- 森田智史ブログ
自律神経シリーズ Vol.022|
「朝はそうでもないのに、夕方になるとお腹がパンパンになる」
「食事をすると、お腹が前に突き出してくる」
「便は出ているのに、膨満感だけが取れない」
「ガスがたくさん溜まっている感じがする」
「緊張すると、急にお腹が張って苦しくなる」
このような症状を、
「腸内環境が悪いから」
「ガスが多いから」
と考えている方は多いと思います。
もちろん、食事や腸内細菌、便秘なども関係します。
しかし、お腹の張りを考えるときに森田治療室が重視しているのは、腸の中だけではなく、胸腔・腹腔・骨盤腔全体の圧力がどのように調整されているかです。
その中心になるのが「隔膜」です。

お腹が膨れている=ガスが大量に増えている、とは限らない
これは非常に重要です。
実際にお腹が大きく膨らんでいる患者さんでも、画像検査では腸管内ガスがそれほど増えていないことがあります。
機能性消化管疾患で腹部膨満を訴える患者を調べた研究では、腹囲が明らかに増えていても、多くの患者で腸内ガス量の増加だけでは説明できませんでした。
その代わりに確認されたのが、
横隔膜が下へ収縮する
+
腹壁が前方へ弛緩する
という身体の反応です。(PubMed)
これは「abdominophrenic dyssynergia(腹壁‐横隔膜協調不全)」と呼ばれています。
つまり、
腸の中に何が入っているかだけではなく、身体が腹腔内容量をどう受け止めるか
がお腹の張りに関係しているのです。
ここは、オステオパシーで身体全体を評価する考え方とも非常に重なる部分です。
森田治療室では「隔膜の協調」を重要視します
オステオパシーでは、身体の中に存在する横方向の構造を「隔膜」として捉え、それぞれの可動性と相互関係を確認する考え方があります。
代表的には、
・小脳テント
・胸郭上口周囲、胸膜上膜
・横隔膜
・骨盤隔膜
などです。
もちろん、これらすべてが現代医学で一つの「圧力システム」として証明されているわけではありません。
特に小脳テントや胸膜上膜まで含めた全隔膜の協調という考え方は、オステオパシー独自の臨床モデルとして捉える必要があります。
一方、
呼吸横隔膜・腹壁・骨盤底が協調して胸腹腔内の圧力を調節している
ことについては、生理学的な裏付けがあります。
実際、MRIを用いた研究では、健康な女性では呼吸に合わせて横隔膜と骨盤底が同調して上下していることが確認されています。吸気では両方が尾側へ、呼気では頭側へ移動します。(PubMed)
つまり身体は、
横隔膜だけ
骨盤底だけ
腹筋だけ
で動いているわけではありません。
胸郭・横隔膜・腹壁・骨盤底が一つの圧力調整システムとして働いています。
なぜ「隔膜」が腸の働きに関係するのか
腹腔の中には、
胃
小腸
大腸
肝臓
膵臓
腎臓
など、多くの臓器があります。
これらは単にお腹の中へ置かれているわけではありません。
靱帯、間膜、腹膜、血管、筋膜などによって支持されながら、呼吸や身体運動に合わせてわずかに動いています。
その上下には、
上:呼吸横隔膜
下:骨盤隔膜
があります。
そして周囲を、
腹壁
腰椎
肋骨
骨盤
が囲んでいます。
この空間の圧力は常に一定ではなく、呼吸、姿勢、歩行、排便、食事などによって変化します。
横隔膜の運動は呼吸だけでなく、腹腔内圧や体幹安定にも関係しています。(PubMed)
そのため森田治療室では、
「腸を動かす」前に、腸が存在している空間そのものが動けているか
を確認します。
横隔膜だけを緩めればよいわけではありません
ここが重要です。
横隔膜だけが柔らかくても、骨盤底が過緊張していたり、胸郭上口が硬かったりすると、身体全体としての圧力調節はうまくいきません。
例えば吸気では、
胸郭が広がる
↓
横隔膜が下がる
↓
腹腔内圧が変化する
↓
腹壁と骨盤底がそれに対応する
という協調が必要です。
健康な身体では、この変化が非常に滑らかに行われています。
しかし、
・慢性的な浅い呼吸
・強いストレス
・長時間の座位
・猫背
・腹部を常に締めている
・骨盤底を無意識に力ませている
・過去の腹部手術
・妊娠、出産
・慢性的な腰痛
などがあると、この圧力調節が乱れることがあります。
その結果、
「息を吸うとお腹が苦しい」
「食後に一気に膨らむ」
「夕方になるとお腹が前に出る」
という状態につながる可能性があります。
実際に「横隔膜の使い方」で腹部膨満が変化する研究があります
これは非常に興味深い研究です。
機能性消化管疾患で腹部膨満がある患者では、食後などに、
横隔膜が本来とは逆に収縮して下がり、腹壁が前へ弛緩する
ことが確認されています。(PubMed)
さらに2024年のランダム化比較試験では、患者自身が胸腹部の動きを見ながら横隔膜と腹壁の使い方を修正するバイオフィードバックを行うことで、腹部膨満が有意に改善しました。
介入群では腹囲増加が抑えられ、腹部膨満の症状スコアも大きく減少しています。(PubMed)
これは、
「お腹が張る=ガスが増えている」だけではない
