- 森田智史ブログ
〜なぜ傷が治っても痛みが続くのでしょうか?〜
「レントゲンでは異常がないですね。」
「MRIでも特に問題ありません。」
それでも腰痛や肩こり、頭痛、首の痛みが何か月、何年も続いている方は少なくありません。
このような慢性痛では、近年の疼痛研究において中枢性感作(Central Sensitization)という考え方が重要視されています。
痛みは身体を守るための警報システム
本来、痛みは身体を守るための反応です。
転倒や捻挫などで組織が損傷すると、「侵害受容器」と呼ばれる痛みセンサーが刺激を受けます。
その情報は神経を通って脊髄、そして脳へ伝わり、「痛み」として認識されます。
急性期の痛みは、この警報システムが正常に働いている証拠です。
中枢性感作とは
しかし、痛みが長期間続くと話は変わります。
痛みの情報が何度も脊髄へ入力されることで、神経細胞が興奮しやすい状態へ変化していきます。
すると、
- 軽く触れただけで痛い
- 少し押しただけでも強く痛い
- 痛みが広い範囲へ広がる
- 天候や疲労、ストレスで悪化する
といった症状が現れることがあります。
国際疼痛学会(IASP)は、中枢性感作を
「中枢神経系の侵害受容ニューロンが、通常または閾値以下の刺激に対して反応性を高めた状態」
と定義しています。つまり、
神経系そのものが痛みを感じやすい状態になっているということです。
生理学的には何が起きているのでしょうか?
痛みが長期間続くと、脊髄後角や脳では神経細胞だけでなく、ミクログリアやアストロサイトと呼ばれるグリア細胞も活性化します。
以前は神経を支える細胞と考えられていましたが、現在では慢性痛に重要な役割を担うことが分かっています。
これらの細胞が活性化すると、
IL-1β
TNF-α
IL-6
BDNF
などの炎症性メディエーターを放出し、
神経細胞の興奮性をさらに高めます。
その結果、脊髄後角のニューロン(特にWDRニューロン)は刺激に対して過敏になり、
痛みが増幅され、広がり、慢性化しやすくなります。
この状態を**神経炎症(ニューロインフラメーション)**と呼びます。
侵害受容入力が続く
↓
ミクログリア・アストロサイト活性化
↓
炎症性サイトカイン・BDNF放出
↓
脊髄後角(WDRニューロン)の興奮性上昇
↓
中枢性感作
↓
慢性痛が持続する
つまり慢性痛では、筋肉だけではなく神経系の環境そのものが変化している可能性があります。
オステオパシーではどのように考えるのか
ここで重要なのは、「神経が悪いから神経だけを治療する」という考えではありません。
神経系の過敏性は、神経だけではなく、
循環
呼吸
筋膜
内臓
自律神経
機械的ストレス
など様々な要因が関与すると考えられています。
そのため当院では、神経・循環・メカニカルという3つの視点から評価しています。
① 神経学的アプローチ(Neural Approach)
目的は、神経へ繰り返し入力される侵害受容刺激を減らすことです。
特に評価するのは、
- 神経モビリティ(神経の滑走性)
- DRG周囲への機械的ストレス
- 硬膜システム
- 上位頸椎・頭蓋底
- 脊柱全体の可動性
- 自律神経のバランス
などです。
神経は筋肉や筋膜の間を滑走しています。
その滑走性が低下すると、神経自体へ機械的ストレスが加わりやすくなります。
また、胸郭や頸椎の可動性低下は交感神経活動や呼吸にも影響を及ぼす可能性があるため、全身の連動性を評価します。
臨床では、
- BLT
- カウンターストレイン
- 神経モビリティ
- 頭蓋・後頭下部へのアプローチ
- リブレイジング
などを組み合わせることがあります。
② 循環アプローチ(Circulatory Approach)
慢性痛では、炎症だけでなく、組織の循環環境も重要になります。
循環が低下すると、
炎症性物質の除去
酸素供給
組織代謝
リンパ還流
などにも影響します。そのため評価する部位は、
- 胸郭入口
- 横隔膜
- 縦隔
- 静脈還流
- リンパドレナージ
- 腹部・骨盤内循環
などです。
オステオパシーでは循環環境を改善することで、侵害受容刺激を維持しにくい環境づくりを目指します。
③ メカニカルアプローチ(Mechanical Approach)
痛みの原因は必ずしも神経だけではありません。
筋膜
関節
靭帯
内臓支持組織
呼吸運動
姿勢
これらの機械的負荷が侵害受容入力を増加させている場合があります。
例えば胸郭の可動性低下は呼吸を浅くし、交感神経活動や頸肩部の筋緊張を高める可能性があります。
骨盤の可動性低下は、腰部だけでなく腹腔内圧や下肢の運動連鎖にも影響します。
このような侵害受容入力の発生源を評価することが慢性痛では重要になります。
まとめ
慢性痛は、単純に筋肉や骨格だけの問題ではありません。
現在では、
神経系
神経炎症
循環
自律神経
心理社会的要因
などが複雑に関与すると考えられています。
当院では局所だけではなく神経・循環・メカニカルという3つの視点から全身を評価し、侵害受容入力を減らしながら、神経系が本来の状態へ戻りやすい環境づくりを目指しています。
参考文献
- International Association for the Study of Pain (IASP). Terminology: Central Sensitization.
- Woolf CJ. Central sensitization: Implications for the diagnosis and treatment of pain. Pain. 2011.
- Ji RR, Donnelly CR, Nedergaard M. Neuroinflammation and central sensitization in chronic and widespread pain. Anesthesiology. 2018.
- Nijs J, et al. Treatment of central sensitization in patients with chronic pain. Expert Opinion on Pharmacotherapy. 2014.
- Fossum C. Neurology Seminar(2026)
- Kuchera ML, Kuchera WA. Osteopathic Considerations in Systemic Dysfunction.
- Liem T. Cranial Osteopathy: Principles and Practice.
住所〒710-0061
岡山県倉敷市浜ノ茶屋1丁目162
休診日不定休・研修日
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