2026.07.08
  • 森田智史ブログ
末梢性感作と中枢性感作の違い

なぜ痛みは長引くのでしょうか?

ケガをすると痛みが出ます。

これは身体を守るために必要な反応です。

しかし、通常であれば組織が治癒すると痛みは徐々に軽減していきます。

一方で、

「傷は治ったはずなのに痛みが続く」

「軽く触れただけでも痛い」

という方もいます。

近年の疼痛科学では、この背景に**感作(Sensitization)**という現象があることが分かってきました。

感作には、

  • 末梢性感作(Peripheral Sensitization)
  • 中枢性感作(Central Sensitization)

の2つがあります。


末梢性感作とは

末梢性感作とは、

ケガや炎症が起こった部位の侵害受容器(痛みセンサー)が敏感になる状態です。

例えば捻挫をすると、

炎症によって

  • プロスタグランジン
  • ブラジキニン
  • ATP
  • 水素イオン
  • サイトカイン

などの炎症性物質が放出されます。

これらが侵害受容器の閾値を低下させ、

通常より弱い刺激でも痛みを感じやすくなります。

これは組織を保護するための正常な生体反応です。


末梢性感作の特徴

  • 痛みは傷ついた部位に限局する
  • 炎症が落ち着くと改善しやすい
  • 圧痛が明確
  • 熱感・腫脹を伴うことがある
  • 急性痛で多くみられる

中枢性感作とは

一方、中枢性感作は、

脊髄や脳など中枢神経系が過敏になった状態です。

痛みの情報が何週間、何か月も繰り返し入力されることで、

脊髄後角では

  • WDRニューロン
  • グリア細胞(ミクログリア・アストロサイト)

が活性化します。

その結果、

炎症性サイトカインやBDNFなどが放出され、

神経細胞は興奮しやすい状態になります。

これが慢性痛の維持につながると考えられています。


中枢性感作の特徴

  • 痛みの範囲が広い
  • 軽く触れただけでも痛い(アロディニア)
  • 強い痛みを感じやすい(痛覚過敏)
  • 左右反対側にも痛みが出ることがある
  • 天候やストレス、睡眠不足で悪化しやすい
  • MRIやレントゲンでは説明できないことがある

国際疼痛学会(IASP)は、中枢性感作を

「中枢神経系の侵害受容ニューロンが通常または閾値以下の刺激に対して反応性を高めた状態」

と定義しています。


比較すると分かりやすい

末梢性感作中枢性感作
主な場所侵害受容器脊髄・脳
原因炎症・組織損傷神経の過興奮
痛みの範囲局所広範囲
期間急性期が多い慢性化しやすい
特徴押すと痛い軽い刺激でも痛い


オステオパシーではどのように考えるのか

オステオパシーでは、

末梢性感作と中枢性感作では評価の視点が異なります。

① 末梢性感作

目的は、

侵害受容入力を減らすことです。

評価するのは、

  • 関節
  • 筋膜
  • 靭帯
  • 内臓
  • 神経モビリティ
  • 局所循環

など。

組織への機械的ストレスや炎症が持続すると、侵害受容入力が増え続けるため、その背景を評価します。


② 中枢性感作

中枢性感作では、

局所だけでは十分に説明できないことがあります。

そのため当院では、

神経(Neural)

  • 自律神経バランス
  • 神経モビリティ
  • 上位頸椎
  • 胸椎
  • 硬膜システム

循環(Circulatory)

  • 胸郭入口部
  • 横隔膜
  • 静脈還流
  • リンパ還流

メカニカル(Mechanical)

  • 呼吸
  • 胸郭
  • 姿勢
  • 身体全体の運動連鎖

などを評価します。

目的は、神経系へ繰り返し入力される侵害受容刺激を減らし、神経が過敏になり続ける環境を改善することです。


まとめ

痛みが長引く理由は、一つではありません。

急性期では末梢性感作が中心であることが多く、

慢性化すると中枢性感作が関与する場合があります。

現在の疼痛科学では、これらを区別して考えることが重要とされています。

オステオパシーでも、

「痛い場所だけを見る」のではなく、

神経・循環・メカニカルという視点から、なぜ侵害受容入力が続いているのかを全身で評価します。

その結果、一人ひとりに異なる痛みの背景を考察しながら施術方針を組み立てています。


参考文献

  • Clifford J. Woolf. Central sensitization: Implications for the diagnosis and treatment of pain. Pain. 2011.
  • Ru-Rong Ji, et al. Neuroinflammation and Central Sensitization in Chronic and Widespread Pain. Anesthesiology. 2018.
  • International Association for the Study of Pain. Terminology: Central Sensitization.
  • Johan Nijs, et al. Treatment of central sensitization in patients with chronic pain. Expert Opinion on Pharmacotherapy. 2014.
  • Christian Fossum. Introduction to Pain(2026).
  • Michael Kuchera, William Kuchera. Osteopathic Considerations in Systemic Dysfunction.