- 森田智史ブログ
自律神経シリーズ Vol.011
耳だけでなく、脳・首・顎・自律神経が関係することもあります
「キーンという高い音が続く」
「ジー、ザーという音が聞こえる」
「静かな場所や寝る前になると気になる」
耳鳴りとは、外部に音源がないにもかかわらず、本人には音が聞こえる状態です。
耳鳴りの多くは聴覚系の変化に関係しますが、すべてを耳だけの問題として説明できるわけではありません。
一部の耳鳴りでは、首や顎の動き、筋肉の緊張、姿勢、睡眠、注意の向き方などによって、音の大きさや高さが変化します。
そのため、まず耳鼻咽喉科で耳や聴力を評価したうえで、身体との関係を確認することが重要です。

① 耳鳴りとは?
耳鳴りは、大きく「自覚的耳鳴り」と「他覚的・客観的耳鳴り」に分けられます。
自覚的耳鳴り
本人にだけ聞こえる耳鳴りです。
一般的な耳鳴りの多くがこのタイプで、
- キーン
- ピー
- ジー
- ザー
- ゴー
- セミが鳴くような音
など、聞こえ方には個人差があります。
片耳だけに聞こえる場合もあれば、両耳や頭の中央から聞こえるように感じる場合もあります。
拍動性耳鳴り
「ドクドク」「ザーザー」など、脈拍と同じリズムで聞こえる耳鳴りです。
血管などが関係している可能性があるため、持続する拍動性耳鳴りには画像検査を含む医学的評価が推奨されています。(ナイス)
まず耳鼻咽喉科を受診すべき耳鳴り
次のような症状がある場合は、オステオパシーの施術より先に医療機関を受診してください。
- 突然、耳が聞こえにくくなった
- 片耳だけの耳鳴りが持続する
- 脈拍に合わせて音が聞こえる
- 強いめまいやふらつきを伴う
- 顔や手足の麻痺、ろれつの回りにくさを伴う
- 耳鳴りとともに急激に聴力が低下した
特に、3日以内に急激な難聴が起こり、その発症から30日以内である場合は、24時間以内を目安とした耳鼻咽喉科での評価が推奨されています。(ナイス)
② なぜ耳鳴りが起こるのでしょうか?
音は、空気の振動が外耳から中耳へ伝わり、内耳の蝸牛で神経信号へ変換されることで認識されます。
その信号は、
蝸牛
↓
聴神経
↓
蝸牛神経核
↓
上オリーブ核
↓
下丘
↓
視床の内側膝状体
↓
聴覚野
という経路を通って脳へ伝わります。
耳鳴りは「耳の中で実際に音が鳴っている」というより、聴覚系のどこかで変化した神経活動を、脳が音として認識している状態と考えられています。
聴覚入力の低下と「中枢ゲイン」
難聴や大きな音への曝露などによって内耳から脳へ届く聴覚情報が減少すると、脳は弱くなった入力を補おうとして、聴覚経路の感度を高めることがあります。
これは一般に「中枢ゲインの増加」と呼ばれます。
音量を上げるためにアンプの感度を高めるように、脳内の神経活動が増幅され、その過程で本来は意識されない神経活動が耳鳴りとして認識される可能性があります。
通常の聴力検査が正常でも、内有毛細胞と聴神経の間のシナプスに変化が生じる「蝸牛シナプソパチー」が隠れている可能性も研究されています。ただし、ヒトの耳鳴りにおける役割については研究結果が一致しておらず、すべての耳鳴りを説明できるものではありません。(PubMed)
③ 神経科学からみた耳鳴り
慢性的な耳鳴りでは、蝸牛や聴神経だけでなく、脳幹から大脳皮質までの神経ネットワークに変化がみられることがあります。
研究では、蝸牛神経核、視床、聴覚野などで神経活動や接続性の変化が報告されていますが、耳鳴りにはさまざまなタイプがあり、すべての人に共通する一つの脳内パターンが確立されているわけではありません。(PubMed)
