- 森田智史ブログ
自律神経シリーズ Vol.030|
「めまいというほどグルグル回るわけではない」
「歩いていると身体が浮いているような感じがする」
「地面をちゃんと踏めていない感じがする」
「頭がぼーっとして、自分の身体が安定しない」
「人混みやスーパーに行くと、ふわふわ感が強くなる」
こうした症状は、一般的な「めまい」という言葉だけでは表現しにくいものです。
実際、めまいや身体の不安定感は、耳だけでつくられている感覚ではありません。
私たちが「自分はいま真っすぐ立っている」「身体がこの位置にある」と感じるためには、
前庭感覚・視覚・首や関節からの固有感覚・足底からの感覚
などを脳が統合する必要があります。(PubMed Central (PMC))
つまり、ふわふわ感を考えるときには、
「どこか一つが悪い」というより、複数の感覚がうまく協調できているか
という視点が重要になります。

平衡感覚は「耳」だけでつくられているわけではない
身体の位置を把握するためには、大きく分けて3つの情報が重要です。
・内耳の前庭系
・目から入る視覚情報
・筋肉や関節から入る固有感覚
例えば暗い場所では視覚情報が少なくなるため、前庭や足・関節からの情報をより利用します。
逆に、人混みやスーパー、電車、スクロールする画面など、視覚情報が非常に多い環境では、脳が大量の情報を処理する必要があります。
こうした視覚・前庭・固有感覚の統合によって、脳は自分の身体が空間のどこにあり、どちらへ動いているのかを判断しています。 (PubMed Central (PMC))
そのバランスが崩れると、
「身体が揺れている」
「床が安定しない」
「頭が浮いている」
といった感覚につながることがあります。
「スーパーに行くとふわふわする」には理由があります
慢性的なふわふわ感では、
「家では比較的大丈夫なのに、スーパーに入ると急にしんどい」
「人混みを歩くと身体が不安定になる」
「電車や車の流れを見ると気持ち悪くなる」
という方もいます。
このような特徴を持つ疾患の一つに、**持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD)**があります。
PPPDでは、
・浮動感や不安定感が3か月以上続く
・立っていると悪化する
・身体を動かすと悪化する
・人混みや複雑な模様など視覚刺激で悪化する
といった特徴があります。(PubMed Central (PMC))
もちろん「ふわふわする=PPPD」ではありません。
しかし、こうした症状がある場合、単純に「耳に異常がないから問題ない」と考えるのではなく、身体の位置を判断する感覚統合の問題も考える必要があります。
首が硬い人で、ふわふわ感が出ることもあります
森田治療室でよく確認するのが首です。
首には、
「頭がどちらを向いているか」
「身体に対して頭がどの位置にあるか」
を脳へ伝える固有感覚の受容器があります。
特に上部頸椎や後頭下筋群は、頭部の位置情報を伝えるうえで重要です。
研究でも、頸部からの固有感覚は視覚・前庭情報と中枢神経系で統合されており、この情報にズレが生じると、一部の人では不安定感やめまいにつながる可能性が考えられています。(PubMed Central (PMC))
そのため、
「ふわふわする」
だけでなく、
「首がずっと硬い」
「後頭部が重い」
「頭痛も一緒にある」
という場合には、首の状態も確認します。
ただし、首こりがあるから「首がめまいの原因」と決めつけることもできません。
首は、平衡感覚を構成するシステムの一つの入力源として考えます。
不安や自律神経の緊張が加わると、さらに症状を強く感じることがあります
ふわふわ感が突然出ると、
「倒れるんじゃないか」
「まためまいが出たらどうしよう」
と不安になります。
すると、
身体に力が入る
↓
呼吸が浅くなる
↓
心拍が上がる
↓
周囲や身体の感覚を強く意識する
↓
さらに不安定に感じる
という循環に入ることがあります。
PPPDの研究でも、前庭・視覚・身体感覚だけでなく、注意や情動に関わるネットワークとの相互作用が注目されています。(PubMed Central (PMC))
