- 森田智史ブログ
自律神経シリーズ Vol.033|
「最近、動悸や息苦しさが増えた」
「仕事に行こうとすると身体がしんどくなる」
「学校のことを考えると朝起きられない」
「病院では大きな異常がないけれど、ずっと体調が悪い」
自律神経の不調を訴える方をみていると、背景に何らかのストレスが重なっているケースは非常に多いと感じます。
ただし、ここでいうストレスは「精神的に弱い」「考えすぎ」という意味ではありません。
人間関係、仕事、家庭、学校、環境の変化、身体の痛みや病気など、私たちの身体に負荷をかけるものはすべてストレスになり得ます。
WHOも、ストレスは困難な状況に対する人間の自然な反応であり、過剰になると心と身体の両方に影響すると説明しています。

ストレスにはいろいろな種類がある
「ストレス」と聞くと、精神的な悩みをイメージする方が多いと思います。
しかし実際には、もっと広く考える必要があります。
対人関係によるストレス
・職場の上司や同僚
・夫婦関係
・家族関係
・友人関係
・学校での人間関係
人間関係は、自分一人の努力だけでは解決できないことも多くあります。
環境によるストレス
・会社や仕事内容
・学校
・家庭環境
・引っ越し
・生活リズムの変化
・騒音や気温などの環境変化
「嫌なら全部やめればいい」と簡単にはいきません。
仕事も学校も家庭も、すぐに変えられないことがあります。
身体から生じるストレス
これも非常に重要です。
・慢性的な痛み
・頭痛
・肩首こり
・食いしばり
・睡眠不足
・胃腸の不調
・呼吸のしにくさ
・病気や体調不良
身体の調子が悪いこと自体が、神経系にとって持続的なストレスになります。
慢性的なストレスでは、自律神経だけでなく、HPA軸、免疫・炎症系など複数の調節システムが関係することが報告されています。
ストレスそのものを「なくす」のは難しい
ここが今回、一番伝えたいところです。
人間関係を全部なくす。
仕事を全部やめる。
家庭の問題をすべて解決する。
学校で嫌なことを一切なくす。
人生から病気や痛みを完全になくす。
現実には難しいことです。
だから、
「ストレスをゼロにする」ことだけを目標にすると、うまくいかないことがあります。
大切なのは、
ストレスがあっても、それに対応できる身体と心の“余裕”を持つこと
だと考えています。
以前作成したシリーズでも、目標を「環境の変化やストレスに適応できる余裕のある状態」と表現しています。
同じストレスでも、平気な日としんどい日がある
例えば職場に苦手な人がいるとします。
昨日は普通に話せたのに、
睡眠不足
身体の痛み
頭痛
疲労
胃の不調
家庭での問題
などが重なっている日は、その人の一言がものすごくしんどく感じることがあります。
逆に、
よく眠れている。
身体の痛みが少ない。
呼吸が楽。
身体に余計な緊張がない。
という日は、同じことを言われても比較的受け流せる。
ストレスの大きさが変わったのではなく、自分側の「受け止められる余裕」が変わっている
という見方ができます。
ホメオスタシスとは「元に戻ろうとする働き」
人間には、身体の状態を一定の範囲に保とうとする**ホメオスタシス(恒常性)**があります。
体温が上がれば汗をかく。
血圧が変化すれば調節する。
運動すれば心拍が上がり、終わればまた戻る。
緊張すれば交感神経系が働き、必要がなくなれば回復方向へ切り替わる。
ストレスに反応すること自体が悪いのではありません。
むしろ必要な反応です。
問題は、
反応したあとに、なかなか元へ戻れなくなること。
心理的ストレスと心拍変動(HRV)を調べた研究でも、ストレスに伴って自律神経指標が変化することが繰り返し確認されています。
「余裕」がなくなると、小さなことにも大きく反応する
身体の調節能力に余裕があるときには、
少し嫌なことがある
↓
身体が反応する
↓
しばらくすると落ち着く
という流れになります。
しかし、
疲労
睡眠不足
慢性的な痛み
呼吸の浅さ
身体の過緊張
人間関係
仕事
家庭の問題
などが長く積み重なると、
小さな刺激
↓
動悸
↓
息苦しさ
↓
胃の不調
↓
めまい
↓
不安
↓
さらに身体が緊張する
というように、反応が大きくなることがあります。
つまり、
「ストレスに弱くなった」というより、身体と心にストレスを処理する余白が少なくなっている
と考えた方が分かりやすいことがあります。
パニック障害や適応障害とも関係する
この「ストレスへの反応」と「元に戻る力」は、心の問題とも深く関係します。
パニック障害では、動悸・息苦しさ・発汗・めまいなど強い自律神経症状が現れます。
研究でも、パニック障害を含む複数の精神疾患で、健常者とは異なるHRVの傾向が報告されています。ただしHRVだけで病気を診断したり、「自律神経の乱れが原因」と一つに決められるわけではありません。
適応障害では、職場・学校・家庭・人間関係など明確なストレス因子が症状の発症と強く関係します。森田治療室でもこれまで、適応障害を「ストレスに心と身体が追いつけなくなる状態」という視点から紹介してきました。
起立性調節障害は「心の問題」ではない
ここは区別しておく必要があります。
起立性調節障害や起立不耐症でも、
学校へ行けない
朝起きられない
動悸
めまい
