2025.11.26
  • 森田智史ブログ
車の運転がこわい、トンネルがこわい ― パニックと“空間”の問題をオステオパシー的に考える

電車・職場・車の運転がこわい

行動がどんどん狭くなる前に知っておきたいパニック障害のこと

― 家族がいないと不安になるあなたへ

「電車に乗るのがこわい」

「職場に向かう途中で息苦しくなる」

「車の運転中、とくに高速やトンネルがこわい」

「家族がそばにいないと不安で、ひとりでいるのがつらい」

といった相談を受けることが増えています。

最初は「ちょっと動悸がしただけ」「たまたま疲れていただけ」と思っていたのが、「またあの感じになったらどうしよう」という不安が強くなり、だんだん電車や車、職場、そして“家族のいない時間”を避けるようになってしまう。これは、いわゆる「パニック発作」と、その後に起こる「予期不安」や「広場恐怖(行動の制限)」と関係した状態です。ここでは、とくに電車・車の運転・職場・ひとりの時間で起きやすいパニックについて、からだと神経のしくみ、自律神経の視点、そして行動が狭くなりすぎる前にできることをお伝えします。



1.パニックが起こりやすい場面と、その共通点

パニック発作が起こりやすい場面には、ある程度共通した特徴があります。

電車やバス、飛行機などの公共交通機関、高速道路やトンネルを運転しているとき、渋滞で身動きが取れない車内、職場の会議や長時間のミーティング、人が多いショッピングモールや満員電車、ライブ会場など。

さらに、「家族がいない」「ひとりで外出している」「今日は誰も迎えに来られない」といった状況が重なると、不安は一気に高まりやすくなります。これらの場面に共通しているのは、「すぐにその場を離れにくいこと」と「何かあったときに守ってくれる人がいないかもしれない」という感覚です。

頭では「大丈夫」と分かっていても、からだの側が「逃げられない」「助けがない」と判断すると、自律神経の“危険センサー”が過剰に反応し、パニック発作につながりやすくなります。


2.パニック発作とはどんなものか

パニック発作とは、次のような症状が突然強く出る状態を指します。

  • 激しい動悸、胸がバクバクする
  • 息苦しさ、息が吸えない感じ
  • 胸の圧迫感
  • めまい、ふらつき
  • 手足の冷えやしびれ
  • 「このまま死ぬのではないか」と感じるほどの強い恐怖
  • 現実感が遠のく、頭が真っ白になる感じ

救急外来などで検査を受けても、「心臓も肺も問題ありません」と言われることが多く、それがまた「異常がないのになぜ?」という不安につながることもあります。大切なのは、「症状が強い=命に関わる異常が必ずある」というわけではないことと、一方で「何もないと言われたから気のせい」と片づけてしまう必要もない、という両方の視点です。


3.神経のしくみから見たパニック発作

パニック発作は、単に「メンタルが弱いから」起こるものではありません。

自律神経(交感神経と副交感神経)のバランス、脳の危険を察知するネットワーク、呼吸や心拍への感受性など、複数の要素が重なって起こります。たとえば、電車に乗ったり、トンネルに入ったり、家族のいない夜を過ごしたりするとき、ほんの少し心拍数が上がったり、呼吸が浅くなることがあります。

その変化自体は誰にでも起こることですが、パニックになりやすい状態では、その小さな変化を脳が「危険だ」「またあの発作が来た」と判断してしまいやすくなります。「ドキッとする → まずいかも → さらにドキドキする」という悪循環が一気に回り、交感神経(アクセル側)が全開になり、動悸や息苦しさ、強い恐怖感へと発展していきます。

つまり、「からだの変化」と「それをどう受け取るか」という心の反応が、うまくかみ合わなくなっている状態と捉えることができます。


4.なりやすい人の傾向

パニック発作になりやすい人には、いくつかの共通した傾向があります。

真面目で責任感が強く、人に迷惑をかけたくない気持ちが強いこと。

完璧主義やHSP(敏感気質)の傾向があること。

小さい頃から不安を感じやすく、「心配性だね」と言われてきた人も少なくありません。また、家族や身近な人に不安症やうつ傾向のある方がいると、自分も似たような反応をしやすいことが知られています。普段から「ちょっとしたドキドキ」「少しの息苦しさ」「胸の違和感」などに敏感で、それを「何か悪いことの前触れではないか」と感じてしまう人は、パニックに発展しやすい土台を持っているとも言えます。

