2026.08.12
  • 森田智史ブログ
何もしていないのに身体に力が入っているのはなぜ?

自律神経シリーズ Vol.032|

「気づくと歯を食いしばっている」

「いつも肩が上がっていて、力を抜こうとしても抜けない」

「寝ているはずなのに、朝起きると首や肩がガチガチ」

「頭痛が続いていて、身体がずっと緊張している感じがする」

こうした方は少なくありません。

さらに森田治療室では、

「何年も痛みが続いている」

「いろいろ検査したけれど、大きな原因が見つからない」

「身体のあちこちに症状が出る」

という方の身体を評価したときにも、本人が自覚している以上に全身の緊張が強くなっていることがあります。

ここで重要なのは、

「力が入っている=本人が緊張しようとしている」わけではない

ということです。

身体は痛みや不快感などを感じると、自分を守るために筋肉の緊張を高めます。

本来であれば、必要がなくなればその緊張は戻ります。

しかし何らかの理由でこの状態が長く続くと、

身体が「力を抜きにくい状態」になっていることがあります。


筋肉が緊張すること自体は悪いことではありません

筋肉の緊張は、本来身体を守るために必要な反応です。

例えば足首を捻った直後であれば、その周囲の筋肉を緊張させて動きを制限します。

危険を感じれば、身体をすぐに動かせるように筋肉の活動が高まります。

痛みの神経生理でも、侵害受容入力に伴って防御性の筋緊張が起こることがあります。

フォッサムD.O.の神経学講義でも、末梢の侵害受容入力に伴う所見の一つとして筋性防御・筋緊張が整理されています。

問題になるのは、

守る必要がなくなったあとも、身体がその緊張から十分に戻れない状態

です。


食いしばり・肩首こり・頭痛は同時に起こりやすい

身体の力が抜けにくい方では、

・歯の食いしばり
・顎の疲労感
・首こり
・肩こり
・後頭部の緊張
・頭痛

などが重なっていることがあります。

例えば緊張しているとき、無意識に奥歯を噛みしめたり、肩を持ち上げたりすることがあります。

呼吸も浅くなり、横隔膜よりも首周囲の呼吸補助筋を多く使うようになると、

顎 → 首 → 肩 → 胸郭

という範囲全体の緊張が続きやすくなります。

頭痛でも、頭や首周囲の圧痛は重要な所見です。

緊張型頭痛や片頭痛を対象としたシステマティックレビューでは、健常者と比較して頭頸部周囲の圧痛が強い傾向が報告されています。(PubMed)

そのため、

「頭痛だから頭だけ」

「食いしばりだから顎だけ」

「肩こりだから肩だけ」

と考えるのではなく、その人の身体全体がどのくらい緊張した状態にあるのかを見ることが大切です。


「肩の力を抜いてください」と言われても抜けない

これは臨床でもよくあります。

施術中に、

「肩の力を抜いて大丈夫ですよ」

と伝えても、

本人は、

「抜いているつもりなんです」

と言います。

これは不思議なことではありません。

緊張が長く続いていると、その状態が本人にとっての「普通」になっていることがあります。

肩が上がっている。

顎に力が入っている。

呼吸が浅い。

腹部が硬い。

手を握っている。

こうした状態を本人自身が認識していないこともあります。

つまり、

力を抜く方法が分からないというより、身体そのものが力を抜きやすい状態になっていない

場合があります。


慢性疼痛では「痛い場所」だけの問題ではなくなることがある

今回もっとも重要なのがここです。

慢性疼痛では、必ずしも現在の組織損傷の程度だけで痛みの強さを説明できるとは限りません。

IASP(国際疼痛学会)は、明確な組織損傷による侵害受容性疼痛や、神経の病変による神経障害性疼痛とは別に、**侵害受容の変化によって生じる「nociplastic pain(痛覚変調性疼痛)」**という痛みの機序を定義しています。(痛み学会 (IASP))

これは、

「痛みは気のせい」

「脳が勝手に痛みを作っている」

という意味ではありません。

慢性疼痛では、

末梢組織からの入力、脊髄での情報処理、痛みを抑える仕組み、睡眠、自律神経、心理社会的要因など複数の要素が重なっている

ことがあります。

また一人の患者さんの中に、侵害受容性・神経障害性・痛覚変調性の要素が混在することもあります。(痛み学会 (IASP))