また、同じ程度の音が聞こえていても、
- それほど気にならない人
- 睡眠や集中に大きく影響する人
- 不安や恐怖を強く感じる人
がいます。
この違いには、聴覚系だけでなく、注意・情動・重要性を判断するネットワークが関係すると考えられています。
耳鳴りを「危険な音」「消えない異常」と脳が認識すると、注意が耳鳴りへ向きやすくなります。すると、音を監視する状態が続き、さらに耳鳴りを強く感じるという循環が生じることがあります。耳鳴りによる苦痛の強さには、注意ネットワークやサリエンスネットワークなどの機能的なつながりが関係することが報告されています。(PubMed)
④ 首や顎が関係する「体性感覚性耳鳴り」
耳鳴りの中には、頭・首・顎から入る感覚情報によって、音の大きさや高さが変化するタイプがあります。
これを「体性感覚性耳鳴り」と呼びます。
次のような特徴がある場合は、首や顎の関与が疑われます。
- 首を動かすと耳鳴りの音が変わる
- 顎を開く、噛みしめる、左右へ動かすと音が変わる
- 首こりや肩こりと耳鳴りが同時に悪化する
- 顎関節症や食いしばりがある
- 頭頸部の外傷後から耳鳴りが始まった
- 首や顎の症状が強い日に耳鳴りも強くなる
ただし、「首を動かして音が変わる」という所見だけで、首が耳鳴りの原因だと断定することはできません。複数の特徴を組み合わせて評価することが重要です。体性感覚性耳鳴りの診断を支援する臨床基準では、複数項目を用いた判断に一定の診断精度が報告されています。(PubMed)
首や顎の情報は、聴覚経路へ届いている
脳幹にある蝸牛神経核は、耳からの聴覚情報だけを受け取っているわけではありません。
頸部や顎、顔面からの体性感覚情報も、脳幹の神経核を介して蝸牛神経核へ入力します。
特に背側蝸牛神経核では、聴覚情報と体性感覚情報が統合され、首や顎からの入力によって神経細胞の発火が促進または抑制されることが動物研究で確認されています。
この聴覚と体性感覚の統合が、首や顎の動きによって耳鳴りが変化する神経学的な背景の一つと考えられています。(PubMed)
顎関節症と耳鳴り
耳鳴りのある人では、顎関節症や咀嚼筋の問題が併存することがあります。
近年の系統的レビューでも、耳鳴りと顎関節症の間に関連が示されています。ただし、顎関節症が耳鳴りを直接引き起こすと証明されたわけではなく、両者には共通する神経学的・筋骨格系の要因が存在する可能性があります。(PubMed Central (PMC))
特に、
- 食いしばり
- 歯ぎしり
- 顎の痛み
- 開閉時のクリック音
- 口の開けにくさ
- こめかみの緊張
を伴う場合は、顎関節と咀嚼筋も評価する必要があります。
⑤ 自律神経と耳鳴りの関係
ストレスや睡眠不足によって、内耳そのものが直ちに損傷するという意味ではありません。
しかし、身体が緊張した状態では、
- 心拍数の上昇
- 呼吸の浅さ
- 首・顎の筋緊張
- 音への警戒
- 睡眠の質の低下
などが同時に生じやすくなります。
その結果、耳鳴りへ注意が向き、普段より大きく感じることがあります。
耳鳴りが気になる
↓
不安や緊張が高まる
↓
首や顎へ力が入る
↓
睡眠が浅くなる
↓
さらに耳鳴りが気になる
という循環が続く場合もあります。
このため、耳鳴りへの対応では「音を完全に消すこと」だけを追い求めるのではなく、睡眠、呼吸、身体の緊張、注意の向き方を含めて、耳鳴りによる生活への影響を小さくすることも大切です。
⑥ オステオパシーではどう考える?
