2026.08.04
  • 森田智史ブログ
便秘は腸の動きだけが原因ではない?

自律神経シリーズ Vol.016

自律神経・直腸感覚・骨盤底から考える慢性便秘症

「何日も便が出ない」

「毎日出ているけれど、残っている感じがする」

「便が硬く、強くいきまないと出ない」

「出口で引っかかるような感覚がある」

このような状態には、慢性便秘症が関係していることがあります。

便秘というと、単純に「腸の動きが悪い」「食物繊維が不足している」と考えられがちです。

しかし実際には、便の水分量、大腸の運動、便意を感じる直腸感覚、腹圧、横隔膜、骨盤底筋、自律神経、薬の影響など、複数の要素が関係します。

そのため、野菜や水分を増やすだけでは改善しない便秘も少なくありません。

① 慢性便秘症とは?

便秘は、排便回数だけで判断するものではありません。

一般的には、

  • 排便回数が少ない
  • 便が硬い
  • 強くいきむ必要がある
  • 出口が塞がっている感じがする
  • 排便しても残っている感じがする
  • 指などで排便を補助する必要がある

といった状態が問題になります。

毎日便が出ていても、強いいきみや残便感が続いていれば、便秘に含まれる可能性があります。

日本の『便通異常症診療ガイドライン2023』では、回数の減少だけでなく、便を十分かつ快適に排出できない状態を含めて評価し、結腸機能、直腸肛門機能、便意などを確認することが重視されています。(Mindsガイドライン)

② 便秘には異なるタイプがあります

慢性便秘症は、すべて同じ原因で起こるわけではありません。

腸管通過が遅くなるタイプ

大腸が便を送り出す速度が低下し、排便回数が少なくなるタイプです。

便が大腸内に長く留まるほど水分が吸収され、硬くなりやすくなります。

食事量の低下、活動量の減少、加齢、薬剤、神経や筋肉の働きなどが関係することがあります。

排便がうまくできないタイプ

便が直腸まで来ているにもかかわらず、出口からうまく排出できない状態です。

排便時には、腹部の圧力を高めながら、肛門括約筋や骨盤底筋を適切に緩める必要があります。

ところが、いきむ時に骨盤底筋が十分に緩まなかったり、反対に締まったりすると、

  • 出口で止まる
  • 何度もトイレへ行く
  • 長時間座っても出ない
  • 強くいきむ
  • 残便感が続く

といった症状が起こります。

このような排便協調障害では、単純に腸を刺激するだけでは改善しにくく、直腸肛門内圧検査やバルーン排出検査などで評価し、専門的なバイオフィードバック療法が検討されます。(Mindsガイドライン)

病気や薬が原因となるタイプ

便秘の背景には、

  • 甲状腺機能低下症
  • 糖尿病
  • パーキンソン病などの神経疾患
  • 大腸や直腸の病気
  • オピオイド鎮痛薬
  • 抗コリン作用のある薬
  • 鉄剤
  • 一部の降圧薬

などが隠れている場合もあります。

慢性便秘症では、まず器質的疾患、全身疾患、薬剤による二次性便秘を除外し、その後に便秘の病態を評価することが推奨されています。(PubMed)

③ 自律神経と便秘の関係

大腸の収縮や分泌、血流は、腸管神経系と自律神経によって調節されています。

睡眠不足、生活リズムの乱れ、環境の変化、強い緊張などが続くと、自律神経やホルモンの反応が変化し、腸の動きや便意にも影響する可能性があります。

しかし、

「便秘のほとんどは自律神経が原因」

「副交感神経を高めれば便が出る」

と単純に考えることはできません。

便秘には、腸の通過時間、便の硬さ、食事、薬剤、直腸感覚、排便姿勢、骨盤底の協調などが複雑に関係しています。

自律神経はその中の重要な一要素です。

森田治療室に来院される方では、

  • 常に身体へ力が入っている
  • 呼吸が浅い
  • 仕事中に便意を我慢している
  • 外出先のトイレを避ける
  • 睡眠によって回復できない
  • 旅行や環境の変化で便秘になる

といった状態が重なっていることがあります。

緊張状態が続くことで、便意に気づきにくくなったり、排便時にも腹部や骨盤底の力を抜けなくなったりする可能性があります。

④ 「便意を感じにくい」ことも便秘の原因になります

便が直腸へ移動すると、直腸の壁が広がり、その情報が神経を通して脳へ送られます。

これが便意です。

しかし、便意を繰り返し我慢したり、便が直腸に長く溜まった状態が続いたりすると、直腸が広がり、便意を感じにくくなる場合があります。

便意が弱い

排便する機会を逃す

便の水分がさらに吸収される

便が硬くなる

排便時に痛みや強いいきみが生じる

さらに排便を避ける

という循環につながります。

便秘の評価では、便の回数だけでなく、直腸感覚や便意が病態に関係しているかを確認することも重要です。(Mindsガイドライン)

