2026.07.24
  • 森田智史ブログ
パニック障害とは?

「また発作が起こるかもしれない…」

パニック障害は「神経が反応しやすくなった状態」です

突然、動悸や息苦しさ、胸の苦しさ、めまい、手足の震えなどに襲われ、「このまま倒れてしまうのでは」「死んでしまうのでは」と強い恐怖を感じることがあります。

救急外来を受診し、心臓や肺などを詳しく調べても異常が見つからないことも少なくありません。

このような状態をパニック障害と呼びます。

近年の神経科学では、パニック障害は「気の持ちよう」や「性格の弱さ」ではなく、脳と自律神経が過敏に反応しやすくなった状態であることがわかってきています。

今回は、パニック障害がなぜ起こるのかを神経科学の視点から解説し、オステオパシーではどのように身体を評価しているのかをご紹介します。


パニック発作が起こりやすい場面

パニック発作は、どこでも同じように起こるわけではありません。

特に、

  • すぐにその場を離れにくい
  • 自分の意思で中断しにくい
  • 助けを求めにくい
  • 過去に症状が出た経験がある

と感じる状況で起こりやすくなります。

代表的な場面として、次のようなものがあります。

① 身動きを取りにくい場所

美容室や歯科医院、MRI検査など、一定時間その場を離れにくい状況です。

「途中で苦しくなったらどうしよう」という予期不安が、神経の緊張を高めることがあります。

② すぐに停車・退出できない移動中

車の運転中、高速道路、長いトンネル、電車などです。

「ここで症状が出てもすぐに逃げられない」と感じることで、身体の小さな変化に注意が向きやすくなります。

③ 人前で自由に動きにくい場面

職場の会議、接客中、学校行事などです。

「周囲に迷惑をかけられない」「途中で抜けられない」という緊張が、発作への不安を強めることがあります。

④ 過去に発作が起きた場所や似た状況

以前に発作を経験した場所に近づくだけで、脳がその環境を危険と判断することがあります。

これは**恐怖条件づけ(Fear Conditioning)**と呼ばれ、実際に危険がなくても自律神経が先に反応する原因になります。

これらの場所自体が原因ではありません。

脳が「また起こるかもしれない」と学習し、危険察知システムが敏感になっていることが背景にあります。


パニック障害で脳の中では何が起きているのでしょうか?