そこに、仕事のストレス、人間関係の悩み、環境の変化(就職・結婚・出産・引っ越しなど)、睡眠不足や疲労の蓄積が重なると、自律神経の負担が限界に近づき、発作として表に出てきやすくなります。


5.若い女性にパニック障害が多い背景

パニック障害は男性より女性に多く、とくに20〜30代の女性で目立ちます。

その背景には、ホルモンの変化と社会的なプレッシャーが大きく関わっています。女性ホルモンは、自律神経や感情、睡眠の質にも影響を与えます。そのため、生理前や排卵期などホルモンバランスが大きく変化する時期に、動悸や不安感、イライラが強くなる方も少なくありません。

さらに、仕事をしながら家事や育児もこなすこと、親のサポートが必要になってくる時期が重なること、「ちゃんとしていないといけない」という周囲からの期待、SNSなどで他人と自分を比較しやすい環境など、心身への負担はどうしても大きくなります。

こうした要素が積み重なることで、もともと敏感な自律神経がさらに疲れやすくなり、パニック発作の土台ができていくと考えられます。


6.なぜ行動がどんどん狭くなっていくのか

パニック発作そのものもつらいのですが、生活を大きく変えてしまうのは、その後に出てくる「予期不安」です。

一度電車の中で強い発作を経験すると、「また電車であの発作が起きたらどうしよう」と感じるようになります。

すると「各駅なら大丈夫かも」「すいている時間帯なら…」と条件付きの利用になり、やがて電車そのものを避けるようになることがあります。車の運転では、「もし高速道路やトンネルの中で発作が起こったら事故になるかも」と考え始めると、高速を避け、次にバイパスを避け、最終的には短い距離しか運転できなくなることもあります。家族との関係では、「家族がいれば何かあっても助けてくれるけれど、ひとりのときに発作が起こったらどうしよう」という恐怖が強くなると、ひとりで外出することや家でひとりでいる時間を極力避けるようになります。

このように、「あの場所=危険が起こるところ」という学習が進み、避ける場所や場面が少しずつ増えていくことで、行動範囲が狭くなっていきます。最初は「ちょっと緊張する場所を避けているだけ」のつもりが、気がつくと「行ける場所・できること」が大きく減ってしまっている、ということが起こります。


7.行動が狭くなりすぎる前にできるセルフケア

症状が強い場合は心療内科での相談が大前提になりますが、並行して「自分でできること」を少しずつ積み重ねていくことも大切です。ひとつは「呼吸の癖を整えること」です。

パニックが起こりやすい時期は、普段から呼吸が浅く速くなっていることが多く、ちょっとした刺激で過呼吸に近い状態になりやすくなっています。鼻から静かに息を吸い、口から細く長く吐くイメージで、「吸う」より「吐く時間を長くする」ことを意識してみてください。これは、電車の中や職場のデスク、車の中などでも、周囲に気づかれずにできる方法です。

また、自分のからだの緊張に気づく習慣をつけることも役に立ちます。

肩が上がっていないか、歯を食いしばっていないか、みぞおちやお腹が固くなっていないかに気づいたら、息を吐きながら肩をストンと落とし、奥歯の力をふっと抜き、みぞおちに手を当てて温かさを感じながらゆっくり呼吸してみます。ほんの数十秒でも、「からだが少しゆるむ経験」を繰り返すことで、自律神経は少しずつ「安全な状態」を思い出しやすくなります。

行動の面では、「いきなり全部」を目指さないことがポイントです。

満員電車で長距離に乗る、高速道路をひとりで長時間運転する、家族が誰もいない夜をいきなり一晩過ごす…といった大きなチャレンジではなく、「少し不安だけれど、何とかできそうなレベル」から試していきます。たとえば、家族と一緒に一駅だけ電車に乗ってみる、比較的すいている時間帯に短い距離だけ運転してみる、家族は家にいるけれど別室でひとりの時間を過ごしてみる、などです。うまくいったかどうかだけでなく、「チャレンジした」という事実そのものを評価してあげることが大切です。

多少不安が出ても「前より少しできたところ」に目を向けることで、「自分はまったくダメではない」という感覚が少しずつ育っていきます。


8.オステオパシー的な視点とアプローチ

オステオパシーでは、パニック発作を「自律神経の問題」や「首の問題」といった、一つの原因にしぼって見ることはあまりありません。身体と心、生活のストレスが長い時間をかけて積み重なり、その総量が限界を超えたときに、発作という形で表にあふれてくる、というイメージでとらえます。