⑤ 骨盤底は「鍛える」だけではありません

骨盤底筋は、膀胱、子宮、直腸などを下から支える筋肉です。

尿漏れ対策として「骨盤底筋を締める」という情報は多くありますが、排便時には適切に緩む必要があります。

便秘があるからといって、骨盤底筋を強く締める運動ばかり行うと、もともと力が抜けにくい方では、排便がさらに難しくなる可能性があります。

排便には、

  • 横隔膜が下がる
  • 腹圧が高まる
  • 直腸が収縮する
  • 骨盤底筋と肛門括約筋が緩む
  • 身体を前傾させる

という協調が必要です。

この連動が崩れている場合は、「筋力不足」ではなく、力を入れる場所と抜く場所の調整が問題になっている可能性があります。

排便協調障害に対するバイオフィードバック療法は、骨盤底筋の適切な弛緩と腹圧の使い方を学習する方法で、成人では有効性が示されています。(PubMed)

⑥ 子どもの便秘では「我慢の連鎖」が起こります

子どもの機能性便秘も珍しくありません。

一度、硬い便で痛い思いをすると、子どもは排便を避けようとします。

  • 足を交差する
  • お尻を締める
  • つま先立ちになる
  • 部屋の隅へ隠れる
  • トイレへ行くのを嫌がる

といった行動がみられることがあります。

本人はいきんでいるように見えても、実際には便を出さないように我慢している場合があります。

我慢すると便がさらに硬くなり、次の排便も痛くなるため、悪循環が続きます。

便が大量に溜まると、その周囲から軟らかい便が漏れ、下痢や便失禁のように見えることもあります。

2026年に公表された小児機能性便秘の診療経路では、問診と身体診察を基本に、食事、排便習慣、薬物療法などを組み合わせ、必要に応じて専門医へ紹介することが示されています。神経発達特性を持つ子どもへの配慮も重視されています。(PubMed)

子どもの便秘は「野菜を食べないから」「我慢するから」と責めるのではなく、痛み、感覚過敏、トイレ環境、学校生活、姿勢なども含めて考える必要があります。

⑦ オステオパシーではどう考える?

オステオパシーでは、便を直接押し流したり、腸だけを刺激したりすることを目的にはしません。

森田治療室では、

  • 頭頸部と自律神経系
  • 胸椎・腰椎・仙骨
  • 肋骨と胸郭
  • 横隔膜と呼吸
  • 腹壁の緊張
  • 腹部組織の可動性
  • 骨盤と股関節
  • 骨盤底と腹圧の協調
  • 姿勢と全身の負荷
  • 睡眠や排便習慣

などを総合的に評価します。

オステオパシーでは身体全体を評価し、神経・呼吸・循環・関節・筋膜などが働きやすい身体環境を整えることを目的としています。

目標は「施術を受けたら便が出る」という一時的な反応だけではありません。

便意を感じ、無理に力まず、自然に排便できるための余裕が身体にあることを目指します。

2025年の系統的レビューでは、腹部マッサージなどを含む手技療法が、機能性便秘の重症度、排便回数、生活の質などを改善した可能性が報告されました。ただし、研究間の違いが大きく、オステオパシー特有の効果を証明したものではないため、慎重に解釈する必要があります。(PubMed)

⑧ 日常生活でできること

便意を我慢しすぎない

仕事や学校で便意を繰り返し我慢すると、排便の機会を逃しやすくなります。

可能であれば、朝食後など腸が動きやすい時間に、数分間トイレへ座る習慣をつくります。

足元に台を置く

足が床につかない状態では、腹圧を使いにくくなります。

足台を使用して膝を股関節より少し高くし、軽く前傾すると排便しやすくなることがあります。

ただし、長時間強くいき続けることは避けてください。

食物繊維を急に増やさない

食物繊維は便秘に用いられますが、急に増やすと、お腹の張りやガスが悪化する場合があります。

便排出障害や強い腹部膨満がある場合は、食物繊維だけでは改善しないこともあります。

水分、食事量、症状を確認しながら少しずつ調整します。

下剤を自己判断で中止しない

慢性便秘症では、生活習慣や食事だけでなく、浸透圧性下剤、分泌を促す薬、消化管運動に関係する薬などが必要になる場合があります。

薬にはそれぞれ特徴があるため、「下剤は癖になる」と一括りにせず、医師や薬剤師と相談してください。国内外のガイドラインでも、便秘の病態や症状に応じて薬を選択することが推奨されています。(PubMed)