そのため、慢性疼痛を「画像に映った部分」だけから考えると、身体全体で起きていることを見落とす可能性があります。


神経系が敏感になると、身体の防御反応も続きやすくなる

痛みの入力が長期間続くと、神経系の反応性が高くなる「感作」が関係する場合があります。

フォッサムD.O.の講義資料では、持続的な侵害受容入力によって脊髄後角の興奮性が高まり、

・痛みの閾値が下がる
・反応が強くなる
・反応が長く続く
・筋性防御や過緊張が生じる

といった変化が起こり得ることが整理されています。

つまり、

痛いから身体に力が入る

身体の緊張が続く

さらに身体から多くの感覚入力が入る

神経系が敏感な状態では、その刺激を強く感じやすい

また身体が緊張する

という循環ができることがあります。

だから慢性的な症状では、

「どの筋肉が硬いか」

だけを見るのでは不十分な場合があります。


「検査では原因不明」でも、症状が存在しないわけではありません

患者さんから、

「MRIも血液検査も異常なしでした」

「病院では問題ないと言われました」

「でも身体はずっとしんどいです」

という話を聞くことがあります。

ここは非常に大切です。

検査で重大な病気や明確な組織損傷が見つからないことと、身体に症状が存在しないことは別の話です。

画像検査や血液検査は非常に重要ですが、それですべての痛みや身体感覚を説明できるわけではありません。

特に慢性疼痛では、画像所見と痛みの強さが必ずしも一致しないことがあります。

だからといって、原因不明の症状をすべて「自律神経」や「身体の緊張」で説明することもできません。

医学的な疾患を除外することはまず重要です。

そのうえで大きな器質的問題が確認されないにもかかわらず、

・身体のあちこちが痛い
・頭痛が続く
・肩首が常に緊張している
・食いしばりが強い
・息が浅い
・疲労感が抜けない
・身体の違和感が続く

という場合には、

「身体がどのような状態でその症状を感じ続けているのか」

という視点も必要になります。


慢性疼痛と自律神経にも関係がある

慢性的な筋骨格系の痛みと、自律神経機能との関係も研究されています。

2024年のシステマティックレビューでは、慢性筋骨格痛のある成人では、健常者と比較して安静時の心拍変動(HRV)が低い傾向が報告されました。

ただし研究のばらつきが大きく、

「慢性痛=交感神経優位」と単純に断定できるものではありません。 (PubMed)

2026年のメタ解析でも、慢性筋骨格痛群では迷走神経系を反映するHRV指標や全体的な変動性の低下が報告されています。(PubMed)

つまり慢性疼痛は、

痛い部分だけではなく、身体全体の調節機能と関連している可能性がある

ということです。


呼吸が浅くなっていないかも確認します

身体が緊張している方では、呼吸にも特徴が現れます。

肩が上がる。

胸だけで呼吸する。

吸うことばかり意識する。

息を吐き切れない。

横隔膜の動きが小さい。

このような状態では、首の斜角筋や胸鎖乳突筋などを呼吸に使う割合が増え、首肩の緊張がさらに強くなることがあります。

その結果、

身体の緊張
→ 浅い呼吸
→ 首肩への負担
→ 頭痛や食いしばり
→ さらに身体が緊張する

という循環になることもあります。

そのため森田治療室では、筋肉だけでなく、呼吸そのものも身体の状態を判断する重要な要素として見ています。


オステオパシーでは「硬いところをほぐす」だけではありません

こうした方に対して、

「肩が硬いから肩をほぐす」

「顎が硬いから顎だけ施術する」

という考え方はしていません。

特に慢性的な症状や原因がはっきりしない不調では、最初から一つの場所を原因と決めることは難しいからです。

森田治療室ではまず、

後頭部・頭蓋底

顎・上部頸椎

胸郭上口・第1肋骨

胸椎・肋骨

横隔膜

腹部

骨盤・下肢

など、身体全体を評価します。

神経、呼吸、循環、関節、筋膜などがどのように協調しているかを確認し、まず全体の緊張を減らして身体が調節できる余裕をつくることを重視します。

そのうえで、

過去の外傷
交通事故
手術痕
顎の問題
頭頸部の制限
腰や骨盤の問題

など、残っている局所的な問題をさらに詳しく評価していきます。


「リラックスしてください」で解決しない理由

身体に力が入っていると、

「もっとリラックスしてください」

「ストレスを減らしましょう」

と言われることがあります。

もちろん休息やストレス管理は大切です。

しかし慢性的に緊張している身体に対して、

「力を抜いて」と意識するだけでは変わらないことがあります。

本人はすでに十分休もうとしているかもしれません。

それでも、

食いしばる。

肩が上がる。

首が硬くなる。

頭痛がする。

身体が痛い。

そうした場合は、

「なぜリラックスできないのか?」

ではなく、

「なぜ身体が緊張を維持する必要がある状態になっているのか?」

と考えることも重要です。


目標は「いつも力が抜けている身体」ではありません

身体は緊張してはいけないわけではありません。

仕事をするとき。

運動するとき。

危険を避けるとき。

集中するとき。

身体が緊張することは必要です。

問題は、

緊張したあとに戻れないこと。

森田治療室で目指しているのは、

ずっと脱力している身体ではありません。

必要なときには力を入れられる。
必要がなくなれば自然に力を抜ける。

その切り替えができる身体です。

食いしばりや肩首こり、頭痛が続く方。

慢性的な痛みがある方。

検査では大きな異常がないのに、身体の不調がなかなか取れない方。

そうした方では、「症状が出ている場所」だけではなく、

身体全体がずっと身構えた状態になっていないか

を見ることが、とても重要だと考えています。


※新しく出現した強い頭痛、進行する筋力低下やしびれ、発熱、原因不明の体重減少、夜間に急激に悪化する痛みなどがある場合には、まず医療機関での評価を優先してください。


シリーズバックナンバー

自律神経シリーズバックナンバー

関連シリーズ
Vol.010|食いしばり・歯ぎしり・顎関節の不調はなぜ起こる?
Vol.008|頭痛が繰り返されるのはなぜ?
Vol.003|自律神経失調症とは?


参考文献

International Association for the Study of Pain(IASP). Terminology: Nociplastic Pain. (痛み学会 (IASP))

Fitzcharles MA, Cohen SP, Clauw DJ, et al. Nociplastic pain: towards an understanding of prevalent pain conditions. Lancet. 2021;397:2098–2110. (痛み学会 (IASP))

Rampazo EP, et al. Heart rate variability in adults with chronic musculoskeletal pain: A systematic review. Pain Pract. 2024;24:211–230. (PubMed)

Castien R, et al. Pericranial Total Tenderness Score in Patients with Tension-type Headache and Migraine: A Systematic Review and Meta-analysis. Pain Physician. 2021;24:E1177–E1189. (PubMed)

※本記事は情報提供を目的としており、医学的な診断や治療の代わりとなるものではありません。