これは「気持ちの問題」という意味ではありません。
身体から入る感覚情報と、それを脳がどのように処理するかの両方が関係している
ということです。
呼吸や胸郭も一緒に確認します
ふわふわ感がある方では、
「息を深く吸えない」
「動悸がある」
「肩がずっと上がっている」
「首から胸までガチガチになっている」
という症状が重なることがあります。
前回のVol.027でも書いたように、呼吸は横隔膜だけではなく、
胸郭
肋骨
胸椎
横隔膜
腹部
骨盤
が協調して行われています。
また、今回いただいた講義資料でも、呼吸に伴う胸腔内圧の変化と静脈循環が連動すること、自律神経や血管トーンも生理的なリズムに関わるという視点が整理されています。
ですから森田治療室では、頭や耳だけでなく、その人が全身で無理なく呼吸・姿勢調節を行えているかも確認します。
オステオパシーでは「めまいの場所」を探すわけではありません
評価するのは、
後頭部・頭蓋底
↓
上部頸椎・後頭下筋群
↓
顎や眼球運動との関係
↓
胸郭上口・第1肋骨
↓
胸椎・肋骨
↓
横隔膜
↓
骨盤
↓
下肢・足部
です。
身体を支える感覚は、頭だけから入っているわけではありません。
足が床を感じる。
骨盤が身体を支える。
首が頭の位置を伝える。
目が空間を認識する。
前庭系が頭の加速度や重力を感知する。
こうした情報が統合されて、初めて身体は「自分はいまここにいる」と判断できます。(PubMed Central (PMC))
森田治療室では、最初から「上部頸椎が原因」「横隔膜が原因」と一つに決めません。
まず身体全体の緊張や可動性を整え、神経・呼吸・循環・姿勢調節が働きやすい身体環境をつくります。
そのあと、
首の問題が強く残るのか。
胸郭が残るのか。
頭頸部なのか。
骨盤や足部なのか。
その方に残っている問題を細かく確認していきます。
これは、今回いただいたフォッサムD.O.の講義資料にある、特定部位への手技の前に全体を「プラットフォーム」として整えるという考え方とも重なります。
目標は「ふわふわ感を抑え込むこと」ではありません
身体の平衡感覚は、常に変化しています。
暗い場所。
人混み。
歩いているとき。
車に乗っているとき。
目を閉じたとき。
環境によって、脳は利用する感覚情報の比重を変えています。
そのため大切なのは、
一つの感覚だけに頼らず、視覚・前庭・首や関節の固有感覚・足底感覚を状況に合わせて使えること。
そして緊張したときには自律神経や呼吸が変化し、必要がなくなればまた落ち着けることです。
岡山・倉敷の森田治療室では、
「めまいというほどではないけれど、ずっとふわふわする」
「首こりや頭痛もある」
「人混みに行くと不安定になる」
「息苦しさや動悸も一緒にある」
という方に対しても、
頭頸部だけではなく、感覚・呼吸・姿勢・自律神経を含めた身体全体の協調
という視点から評価しています。
目指すのは、
「揺れを感じない身体」ではなく、環境が変わっても自分の身体の位置を安定して感じ、必要に応じて調節できる身体。
そこを大切にしています。
※突然強いめまいやふらつきが出た、歩くことが困難、手足の麻痺や力が入りにくい、ろれつが回らない、物が二重に見えるなど新しい神経症状を伴う場合は、脳血管障害などの鑑別が必要になるため、速やかに医療機関で評価を受けてください。急性めまいでは、眼球運動・脳神経・四肢協調・歩行などを含めた評価が重要とされています。(Default)
シリーズバックナンバー
関連シリーズ
Vol.003|自律神経失調症とは?
Vol.006|めまいが繰り返されるのはなぜ?
Vol.010|食いしばり・歯ぎしり・顎関節の不調はなぜ起こる?
参考
Bárány Society:Persistent Postural-Perceptual Dizziness(PPPD)診断基準。(PubMed Central (PMC))
Treleaven J. らの研究・レビューを含む頸部固有感覚とめまいに関する知見。(PubMed Central (PMC))
前庭・視覚・固有感覚による多感覚統合と身体運動認知に関する研究。(PubMed Central (PMC))