- 森田智史ブログ
自律神経シリーズ Vol.027|
「深呼吸しようとしても、最後まで吸いきれない」
「息が浅くて、何度もため息をついてしまう」
「呼吸が苦しいときは、動悸も出る」
「肩や首がずっと凝っていて、頭痛も一緒に出やすい」
「検査では肺や心臓に大きな問題はないと言われたけれど、呼吸がしづらい」
このような方では、肺そのものだけではなく、呼吸をつくっている胸郭・横隔膜・首の筋肉・自律神経系がうまく協調できているかを見ることが重要です。
森田治療室では、「もっと深く吸いましょう」と呼吸だけを意識させるのではなく、
必要なときには深く呼吸でき、緊張したあとには自然な呼吸へ戻れる身体
を目指します。

「息が浅い」とは、酸素が足りないという意味ではありません
息が浅く感じると、
「酸素が入っていないのでは」
と不安になる方がいます。
しかし、呼吸の苦しさと血液中の酸素量は必ずしも一致しません。
心臓や肺に大きな病気がなくても、呼吸のリズムや深さが不安定になり、「十分に吸えていない」「空気が足りない」と感じる状態があります。
こうした呼吸パターンの問題は dysfunctional breathing と呼ばれ、息苦しさだけでなく、動悸やめまいなど呼吸器以外の症状を伴うことがあると報告されています。
つまり、
「肺に異常がない=呼吸に問題がない」
とは限りません。
息が浅い人に、動悸・肩こり・頭痛が重なりやすい理由
呼吸が浅くなると、本来中心的に働く横隔膜だけでは足りず、
斜角筋
胸鎖乳突筋
上部僧帽筋
など、首や肩周囲の呼吸補助筋を使いやすくなります。
一時的なら問題ありません。
しかし、これが何時間、何日と続けば、
首が張る
↓
肩が上がる
↓
後頭部周囲も緊張する
↓
頭痛や首こりが出やすくなる
という状態につながることがあります。
実際、慢性頸部痛の方では、無症状の方と比較して呼吸筋力や呼吸機能が低下していることが、システマティックレビュー・メタ解析でも報告されています。
ですから、
息が浅い・肩が凝る・首が硬い
を別々の問題として考えないことが大切です。
頭痛についても全員に同じ機序があるわけではありませんが、首・後頭部の緊張が強い方では、呼吸状態も一緒に確認します。
動悸が一緒に出るのはなぜ?
息苦しさを感じると、
「ちゃんと吸わないと」
「もっと深呼吸しないと」
と呼吸へ意識が集中します。
すると、逆に呼吸回数が増えたり、胸だけで大きく吸おうとしたりすることがあります。
同時に不安や緊張が高まれば、
心拍が速くなる
胸がザワザワする
手に汗をかく
身体に力が入る
といった交感神経系の反応も起こります。
その結果、
息が浅い
→ 不安になる
→ 動悸がする
→ さらに呼吸を意識する
→ もっと苦しく感じる
という循環に入ることがあります。
重要なのは、交感神経が働くこと自体が悪いわけではないということです。
必要なときに働き、その後また落ち着く。
この切り替えができることが重要です。
森田治療室では「隔膜」の協調を確認します
呼吸を見るとき、横隔膜だけを見るわけではありません。
オステオパシーでは、
小脳テント
→ 胸郭上口・胸膜上膜
→ 呼吸横隔膜
→ 骨盤隔膜
という身体の横方向の構造を、一つの連動として評価します。
この「すべての隔膜が一つのシステムとして働く」という考え方は、オステオパシー独自の臨床モデルです。
一方で、呼吸横隔膜・腹壁・骨盤底が呼吸や腹腔内圧の調節で協調することには、生理学的な根拠があります。
息を吸うと横隔膜が下降し、胸郭が広がり、腹部・骨盤底がその圧力変化を受け止めます。
息を吐くと、それぞれが戻っていきます。
大切なのは、
横隔膜だけが動くことではなく、身体全体で圧力変化を受け止められること
です。
胸郭が硬いと「頑張って吸う呼吸」になりやすい
息が浅い方では、
「肋骨がほとんど横へ広がらない」
「胸椎が反らない」
「肩を上げて息を吸っている」
「みぞおちがいつも硬い」
という状態がみられることがあります。
