2025.10.06
  • オステオパシーについて
「世界の10人に1人が経験する“機能性腹痛症” ― 最新研究から見る子どもの腹痛」

「原因が見つからないお腹の痛み」

― 機能性腹痛症(Functional Abdominal Pain Disorders, FAPDs)とは ―


概要と頻度

「検査では異常がないのに腹痛が続く」お子さんは珍しくありません。最近の総説では、世界の小児の約9人に1人がFAPDsに該当すると報告されています。学校生活や家族生活への影響も大きい、身近な健康テーマです。 


どういう病気のまとまり?

FAPDs はローマ基準(Rome IV)で定義される**小児の機能性消化管障害(現:腸‐脳相関の障害/DGBI)**の腹痛関連疾患群で、主に

  • 過敏性腸症候群(IBS)
  • 機能性ディスペプシア(FD)
  • 腹部片頭痛(Abdominal Migraine)
  • 機能性腹痛(その他) に分類されます。診断は症状の組み合わせと経過に基づきます(Rome IV)。 



なぜ痛むの?(原因仮説)

器質的な炎症や腫瘍がなくても痛みは「本物」です。現在有力なのは次の複合モデルです。

  • 内臓知覚過敏(腸の痛み感受性が高い)
  • 運動機能の乱れ(胃腸の動きのリズム不整)
  • 腸内細菌叢の変化(感染後や食習慣、ストレスで変動)
  • 腸‐脳相関の失調(ストレス・睡眠不足・不安などが神経系を介して痛みを増幅) こうした要因が重なって慢性化します。 



まず大切な「レッドフラグ」の確認(医療機関での鑑別)

FAPDs を考える前に、器質的疾患の見落としがないかを確認します。受診時に医師が特に注意するのは:

  • 発熱・血便・胆汁性嘔吐
  • 夜間に目が覚めるほどの痛み
  • 体重減少・発育停滞・貧血
  • 反復する激しい嘔吐
  • 家族歴(炎症性腸疾患など) これらがあれば精査が必要です。一方、赤旗がなく、経過・身体所見・基本検査で重大な異常がなければ、過度な精密検査は有益性が限られるとされます。 

※レッドフラグとは:“重大な病気のサイン”が隠れているかもしれないときに使う言葉です。早めに病院で詳しい検査を受ける必要があります。



医療機関ではどう診断している?

  • 症状の型(上腹部中心か/便通との関連が強いか/発作的か など)
  • 持続期間と頻度(Rome IV は一定期間以上の反復を要件)
  • 生活への影響度(学校欠席、活動制限)
  • レッドフラグの有無 を総合します。必要に応じて採血・便検査・腹部超音波等を行いますが、「検査で証明する病気」ではなく、臨床基準で診断する疾患群であることが特徴です。 

※当院で判断しているわけではありません。



どんな治療・支援がある?

多面的な支援の組み合わせが基本です。薬だけで解決しないケースが多いため、次の要素を組み合わせます。

1) 教育・安心の提供(リフレーミング)

病気の枠組みを理解し、痛みの悪循環(不安→過敏→痛み)の断ち切りを目指します。学校・家庭での調整も重要です。 

2) 心身相関への介入

腸指向性の催眠療法(gut-directed hypnotherapy)は小児DGBIで短期・長期とも有効性が示され、最近は自宅実施型の音声プログラムでも前向きな結果が報告されています。心理的ストラテジー(CBT等)も有用です。 

3) 食事・腸内環境

プロバイオティクスは一部で有効の可能性が示される一方、エビデンス確実性は低~中で、菌株や個人差の影響が大きいと整理されています(例:LGGやL. reuteri など)。除去食や低FODMAPは小児では慎重に、専門家の伴走のもとで検討します。 

4) 生活リズム最適化

睡眠の質・朝の起床リズム・適度な運動・学業ストレスの調整は症状の改善に寄与します。家庭・学校と連携し、「休める身体」ではなく「活動できる身体」を目標に据えます。 



当院(オステオパシー)で支援できること

医療機関で重大疾患が否定され、FAPDs/DGBI が疑われる場合、当院ではからだ全体の調和を回復するための手技的アプローチを行います。

  • 横隔膜・腹部内臓の可動性、脊柱・骨盤の協調、迷走神経を含む自律神経系のバランスを整えることを目指します。
  • 施術後は、呼吸・睡眠・姿勢・食事のミニ戦略を個別に提案し、ご家庭・学校で実践できる形に落とし込みます。(※当院のオステオパシーは医療行為ではありません。オステオパシーは、現代医学と併用可能な補完的アプローチ(Complementary Medicine)であり、病態の根本にある機能的な不均衡を整えることで、医療の成果を支援・補強する役割を担います。レッドフラグがある場合や症状が悪化する場合は、まず医療機関の評価を優先してください)


受診の目安(保護者の方へ)

  • 赤旗所見がある/急激に悪化した
  • 学校生活に支障(欠席・不安の増大等)が続く
  • 体重が減る、食事が取れない まず小児科で評価を受け、必要に応じて専門医へ。検査で重大疾患が否定され、FAPDs の可能性が高ければ、心身・生活・体の使い方を統合したケアに移っていきます。 


まとめ

  • FAPDs は小児の約1/9にみられる一般的な腹痛のカテゴリー。器質的異常がなくても痛みは現実で、腸‐脳相関の失調が背景。 
  • 診断はRome IVなどの臨床基準+赤旗の除外で進める。過剰検査は必要性を吟味。 
  • 介入は多面的に:教育、心理介入(催眠療法・CBT 等)、生活調整、必要に応じ食事・プロバイオティクス。 
  • 当院では、自律神経と全身協調を整える手技+日常戦略で、再発しにくい回復を支えます。


住所〒710-0061
岡山県倉敷市浜ノ茶屋1丁目162
休診日不定休・研修日 

診療時間9:00 – 15:00 / 16:20 – 20:00