ことをかなり分かりやすく示しています。
呼吸と腹部の筋活動が変わるだけでも、見た目のお腹の膨らみや症状が変化するのです。
小脳テントから骨盤隔膜まで確認する理由
森田治療室では、横隔膜だけを単独で評価するのではなく、
小脳テント
↓
胸郭上口・胸膜上膜
↓
呼吸横隔膜
↓
骨盤隔膜
という縦方向の関係を確認します。
これはオステオパシー独自の評価モデルです。
小脳テント・頭頸部
頭頸部の緊張が非常に強い方では、
・食いしばり
・頭痛
・首こり
・睡眠が浅い
・呼吸が浅い
などを併発していることがあります。
自律神経の状態も含め、身体全体が常に緊張していないかを確認します。
胸郭上口・胸膜上膜
首から胸郭へ移行する部分です。
鎖骨、第1肋骨、上位胸椎周囲が硬いと、上部胸郭が呼吸に参加しにくくなります。
呼吸全体の広がりを考えるうえで重要な部位です。
呼吸横隔膜
胸腔と腹腔を隔てる中心的な構造です。
左右差、呼吸時の下降・上昇、肋骨との関係を確認します。
骨盤隔膜
腹腔圧を下方から受け止める部分です。
骨盤底が常に緊張していると、排便時に十分緩められず、
「便は出口まで来ているのに出ない」
「ガスを出しにくい」
「残便感がある」
といった症状につながることがあります。
内臓下垂も一つの視点として考える
オステオパシーの臨床では、腹腔内の支持や圧力バランスが崩れ、内臓が下方へ偏位しているように感じられるケースがあります。
いわゆる「内臓下垂」という考え方です。
ただし、この部分は少し整理して考える必要があります。
現代医学では、一般的な便秘や腹部膨満の主原因として「内臓下垂」が確立しているわけではありません。
例えば胃下垂については、胃下垂そのものが消化不良の原因とは限らないという研究もあります。(PubMed)
ですから、
「内臓が下がっているから腸が悪い」
と単純に考えるのは適切ではありません。
一方で、腹腔内容物の位置と、その周囲の筋・筋膜・圧力調節が互いに影響し合っていることは確かです。
そのため森田治療室では、
「内臓を上へ持ち上げる」
ことそのものを目的にするのではなく、
隔膜の可動性
+
胸郭の動き
+
腹圧の分散
+
骨盤底の協調
+
内臓周囲の組織の可動性
を改善し、内臓が本来の位置関係の中で動きやすい環境をつくることを重視します。
臨床的には、こうした身体環境が整うことで、腹部の圧迫感や排便のしにくさが変化するケースがあります。
腸そのものより「腸が入っている空間」を整える
これは今回の記事で最も伝えたい考え方です。
腸が働くためには、
腸そのものの蠕動だけではなく、
・十分な血流
・自律神経による調節
・腹腔内のスペース
・呼吸による圧力変化
・腸間膜の可動性
・骨盤底の緩み
・適切な姿勢
が必要です。
そのため、
「腸をマッサージすればよい」
「お腹を揉めばよい」
ではありません。
腸が自由に動ける環境そのものをつくる。
これがオステオパシーで大切にしている考え方です。
胸郭・腰椎・骨盤も一緒に確認します
隔膜だけを見ても、その隔膜が付着する骨格が動かなければ十分ではありません。
横隔膜は、
・下位肋骨
・胸骨
・腰椎
と関係しています。
骨盤隔膜は当然、骨盤の状態と関係します。
そのため、
・肋骨が横へ広がるか
・胸椎を伸展できるか
・腰椎が硬くなっていないか
・仙骨が動いているか
・骨盤の左右差があるか
・股関節が十分動くか
まで確認します。
「横隔膜が硬い」の背景に、実は肋骨の制限がある。
「骨盤底が緩まない」の背景に、股関節や仙骨の制限がある。
ということもあります。
一部分だけを追いかけず、構造全体を見る必要があります。
自律神経も同時に考える
そしてもう一つ欠かせないのが自律神経です。
ストレスが強いと、
「お腹が張る」
「便が出ない」
「急にガスが増えたように感じる」
という方がいます。
消化管と脳は双方向に情報をやり取りしており、IBSなどでは内臓知覚や腸管運動の変化が関係しています。
ですから、
隔膜
+
腹圧
+
腸の可動性
だけではありません。
身体が常に緊張しているのか、それとも休息へ切り替えられるのか
も評価します。
頭頸部、小脳テント周囲を含めて確認する理由の一つがここにあります。
オステオパシーでは最初に全体性を整える
森田治療室では、お腹が張るからといって、いきなり腸を細かく触っていくわけではありません。
まず、
・頭頸部
・小脳テント周囲
・胸郭上口
・胸膜上膜周囲
・肋骨
・横隔膜
・腰椎
・骨盤
・骨盤隔膜
・股関節
など、身体全体を確認します。
そして、
すべての隔膜に可動性があり、呼吸と身体運動の中で協調できているか
を見ます。
最初の数回では、この全体性を整えることを優先します。
胸腔・腹腔・骨盤腔の圧力が一部分へ集中せず、身体全体へ分散できる状態をつくる。
そのうえで、
・腹部手術痕
・局所的な腸間膜の制限
・強い骨盤底緊張
・過去の外傷
・脊柱や肋骨の個別の問題
などを確認していきます。
手技療法と腸症状について研究ではどこまで分かっている?
