塞・逆流

  • 精管閉塞、精索静脈瘤、精液の逆流など

● ホルモンバランスの乱れ

  • 下垂体や視床下部の異常
  • テストステロンの低下

● 神経系の問題

  • 骨盤神経叢や骨盤内自律神経の機能不全


食事と精子の質の関係

最新の研究では、栄養状態が精子の質に強く影響することがわかっています。

特に精子の質を低下させる食生活

  • 高脂肪食(加工肉、ファストフード)
  • 糖質過多(清涼飲料水や菓子)
  • トランス脂肪酸(スナック菓子、揚げ物)

これらの食品は、酸化ストレスを引き起こし、精子のDNA損傷や運動性の低下に関与するとされています。

逆に、亜鉛・ビタミンE・オメガ3脂肪酸などを含む食事は精子の質向上に寄与します。


電磁波の影響

スマートフォンやWi-Fi、PCなどの電磁波(RF-EMR)は、精巣近傍にあることで精子に悪影響を及ぼす可能性があるとされています。

  • スマホをポケットに入れる男性は、精子濃度が約20%低下するという報告あり。
  • 電磁波はミトコンドリア機能の低下、DNA断片化を引き起こす。
  • 精巣温度の上昇や骨盤内の微細な血流・リンパ循環への影響も懸念されます。


オステオパシーでできること

—— 神経・血流・機能から整えるアプローチ

オステオパシーでは、**「精巣そのものを直接操作せずに、その機能を支える構造や神経支配を整える」**というアプローチを行います。

❖ 注目すべき部位:

股関節と骨盤の連動性

  • 股関節周囲の動き(特に外旋・伸展)が低下していると、骨盤の可動性にも影響を及ぼします。
  • 梨状筋の緊張や短縮があると、付着している仙結節靱帯に牽引ストレスがかかります。

❖ 神経支配と精巣との関連

  • 梨状筋付着部と仙骨靱帯には、骨盤内臓神経(pelvic splanchnic nerves)が走行しており、これらは精巣や前立腺、膀胱への副交感神経支配に関与します。
  • この領域の筋緊張やファシアの硬化が神経伝達や循環を阻害し、精巣機能にも影響を及ぼす可能性があります。

実際のマニュピレーションアプローチ

以下のような施術を通じて、間接的に精巣の神経・循環環境を改善することが目的です。

▶ 骨盤・股関節のリリース

  • 梨状筋、内閉鎖筋、腸腰筋の機能改善
  • 仙腸関節のモビライゼーション
  • 恥骨結合・仙骨のアライメント調整

▶ 骨盤内臓器への内臓マニュピレーション

  • 精管・前立腺・膀胱の位置調整と可動性回復
  • 靭帯のテンション緩和による神経負荷の軽減

▶ 横隔膜・胸郭のアプローチ

  • 呼吸性の改善 → 内臓間圧の調整 → 骨盤内への血流とリンパ還流促進



まとめ

男性不妊の治療において、オステオパシーは「機能の障害」を身体構造のバランスと神経系・循環系の視点から包括的に評価し、アプローチできる強力な手段です。

特に、股関節と骨盤の機能改善は、精巣を支える神経・循環に間接的に働きかける重要な手段といえます。

精液検査やホルモン評価だけでなく、身体の使い方や構造的ストレスに注目する視点を持つことで、より根本的な回復の道が見えてくるかもしれません。


📚 引用論文・参考文献一覧

● 世界的統計・疫学

  1. World Health Organization. (2023). Infertility: A worldwide health issue https://www.who.int/news/item/04-04-2023-1-in-6-people-globally-affected-by-infertility

● 男性不妊の原因と遺伝的背景

  1. Krausz, C., & Riera-Escamilla, A. (2018). Genetics of male infertility. Nature Reviews Urology, 15(6), 369–384. DOI: 10.1038/s41585-018-0003-3

● 食事と精子の質に関する研究

  1. Salas-Huetos, A. et al. (2017). The impact of diet on male fertility: a review. American Journal of Men’s Health, 11(4), 864–870. DOI: 10.1177/1557988316680930
  2. Afeiche, M. et al. (2014). Processed meat intake is associated with lower semen quality in men attending fertility clinics. Fertility and Sterility, 102(1), 257–263. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2014.03.035

● 電磁波(RF-EMR)の影響

  1. Houston, B. J. et al. (2016). The effects of radiofrequency electromagnetic radiation on sperm function. Reproduction, 152(6), R263–R276. DOI: 10.1530/REP-16-0126
  2. Adams, J. A. et al. (2014). Effect of mobile telephones on sperm quality: a systematic review and meta-analysis. Environmental International, 70, 106–112. DOI: 10.1016/j.envint.2014.04.015

● 解剖学的背景・神経支配

  1. Standring, S. (Ed.). (2016). Gray’s Anatomy: The Anatomical Basis of Clinical Practice (41st ed.) Elsevier. (特に pelvic splanchnic nerves, sacral plexus, spermatic cord の章)

● オステオパシーにおける臓器・構造アプローチ

  1. Liem, T. (2017). Cranial and Visceral Manipulation: Osteopathic Approach. Elsevier Health Sciences.
  2. Barral, J. P., & Mercier, P. (2005). Visceral Manipulation II. Eastland Press.

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