私たちの脳には、命を守るための**危険察知システム(Threat Detection System)**があります。

例えば本当に危険な場面では、

  • 心拍数が上がる
  • 呼吸が速くなる
  • 筋肉が緊張する

など、身体を「戦う・逃げる」状態へ切り替えます。

これは命を守るために必要な正常な反応です。

しかしパニック障害では、このシステムが必要以上に敏感になっています。

実際には危険がないにもかかわらず、

「危険だ!」

と脳が誤って判断し、身体が全力で反応してしまうのです。


神経科学からみたパニック障害

① 扁桃体(Amygdala)の過活動

扁桃体は「恐怖」を感じる中枢です。

危険を素早く察知し、身体を守るために働きます。

パニック障害では、この扁桃体が通常よりも敏感に反応していることが、多くのMRI研究で報告されています。


② 前頭前野の働きが低下する

前頭前野は、

「これは危険ではない」

「落ち着いて大丈夫」

と判断するブレーキ役です。

しかし慢性的なストレスや睡眠不足が続くと、このブレーキ機能が弱くなり、扁桃体の興奮を十分に抑えられなくなります。


③ 青斑核(Locus Coeruleus)の興奮

青斑核はノルアドレナリンを分泌する脳の中枢です。

ここが興奮すると、

  • 動悸
  • 息苦しさ
  • 発汗
  • 手足の震え
  • めまい

などの症状が一気に現れます。

身体は「危険から逃げる準備」を始めている状態です。


④ HPA軸(ストレス応答系)の活性化

慢性的なストレスでは、

視床下部

下垂体

副腎

というHPA軸が活性化し、コルチゾールなどのストレスホルモンが分泌されます。

この状態が長く続くと、自律神経のバランスが崩れ、神経はさらに過敏になっていきます。


⑤ 神経伝達物質のバランス

パニック障害では、

  • セロトニン
  • GABA
  • ノルアドレナリン

などの神経伝達物質も関与していることが知られています。

これらは脳の興奮や不安を調整する重要な役割があり、バランスが崩れることで不安や恐怖を感じやすくなると考えられています。


「また起こるかもしれない」が発作を繰り返す理由

パニック障害では、一度強い発作を経験すると、

「また起こるかもしれない」

という予期不安が生まれます。

すると脳は、その場所や状況を危険と学習し、身体のわずかな変化にも敏感になります。

例えば、

少し心拍数が上がっただけで、

「また発作だ」

と脳が判断してしまい、

さらに交感神経が興奮し、

動悸が強くなり、

「やっぱり発作だった」

という悪循環に入ってしまいます。


オステオパシーではどのように考えるのか

オステオパシーでは、パニック障害そのものを治療するものではありません。

私たちは、

神経が過敏になりにくい身体環境を整えること

を目的として身体全体を評価します。

特に確認することが多いのは、

  • 頭蓋
  • 上部頸椎
  • 胸椎
  • 胸郭
  • 横隔膜
  • 呼吸の動き
  • 筋膜の緊張
  • 循環やリンパの流れ

です。

呼吸がしやすくなり、身体の緊張が和らぐことで、不安が軽減しやすくなる方もいます。

※オステオパシーは医療機関での診断・治療や薬物療法に代わるものではなく、身体機能の改善を通して回復をサポートすることを目的としています。


日常生活で気を付けたいこと

神経が過敏になっているときは、

  • 睡眠不足
  • 慢性的な疲労
  • 強いストレス
  • カフェインの摂り過ぎ
  • 飲酒
  • 呼吸が浅い状態

などが症状を悪化させることがあります。

十分な睡眠、適度な運動、深い呼吸を意識することも、神経の回復を支える大切な要素です。


まとめ

パニック障害は、「気の持ちよう」ではありません。

近年の研究では、扁桃体・前頭前野・青斑核・HPA軸・神経伝達物質などが関わる、脳と自律神経の反応性が高まった状態であることがわかっています。

まずは医療機関で適切な診断・治療を受けることが大切です。

そのうえで、身体全体の緊張や呼吸、姿勢などにも目を向けることで、回復を支える一つの方法になる可能性があります。


リンク
Vol.001
喉のつかえ感・息苦しさ・動悸・不安感…
その不調、自律神経の緊張が関係しているかもしれません

Vol.002
パニック障害とは?
「また発作が起こるかもしれない…」

Vol.003
自律神経失調症とは?
検査では異常がない。でも体調が戻らない…

Vol.004
動悸とは?
心臓は異常ないと言われたのに、ドキドキが止まらない…

Vol.005
息苦しさとは?
酸素は足りていると言われたのに、息が吸えない…

Vol.006
めまいとは?
検査では異常がない。でも、ふわふわ・グルグルする…

Vol.007 
不眠とは?
「眠れないのは脳が休めていないからかもしれません」

Vol.008 
頭痛とは?
「頭痛は脳だけでなく、首や顎が関係していることもあります」

Vol.009 
首こり・肩こり
「筋肉を揉んでも、すぐに戻るのはなぜ?」

Vol.010
食いしばり・歯ぎしり・顎関節とは?
「顎は、全身の影響を受けながらバランスを調節しています」


参考文献

  • American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders (DSM-5-TR).
  • Gorman JM, Kent JM, Sullivan GM, Coplan JD. Neuroanatomical hypothesis of panic disorder. Am J Psychiatry.
  • Shin LM, Liberzon I. The neurocircuitry of fear, stress, and anxiety disorders. Neuropsychopharmacology.
  • Etkin A, Wager TD. Functional neuroimaging of anxiety disorders. Am J Psychiatry.
  • Porges SW. The Polyvagal Theory.
  • Bernardi L, et al. Autonomic dysfunction and panic disorder. Mayo Clinic Proceedings.


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