オステオパシーによる消化器症状への研究は、まだ十分とは言えません。
ただし、少しずつデータは増えています。
2023年のIBSに対するOMTのシステマティックレビュー・メタ解析では、腹痛や便秘について改善がみられましたが、研究数が少なく、エビデンスの質は低いと評価されています。(PubMed)
また2025年に発表された機能性便秘への手技療法のメタ解析では、15件・859人のRCTを解析し、便秘の重症度、排便頻度、QOLなどで改善が報告されています。(PubMed)
つまり、
「手技で腸が必ず改善する」
と断定できる段階ではありません。
一方で、
・横隔膜と腹壁の協調
・腹腔内圧
・骨盤底
・自律神経
・身体の可動性
が消化器症状に関係するという考え方には、少しずつ科学的な裏付けが増えています。
森田治療室では、その研究とオステオパシーの臨床的な考え方を両方使いながら身体を評価しています。
まとめ
お腹が張る。
ガスが溜まる。
食後になるとお腹が前へ突き出す。
便は出ているのに、膨満感だけが続く。
このような症状を、
「腸内ガスが多いから」
だけで説明できないことがあります。
近年の研究でも、
横隔膜の動きと腹壁の協調が崩れるだけで、お腹が大きく膨らむ
ことが分かってきています。
オステオパシーではさらに、
小脳テント
↓
胸郭上口・胸膜上膜
↓
横隔膜
↓
骨盤隔膜
という身体全体の「隔膜」の可動性と協調を確認します。
そして、胸腔・腹腔・骨盤腔の圧力が適切に分散され、
腸が無理なく動ける空間と身体環境
をつくることを重視します。
岡山・倉敷の森田治療室では、
「お腹が張っているから腸を見る」
のではなく、
「なぜ、この身体では腸が働きにくくなっているのか?」
を身体全体から評価しています。
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関連シリーズ
Vol.015|過敏性腸症候群(IBS)とは?
Vol.016|慢性便秘症とは?
Vol.002|パニック障害とは?
参考文献
- Villoria A, et al. Abdomino-phrenic dyssynergia in patients with abdominal bloating and distension. Am J Gastroenterol. 2011. (PubMed)
- Barba E, et al. Abdominothoracic mechanisms of functional abdominal distension and correction by biofeedback. Gastroenterology. 2015. (PubMed)
- Burri E, et al. Visible abdominal distension in functional gut disorders: objective evaluation. Neurogastroenterol Motil. 2022. (PubMed)
- Talasz H, et al. Phase-locked parallel movement of diaphragm and pelvic floor during breathing and coughing. Int Urogynecol J. 2011. (PubMed)
- Damianos JA, et al. Abdominophrenic Dyssynergia: A Narrative Review. Am J Gastroenterol. 2023. (PubMed)
- Barba E, et al. Thoracoabdominal Wall Motion-Guided Biofeedback Treatment of Abdominal Distention: A Randomized Placebo-Controlled Trial. Gastroenterology. 2024. (PubMed)
- Ceballos-Laita L, et al. Effectiveness of Osteopathic Manipulative Treatment in Adults with Irritable Bowel Syndrome: A Systematic Review and Meta-Analysis. 2023. (PubMed)
- Effects of Manual Therapy on Patients with Functional Constipation: Systematic Review and Meta-analysis of Randomized Clinical Trials. 2025. (PubMed)