耳鳴りがある場合、最初に耳鼻咽喉科で耳・聴力・神経・血管などの問題がないかを確認することが重要です。
そのうえで、首や顎の動きによって耳鳴りが変化する場合や、首こり・顎関節症を伴う場合には、身体機能の評価が役立つ可能性があります。
森田治療室では、主に次のような点を確認します。
- 上部頸椎と後頭部の可動性
- 頸椎全体の動きと運動制御
- 後頭下筋群や斜角筋の緊張
- 顎関節の開閉・左右差
- 咬筋・側頭筋・翼突筋
- 舌・舌骨・口腔底
- 胸椎・肋骨・横隔膜
- 呼吸パターン
- 肩甲帯と姿勢
- 耳鳴りが変化する動作や姿勢
オステオパシーでは、耳鳴りそのものを直接治療するのではなく、身体全体を評価し、神経・関節・筋肉・呼吸などが働きやすい身体環境を整えることを目的としています。
徒手療法の医学的根拠
体性感覚性耳鳴りに対する頸部・顎への徒手療法、運動療法、生活指導を組み合わせた研究では、耳鳴りの強さや生活への影響が軽減したという報告があります。
2026年に発表された小規模な無作為化比較試験では、ホームエクササイズだけを行う群と比較して、徒手療法を組み合わせた群で、耳鳴りの強さ、首の痛み、Tinnitus Handicap Inventoryなどに改善が報告されました。ただし、対象者は31名であり、特定の体性感覚性耳鳴りに限られた研究です。(PubMed)
また、顎関節症に伴う耳鳴りを対象とした研究でも、運動・教育に頸部と顎への徒手療法を加えた群で改善が報告されています。(PubMed)
一方、系統的レビューでは、対象となった研究数が少なく、研究方法にもばらつきがあるため、エビデンスの確実性は低い、または非常に低いと評価されています。すべての耳鳴りに徒手療法が有効という意味ではありません。(PubMed)
⑦ 耳鳴り改善の目標
慢性的な耳鳴りでは、最初から「音を完全になくすこと」だけを目標にすると、音を常に確認する習慣が強くなることがあります。
最初の目標は、
- 耳鳴りを気にしない時間が増える
- 寝つきや睡眠が改善する
- 音が変化しても不安になりにくくなる
- 首や顎の緊張が減る
- 日常生活や仕事への影響が少なくなる
ことです。
次の段階として、
- 音の大きさが軽減する
- 強く感じる日の頻度が減る
- 首や顎を動かしても耳鳴りが変化しにくくなる
という変化を目指します。
耳鳴りの音が完全に消えなくても、脳が重要な刺激として扱わなくなり、生活への支障が少なくなることは大切な改善です。
日常生活でできること
完全な無音を避ける
静かな場所では耳鳴りとの音量差が大きくなり、意識が向きやすくなります。
就寝時には、小さな環境音、換気扇、雨音などを利用すると、耳鳴りへ注意が集中しにくくなることがあります。
顎の力を抜く
安静時には、上下の歯を接触させないよう意識します。
唇は軽く閉じ、上下の歯の間にわずかな隙間をつくります。
首を強く揉みすぎない
体性感覚性耳鳴りでは首の状態が関係する可能性がありますが、強い刺激で耳鳴りが増えることもあります。
痛みのない範囲で、首や肩をゆっくり動かしてください。
大音量から耳を守る
コンサート、工事現場、大音量のイヤホンなどでは適切に耳を保護します。
一方で、日常生活の通常音まで過度に避け続けると、音への過敏さが強くなる可能性があるため、必要以上の耳栓使用には注意が必要です。
まとめ
✔ 耳鳴りは、外部に音源がなくても音を感じる状態
✔ 多くの場合、内耳から脳へ続く聴覚経路の変化が関係する
✔ 聴覚入力が低下すると、脳が感度を高める中枢ゲインが関与する可能性がある
✔ 一部の耳鳴りでは、首や顎からの体性感覚情報が背側蝸牛神経核へ影響する
✔ 首や顎の動きで音が変化する場合は、体性感覚性耳鳴りの可能性を評価する
✔ 徒手療法や運動が役立つ可能性はあるが、対象は限定的で、医学的根拠はまだ十分ではない
✔ 突然の難聴、片側性、拍動性、神経症状を伴う耳鳴りは医療機関での評価が重要
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参考文献
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