倦怠感
不安
などが重なることがあります。
そのため「精神的な問題では?」と思われることがありますが、起立性調節障害そのものを心の問題として扱うのは適切ではありません。
循環血液量、血管調節、心拍反応、体力低下など複数の生理学的要因が関係する異質性の高い状態です。2026年のレビューでも、水分・塩分、圧迫、段階的な運動など身体的な管理が基本として整理されています。
ただし、身体症状が長く続けば不安が増え、不安や学校・家庭のストレスがさらに症状へ影響することはあります。
身体と心は切り離せないけれど、「全部メンタル」と考えない。
これはとても大切です。
薬で症状をコントロールすることも大切
症状が強いときには、薬物療法を含む医学的な治療が必要になることがあります。
パニック障害、適応障害、起立性調節障害など、それぞれ標準的な評価や治療があります。
薬によって症状を抑え、日常生活を送りやすくすることには重要な意味があります。
オステオパシーは、それと対立するものではありません。
森田治療室で考えているのは、
「薬を使うか、オステオパシーか」ではなく、必要な医療を受けながら、自分の身体自身でも調節しやすい状態をつくること
です。
オステオパシーで目指しているのは「自分で戻れる身体」
オステオパシーでは、交感神経を無理に下げたり、副交感神経を強制的に上げたりすることを目的にはしていません。
また、「ホメオスタシスそのものを手で治す」という意味でもありません。
森田治療室では、
後頭部・上部頸椎
↓
胸郭上口・第1肋骨
↓
胸椎・肋骨
↓
横隔膜
↓
腹部
↓
骨盤・下肢
など、身体全体を評価します。
呼吸はしやすいか。
胸郭は動くか。
身体に必要以上の筋緊張がないか。
循環が働きやすい構造になっているか。
痛みや過去の外傷が身体への持続的な刺激になっていないか。
こうした問題を一つずつ確認し、神経・呼吸・循環・関節・筋膜などが協調して働きやすい身体環境をつくることを目的としています。
「本来の元気な状態」に戻すという考え方
私たちがオステオパシーで大切にしているのは、
身体にはもともと自分自身を調節する機能がある
という考え方です。
それは、
「オステオパスが自律神経を治す」
ということではありません。
身体の問題をできるだけ減らし、
呼吸しやすい。
眠れる。
痛みが少ない。
身体の力を抜ける。
動ける。
という状態をつくることで、
本来持っている自己調節機能が働きやすい環境をつくる。
そこを目指します。
ストレスを変えられなくても、自分側の「余裕」は変えられる
苦手な上司は明日も会社にいるかもしれません。
家庭の問題もすぐには解決しないかもしれません。
学校の環境も簡単には変わらないことがあります。
だからこそ、
「環境が変わらないと元気になれない身体」ではなく、環境が多少変化しても適応できる身体
を目指すことが大切です。
以前なら10のストレスに対して、自分の余裕が3しかなかった。
身体と心の問題が少しずつ減って、余裕が7、8と増えてくる。
すると、同じ10のストレスでも以前ほど大きく崩れなくなる。
これが私たちの考える、
「自分自身で症状をコントロールできる状態」
です。
ストレスをなくすのではなく、
ストレスがあっても、反応し、適応し、また自分の状態へ戻れる。
パニック障害、適応障害、自律神経失調症、起立性調節障害、原因がはっきりしない身体の不調などを考えるときにも、この「余裕」という視点は非常に大切だと考えています。
※動悸、失神、強い息苦しさ、急激な体重減少、発熱、進行する神経症状などがある場合には、「自律神経」や「ストレス」と自己判断せず、まず医療機関で原因を確認してください。
シリーズバックナンバー
関連シリーズ
Vol.002|パニック障害とは?
Vol.003|自律神経失調症とは?
Vol.013|朝から疲れる・寝ても疲れが取れないのはなぜ?
参考文献
World Health Organization. Stress. 2026.
Kim HG, et al. Stress and Heart Rate Variability: A Meta-Analysis and Review of the Literature. Psychiatry Investig. 2018.
Schubert C, et al. Heart Rate Variability for Evaluating Psychological Stress Changes in Healthy Adults: A Scoping Review. 2023.
Pham T, et al. A meta-analysis of heart rate variability and psychopathology. J Psychopathol Clin Sci. 2026.
Daon LD, et al. Prioritizing Function: Practical Management of Orthostatic Intolerance and Autonomic Dysfunction. Pediatr Ann. 2026.
※本記事は情報提供を目的としており、医学的な診断や治療の代わりとなるものではありません。