よくお話しするのが、「コップと水」のたとえです。

コップをあなたの身体と心、その中の水をストレスや疲労、からだのこわばりや内臓の負担、感情の溜まりなどだとします。コップの中がもともといっぱいに近い状態だと、電車に乗る、車を運転する、職場に行く、家族がいない時間を過ごすといった“いつもより少し負荷がかかる出来事”がひとつ加わるだけで、すぐに水があふれてしまいます。あふれた水が、動悸や息苦しさ、強い不安感といった症状です。薬物療法は、このあふれた部分を一時的に落ち着かせる力があります。一方で、コップの中身そのものが減っていなければ、また少しのきっかけであふれてしまいやすい状態は続きます。

オステオパシーの目標は、このコップの中身を少しずつ減らし、「余白」をつくることです。

胸郭や横隔膜の動きを柔らかくし、首や頭蓋のこわばりを整え、胸やお腹の深い部分にある緊張をほどき、骨盤や足元の安定感を取り戻していきます。一見パニックとは関係なさそうに見える頭痛や肩こり、胃腸の不調、古いケガの影響なども含めて、からだ全体の負担を下げていくことで、コップの水位は少しずつ下がっていきます。

コップに余裕ができてくると、「また電車で発作が出たらどうしよう」「ひとりで運転中に倒れたらどうしよう」という不安が完全になくならなくても、実際にあふれずに済むことが増えていきます。

オステオパシー的には、「パニックを完全にゼロにすること」よりも、「発作が起きても飲み込まれず、自分なりにコントロールできる範囲にしていくこと」をゴールと考えています。心療内科での薬やカウンセリングと並行しながら、からだの緊張をやわらげ、コップの中身を減らし、“余白”を取り戻していく。そのプロセスを支えるひとつの方法として、オステオパシーが役立てればと思っています。


9.心療内科との併用について

森田治療室に来院されるパニック症状のある方の多くは、心療内科・精神科と併用されています。

お薬の調整は、あくまで担当医の先生の判断が中心になりますので、「薬をどうするか」という部分は主治医の先生と相談しながら進めていくことを、当院でも基本方針としています。こちらから「薬をやめましょう」「量を減らしましょう」とお伝えすることはありません。むしろ、「今の生活を回すために、必要なときは薬の力も借りながら、そのうえで体の状態を整えていく」という考え方です。

からだの緊張や痛み、疲労が軽くなってくると、担当医の先生の判断で、結果的に薬の量が少しずつ減っていくケースもありますが、そのペースやタイミングは医師と相談しながら決めていきます。心療内科とオステオパシーは、「どちらか一方」ではなく、「役割の違うパートナー」として併用していくイメージを持っていただけると良いと思います。


10.森田治療室での具体的な流れ(初回〜数回の目安)

実際の臨床では、「パニック発作そのものをいきなり止める」というより、もう少し手前の段階から整えていくことが多くなります。多くの方は、パニックの症状と同時に、頭痛、肩こり、首の痛み、慢性的な疲労感、動悸、胃腸の不調、眠りの浅さなど、日常的なからだのつらさを抱えています。

最初の数回は、これらの「普段から続いている症状」を軽くしていくことを主な目標にします。たとえば、頭痛や肩こりが軽くなり、呼吸が少し楽になり、夜の眠りが深くなってくると、それだけで自律神経の負担はかなり変わります。結果として、「普段のベースのしんどさ」が下がってくると、そこから派生するパニック発作も少しずつ減ってくる、という流れになることが多いです。ですから、初回〜数回の段階では、

  • パニック発作をゼロにすること ではなく、
  • 日常的なからだのつらさ(頭痛・肩こり・動悸・睡眠など)を減らすこと
  • 主治医の先生と相談しながら、薬の量が「必要最小限」で済む身体状態を目指すこと

を現実的な目標として一緒に取り組んでいきます。

そのうえで、「電車に乗るのが少し楽になった」「車の運転が前より怖くなくなってきた」「家族がいない時間でも、以前ほど不安で動けなくなることが減ってきた」といった変化が出てくることを目指します。パニック障害は、どうしても「心の問題」として語られがちですが、身体の状態が変わることで、心の感じ方や、世界の見え方が変わることも少なくありません。

もし今、電車や車、職場、ひとりの時間がこわくて行動が狭くなってきていると感じている方は、「気合で何とかする」「性格を変える」だけではなく、からだの側からアプローチしてみる選択肢もあることを知っていただけたらと思います。


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