胸郭が十分に広がらなければ、横隔膜が働こうとしても呼吸全体の動きは制限されます。
すると首の筋肉を使って、
“頑張って吸う呼吸”
になりやすくなります。
そこで森田治療室では、横隔膜だけでなく、
後頭部・上部頸椎、胸郭上口、第1肋骨、胸椎・肋骨、横隔膜、腰椎、骨盤まで確認します。
目標は「いつも深呼吸すること」ではありません
呼吸が浅い方に、
「常に深く呼吸してください」
と伝えるだけでは十分ではありません。
人間の呼吸は、本来状況によって変化するものです。
運動中は速くなる。
睡眠中は穏やかになる。
緊張したら一時的に浅くなる。
そして安全になれば、自然な呼吸へ戻る。
理想は、一つの呼吸法に固定することではなく、呼吸を状況に合わせて変えられることです。
ゆっくりした呼吸については、223研究を対象としたシステマティックレビュー・メタ解析で、迷走神経性の心拍変動指標が増加することが報告されています。呼吸と自律神経が密接に関係していることを示す一つの根拠です。
ですから森田治療室で目指すのも、
副交感神経だけを強くすることではなく、交感神経と副交感神経を必要に応じて切り替えられる身体
です。
最初に「全体性」を整える
息が浅いからといって、最初から横隔膜だけを施術するわけではありません。
まず、
頭頸部 → 胸郭上口 → 肋骨・胸椎 → 横隔膜 → 腹部・骨盤
まで身体全体を評価します。
最初の数回では、神経・呼吸・循環が協調しやすい身体環境をつくることを優先します。
全体が緩んでくると、
「第1肋骨が動きにくい」
「横隔膜に左右差が残る」
「上部頸椎の緊張が強い」
「首の呼吸補助筋を過剰に使っている」
など、その方に本当に残っている問題が分かりやすくなります。
そこから細かく調整していきます。
こんな息苦しさは医療機関へ
息苦しさや動悸をすべて自律神経や呼吸パターンの問題と考えることはできません。
特に、突然の強い息苦しさ、胸痛、失神、唇が紫色になる、安静にしていても呼吸が非常に苦しい、動悸が長時間続く場合などは、心臓や肺の病気を含めて医療機関での評価を優先してください。
まとめ
息が浅い。
深呼吸しても吸いきれない。
ため息が増える。
そして同時に、
肩こり
頭痛
動悸
胸のザワザワ
が出ている。
このような場合、肺だけの問題ではなく、
呼吸・胸郭・隔膜・首の筋肉・自律神経系がうまく協調できなくなっている
可能性があります。
森田治療室では、
「深く息を吸えること」だけを目標にはしません。
緊張したら呼吸が変わり、必要がなくなれば自然に戻る。
活動と休息に合わせて、自分の身体が呼吸をコントロールできる。
そのような身体環境を目指します。
シリーズバックナンバー
関連シリーズ
Vol.001|喉のつかえ・息苦しさ・動悸・不安感
Vol.005|息苦しさ・息が吸いにくいのはなぜ?
Vol.009|首こり・肩こりが続くのはなぜ?
参考文献
- Boulding R, et al. Dysfunctional breathing: what do we know? J Bras Pneumol. 2019.
- Berdine G, Nugent K. Dyspnea, dysfunctional breathing disorders, and the Bayesian brain hypothesis. Am J Med Sci. 2024.
- Dimitriadis Z, et al. Respiratory dysfunction in patients with chronic neck pain: systematic review and meta-analysis. 2022.
- Laborde S, et al. Effects of voluntary slow breathing on heart rate and heart rate variability: a systematic review and meta-analysis. Neurosci Biobehav Rev. 2022.