2026.07.06
  • 森田智史ブログ
慢性痛を長引かせる「神経の炎症」という新しい考え方

神経炎症

「炎症」と聞くと、腫れや熱感、赤みを思い浮かべる方が多いと思います。

しかし近年の疼痛研究では、神経そのものや神経の周囲で起こる炎症が、慢性痛の維持に大きく関わることが分かってきました。

これを神経炎症(Neuroinflammation)と呼びます。


神経炎症とは?

神経炎症とは、脳や脊髄、後根神経節(DRG)などの神経系で起こる免疫反応です。

従来、神経細胞(ニューロン)が痛みを伝える主役と考えられていました。

しかし現在では、ミクログリアアストロサイトと呼ばれるグリア細胞が、慢性痛の形成と維持に重要な役割を果たしていることが分かっています。

神経炎症では何が起こるのか?

組織の損傷や炎症が続くと、痛みの情報が繰り返し脊髄へ入力されます。

するとグリア細胞が活性化し、

  • TNF-α
  • IL-1β
  • IL-6

などの炎症性サイトカインを放出します。

その結果、

  • 神経細胞が興奮しやすくなる
  • 抑制系の働きが低下する
  • シナプスが再構築される
  • 痛みを増幅するフィードフォワードループが形成される

ことで、痛みが慢性化しやすくなります。

イメージすると、

組織への刺激
      ↓
侵害受容入力が持続
      ↓
グリア細胞(ミクログリア・アストロサイト)活性化
      ↓
炎症性サイトカイン放出
      ↓
神経が過敏になる
      ↓
中枢性感作
      ↓
慢性痛


神経炎症に関するエビデンス

Christian Fossum DOの神経学セミナーでは、

「後角のグリア細胞は炎症性サイトカインを放出し、脊髄性ファシリテーションや中枢性感作に重要な役割を果たす」

ことが紹介されています。

また、Jiらのレビューでは、

神経炎症は末梢性感作・中枢性感作を促進し、急性痛から慢性痛への移行に深く関与すると報告されています。

さらに神経炎症は単なる「痛みの結果」ではなく、慢性痛を維持する重要な要因として位置づけられています。

神経炎症が関与すると考えられている疾患

現在の研究では、神経炎症はさまざまな慢性疾患との関連が報告されています。

代表的なものとして、

  • 慢性腰痛
  • 線維筋痛症
  • 変形性関節症
  • 片頭痛
  • 複合性局所疼痛症候群
  • 過敏性腸症候群

などがあります。

もちろん、これらすべてが神経炎症だけで説明できるわけではありませんが、現在の疼痛科学では重要な病態の一つとして考えられています。


オステオパシーではどのように考えるのか

オステオパシーでは、

「神経炎症そのものを治療する」

とは考えません。

一方で、

神経炎症を維持しやすい身体環境を整えることは重要な臨床目標になると考えています。

Fossum DOは、疼痛に対するオステオパシーアプローチを

神経・循環・メカニカル

の3つの視点で整理しています。

① 神経学的アプローチ(Neural)

目的は、侵害受容入力を減らし、神経系への過剰な刺激を抑えることです。

評価部位の例

  • 上位頸椎
  • 胸椎
  • 神経モビリティ
  • 硬膜システム
  • 自律神経のバランス

Fossum DOは、後頭下リリースやリブレイジングなどを通して、迷走神経活動の正常化や交感神経活動の調整を目標として挙げています。

② 循環アプローチ(Circulatory)

神経炎症では、炎症性物質や組織液の停滞も考慮します。

そのため、

  • 胸郭入口部
  • 横隔膜
  • 静脈還流
  • リンパドレナージ

などを評価します。

Fossum DOは、リンパ還流の改善が炎症・神経炎症の収束を助ける可能性について紹介しています。

③ メカニカルアプローチ(Mechanical)

神経炎症を維持する背景には、侵害受容入力の持続があります。

そのため、

  • 関節可動性
  • 筋膜
  • 呼吸運動
  • 姿勢
  • 運動連鎖

などを評価し、侵害受容刺激が繰り返される要因を探します。

穏やかな関節モビライゼーションやBLT、カウンターストレインなどは、侵害受容入力を減らすことを目的とした代表的なアプローチです。

まとめ

神経炎症は、現在の疼痛科学において慢性痛を理解するうえで重要なキーワードの一つです。

神経細胞だけでなく、グリア細胞や免疫反応が痛みの持続に関与することが明らかになってきました。

オステオパシーでは、こうした知見を踏まえながら、

  • 神経
  • 循環
  • メカニカル

という3つの視点から身体全体を評価し、侵害受容入力や神経系への負担を減らすことを目指します。

神経炎症を一つの原因として断定することはできませんが、現在の医学とオステオパシーを組み合わせて考えることで、慢性痛をより多角的に理解することができます。


参考文献

  • Ji RR, Donnelly CR, Nedergaard M. Neuroinflammation and Central Sensitization in Chronic and Widespread Pain. Anesthesiology. 2018.
  • Woolf CJ. Central sensitization: Implications for the diagnosis and treatment of pain. Pain. 2011.
  • Willard FH, Jerome JA, Elkiss ML, Schaible HG. 神経炎症・グリア細胞に関するレビュー(Fossumセミナー引用)
  • Christian Fossum DO. Introduction to Pain(2026)
  • Christian Fossum DO. Visceral Pain and OMT(2026)