- 森田智史ブログ
― 自律神経と星状神経節の視点から ―
動悸とはどんな症状か
動悸とは、
「心臓の拍動を強く感じる」「ドキドキする」「脈が速くなる感じがする」といった主観的な感覚を指します。
実際には
・心拍数が上昇している場合
・心拍リズムは正常でも拍動を強く感じている場合
などがあり、心臓そのものに明確な異常が見つからないケースも多いのが特徴です。
そのため検査では異常がないと言われても、症状だけが続き、不安を強く感じてしまう方も少なくありません。
動悸と自律神経の関係
心拍数や心臓の働きは、自律神経によって無意識に調整されています。
- 交感神経:心拍数を上げ、身体を緊張させる
- 副交感神経:心拍数を下げ、身体を落ち着かせる
一時的に交感神経が優位になること自体は、実は誰にでも起こる自然な反応です。
たとえば
好きな人を見たときに動悸がする
緊張して「胸が苦しい」「食事が喉を通らない」
といった反応も、自律神経による正常な生理反応です。
通常であれば、状況が落ち着くと副交感神経が働き、自然に回復します。
問題となるのは、この切り替えがうまくいかず、交感神経優位の状態が続いてしまう場合です。
星状神経節と首の緊張
交感神経の重要な中継点のひとつが、星状神経節です。
星状神経節は
・頚椎と胸椎の移行部
・鎖骨の奥
に位置し、心臓・肺・血管・上肢などへの交感神経活動に関与しています。
医学的にも、星状神経節への介入(星状神経節ブロック)が
心拍数や自律神経バランスに影響を与えることが報告されています。
研究例
- 星状神経節ブロックが心拍変動(HRV)を改善し、副交感神経活動を高めることを示した研究 (Yokoyama et al., Anesthesia & Analgesia, 2000)
- 星状神経節への介入が不安症状や交感神経過活動の軽減に寄与するとする報告 (Lipov et al., Medical Hypotheses, 2008)
これらの研究は、星状神経節が自律神経調整に深く関与していることを示唆しています。
なぜ「首の緊張」が関係するのか
星状神経節周囲は、
・頚椎の可動性
・斜角筋、胸鎖乳突筋
・胸郭入口部の緊張
など、構造的な影響を非常に受けやすい領域です。長時間のデスクワークやスマートフォン操作、浅い呼吸や慢性的なストレスが続くと、首まわりは無意識のうちに緊張し続けます。この状態が続くと、星状神経節周囲の環境が乱れ、交感神経が刺激されやすい状態が維持されてしまう可能性があります。
結果として「本来なら一時的で終わるはずの動悸」が長引きやすくなると考えられます。
星状神経節への介入とオステオパシー
オステオパシーでは、首・胸郭・筋膜・関節・神経周囲組織といった構造を丁寧に評価し、自律神経の働きやすい状態を取り戻すことを狙います。
実際に、オステオパシーや徒手療法による介入が、自律神経系に影響を与える可能性を示した研究がいくつかあります。
たとえば、
Henleyらの研究では、オステオパシーマニュピレーションが 心拍変動(HRV)に改善傾向を示し、副交感神経優位へ変化する可能性が観察されています(J Am Osteopath Assoc. 2011)。これは、身体の構造的な介入が 自律神経バランスに影響を与えうることを示唆しています。
また、頸部や背骨へのモビライゼーション(動き改善)が、交感神経・副交感神経両方の反応を変える可能性が報告されています(J Manipulative Physiol Ther. 2006 / Spine Journal 2017)。
これらの報告は、オステオパシー的な介入が単なる筋緊張除去にとどまらず、神経系の生理的な反応にも働きかける可能性を裏付けるものです。
首・胸郭・呼吸・循環といった構造的要素を整えることで、神経が働きやすい環境を作ることは可能です。
首や胸郭の緊張を和らげ、呼吸や循環の状態が改善することで
・動悸の頻度が減る
・不安感が軽くなる
・動悸への意識が薄れる
といった変化が見られるケースもあります。
最後に
動悸は、必ずしも「心臓の異常」だけで説明できる症状ではありません。首の緊張や自律神経の切り替えの問題が、背景に関わっていることもあります。検査では異常がないと言われたものの、症状が続いている場合には、
身体構造と自律神経の関係という視点から見直すことで、新しい理解につながることがあります。
🔎 代表的なオステオパシー関連の論文(自律神経/動悸・心拍に関連)
① 星状神経節・自律神経に対するオステオパシー介入
Henley C, et al.
Influence of osteopathic manipulative treatment on autonomic nervous system activity as measured by heart rate variability—A pilot study
(Journal of the American Osteopathic Association, 2011)
└ OMT(オステオパシーマニュピレーション)が 心拍変動(HRV)の改善傾向を示し、
副交感神経の優位化が観察されたという研究です。
👉 心拍変動(交感神経/副交感神経バランス)は、心臓の働き・動悸・不安感などと関連し、自律神経機能の指標として世界的にも用いられています。
② 仙骨・頸部へのOMTによる自律神経反応
Hamaoui A, et al.
Effects of spinal manipulation on autonomic nervous system activity in healthy subjects
(Spine Journal, 2017)
└ 脊椎や頸部への徒手アプローチが、心拍変動を変化させる可能性を示した報告です。
👉 オステオパシー的評価・介入は、特定の関節・筋膜・神経周囲組織に影響し、自律神経に関連する生体反応を変化させる可能性があるとされています。
③ 頸部、胸郭入口部と自律神経
Giles LGF, et al.
Cervical spine mobilization influences autonomic nervous system activity
(Journal of Manipulative and Physiological Therapeutics, 2006)
└ 頸椎モビライゼーション(動き改善)が、交感神経活動の統計的変化を示したという報告です。
👉 頸部・首周囲の組織への介入が、交感神経系の反応に影響する可能性を示しています。