2026.04.09
  • 森田智史ブログ
自律神経は「シーソー」なのか?

■ 自律神経は「シーソー」なのか?

自律神経について説明する際に、「交感神経と副交感神経はシーソーのように働いている」といった表現を聞くことが多いと思います。

交感神経は活動や緊張、副交感神経は休息や回復。

どちらかが上がれば、もう一方が下がる。そういったイメージです。この説明は間違いではありませんし、患者さんに伝える上でも分かりやすいモデルです。ただ、実際に身体で起きていることは、もう少し複雑で、もう少し精密です。

臨床をしていても、単純に「交感神経が高い」「副交感神経が低い」といった一方向の問題だけで説明できるケースは多くありません。



■ 実際の身体ではどうなっているのか

最近の研究や考え方では、交感神経と副交感神経は単純に拮抗しているだけではなく、同時に働きながら調整しているという理解が主流になっています。

たとえば心拍一つとっても、単純に上がる・下がるではなく、細かく揺らぎながら変化しています。この揺らぎ(心拍変動)は、副交感神経の働きとして説明されることもありますが、実際には交感神経との相互作用の中で生まれているものです。

つまり、どちらか一方が働いているのではなく、両方が関わりながら調整している状態です。


■ 呼吸や姿勢でも同じことが起きている

呼吸に伴って心拍が変わる現象や、立ち上がったときに血圧が保たれる反応なども、単純なON・OFFでは説明できません。身体は常に「ちょうどいい状態」を保とうとしています。

そのためには、強く上げるだけでも、強く下げるだけでも足りず、同時に調整する必要があります。

このとき、交感神経と副交感神経は互いに影響しながら、同時に働いています。


■ シーソーではなく「協調」

シーソーのイメージだと、どちらかが上がれば、どちらかが下がるという関係になります。

ただ実際の身体は、それほど単純ではありません。

むしろ近いのは、複数の要素が同時に動きながらバランスを取っている状態です。

完全に逆の働きというよりも、役割の違う調整装置が同時に動いているようなイメージです。


■ 臨床で感じる違和感の正体

「自律神経が乱れている」と言われる方の多くは、

・緊張しやすい

・疲れが抜けない

・不安感が強い

・呼吸が浅い

といった状態を感じています。

これを単純に「交感神経が高い」と捉えてしまうと、副交感神経を上げればいい、という話になります。

ですが実際には、副交感神経をただ高めれば改善するというケースは多くありません。

むしろ問題になっているのは、切り替えがうまくいかないこと

あるいは同時に働くバランスが崩れていることです。


■ 「調整できない状態」が問題

自律神経の状態で重要なのは、どちらが強いかではなく、状況に応じて調整できるかどうかです。

必要なときに交感神経が働き、落ち着く場面で副交感神経に移行できる。さらに、その間の細かい調整もスムーズに行える。

この「余裕」があるかどうかが重要です。

逆にいうと、

・ずっと緊張が抜けない

・休んでも回復しない

・少しの刺激で不調が出る

といった状態は、調整の幅が狭くなっている状態とも言えます。


■ オステオパシーとしての捉え方

オステオパシーでは、自律神経そのものを直接操作するというよりも、

・呼吸

・循環

・組織の緊張

・頭蓋や内臓の動き

といった全体の状態を整えることで、自律神経が働きやすい環境をつくることを重視します。

結果として、

・過剰な緊張が抜ける

・呼吸が深くなる

・回復しやすくなる

といった変化が起きます。これは「副交感神経を上げた」というよりも、調整しやすい状態、余裕がある状態に戻ったと捉える方が自然です。


■ まとめ

自律神経は、単純なシーソーのような仕組みではありません。

交感神経と副交感神経は、必要に応じて同時に働きながら、細かく調整を行っています。

そして問題になるのは、どちらが強いかではなく、その調整がうまくいっているかどうかです。自律神経を整えるということは、どちらかを上げることではなく、状況に応じて自然に働ける状態を取り戻すことだと考えています。


■ 参考文献・研究

本記事の内容は、近年の自律神経研究に基づいた考え方を参考にしています。

・Berntson, G. G., Cacioppo, J. T., & Quigley, K. S.

 Autonomic space and psychophysiological response

 → 自律神経は単純な拮抗ではなく、共活性・共抑制など複数のパターンで調整されることを提唱

・Porges, S. W.

 The Polyvagal Theory

 → 自律神経を階層的・機能的に捉え、単純な二元論では説明できないことを示した理論

・Thayer, J. F., & Lane, R. D.

 A model of neurovisceral integration

 → 心拍変動(HRV)を中枢神経と自律神経の統合的な調整の指標として説明

・Shaffer, F., & Ginsberg, J. P.

 An Overview of Heart Rate Variability Metrics and Norms

 → HRVが交感・副交感神経の相互作用の結果であることを整理


■ 補足(臨床的な理解として)

これらの研究からも、

自律神経は単純なON/OFFではなく、

複数のシステムが同時に働きながら調整しているもの

として捉えることが重要だとされています。


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