医療機関へ相談してほしい症状

次のような症状がある場合は、自律神経や体質の問題と自己判断せず、消化器内科や小児科へ相談してください。

  • 血便、黒い便
  • 意図しない体重減少
  • 貧血
  • 発熱
  • 強い腹痛や腹部膨満
  • 嘔吐
  • 急に始まった便秘
  • 便が極端に細くなった状態が続く
  • 家族に大腸がんや炎症性腸疾患の方がいる
  • 子どもの成長や体重増加の低下
  • 乳児期から続く強い便秘

まとめ

便秘は、単に便が毎日出ない状態ではありません。

腸の通過速度、便の硬さ、直腸感覚、排便姿勢、腹圧、骨盤底筋、自律神経、薬剤などが複雑に関係しています。

特に、便が出口まで来ているのに出せない方では、腸の運動よりも、横隔膜・腹部・骨盤底の協調が問題になっている可能性があります。

オステオパシーでは便秘という症状だけを追いかけるのではなく、身体全体を評価し、人間本来の神経・呼吸・循環・排便のシステムが働きやすい環境を整えることを目的とします。

岡山・倉敷の森田治療室では、環境の変化があっても身体が過剰に緊張せず、便意に気づき、自然に排便できる「余裕のある状態」を目指します。


自律神経シリーズ バックナンバー

Vol.001
喉のつかえ感・息苦しさ・動悸・不安感…
その不調、自律神経の緊張が関係しているかもしれません

Vol.002
パニック障害とは?
「また発作が起こるかもしれない…」

Vol.003
自律神経失調症とは?
検査では異常がない。でも体調が戻らない…

Vol.004
動悸とは?
心臓は異常ないと言われたのに、ドキドキが止まらない…

Vol.005
息苦しさとは?
酸素は足りていると言われたのに、息が吸えない…

Vol.006
めまいとは?
検査では異常がない。でも、ふわふわ・グルグルする…

Vol.007 
不眠とは?
「眠れないのは脳が休めていないからかもしれません」

Vol.008 
頭痛とは?
「頭痛は脳だけでなく、首や顎が関係していることもあります」

Vol.009 
首こり・肩こり
「筋肉を揉んでも、すぐに戻るのはなぜ?

Vol.010
食いしばり・歯ぎしり・顎関節とは?
「顎は、全身の影響を受けながらバランスを調節しています」

Vol.011
耳鳴りとは?
耳だけでなく、脳・首・顎・自律神経が関係することもあります

Vol.012
眼精疲労・目の奥の痛みとは?
目だけでなく、ピント調節・涙・首・後頭部が関係することがあります

Vol.013
朝から疲れる・寝ても疲れが取れないのはなぜ?
脳脊髄液・グリンパティックシステム・脳内の老廃物排出から考える疲労

Vol.014
機能性ディスペプシアとは?
検査で異常がなくても、胃と脳の調節がうまく噛み合わないことがあります

Vol.015
過敏性腸症候群(IBS)とは?
腹痛・下痢・便秘を繰り返す「腸と脳の調節」の問題

Vol.016
便秘は腸の動きだけが原因ではない?
自律神経・直腸感覚・骨盤底から考える慢性便秘症


参考文献

  • 日本消化管学会編.『便通異常症診療ガイドライン2023―慢性便秘症』
  • Ihara E, et al. Evidence-Based Clinical Guidelines for Chronic Constipation 2023. Digestion. 2025.
  • Chang L, et al. AGA-ACG Clinical Practice Guideline: Pharmacological Management of Chronic Idiopathic Constipation. Gastroenterology. 2023.
  • Rodriguez L, et al. AGA-NASPGHAN Pediatric Functional Constipation Clinical Care Pathway. Clin Gastroenterol Hepatol. 2026.
  • Gordon M, et al. ESPGHAN/NASPGHAN Guidelines for Treatment of Functional Constipation in Children Aged 0–18 Years. J Pediatr Gastroenterol Nutr. 2026.
  • Rao SSC, et al. ANMS-ESNM Position Paper and Consensus Guidelines on Biofeedback Therapy for Anorectal Disorders. Neurogastroenterol Motil. 2015.
  • Effects of Manual Therapy on Patients with Functional Constipation: Systematic Review and Meta-analysis of Randomized Clinical Trials. J Manipulative Physiol Ther. 2025.