- 森田智史ブログ
自律神経シリーズ Vol.035|
「家にいると大丈夫なのに、仕事へ行こうとするとお腹が痛くなる」
「会議や電車の前になると、急にトイレへ行きたくなる」
「出かける前は何度もトイレに行ってしまう」
「子どもが学校へ行く朝になると、お腹が痛いと言う」
このような症状は珍しくありません。
そして本人も、
「気にしすぎなのかな」
「精神的に弱いのかな」
と思ってしまうことがあります。
しかし、緊張したときに起こる腹痛や便意は、単なる「気持ちの問題」ではありません。
脳と腸は神経・ホルモン・免疫などを介して双方向に情報をやり取りしており、ストレスに対する身体の反応として、実際に腸の感覚や働きが変化することがあります。人を対象とした実験でも、急性ストレスによって消化管を調節する自律神経活動や内臓感覚が変化し、IBSの人ではストレス後の正常化が遅れたり、直腸の感覚が強くなることが報告されています。 (PubMed)

なぜ「緊張」が「お腹」に出るのか?
私たちの腸は、脳から一方的に命令されて動いているわけではありません。
消化管には独自の神経ネットワークである「腸管神経系」があり、そこへ自律神経や脳からの情報が加わりながら、消化・吸収・腸の運動・便意などが調節されています。
これが、いわゆる**脳腸相関(brain-gut interaction)**です。
たとえば、
仕事に遅れそう
大事な会議がある
電車からすぐ降りられない
学校へ行かなければならない
といった状況を脳が「負担」や「危険」と判断すると、身体はそれに対応するためのストレス反応を起こします。
心拍や呼吸が変わるだけでなく、消化管の運動や血流、内臓から脳へ伝わる感覚の処理も変化します。実験的な心理ストレスでは小腸の運動が抑制されることも確認されており、「緊張=腸が単純に活発になる」わけではなく、消化管の部位や個人によって反応が異なることも重要です。 (PubMed)
「腸が悪い」だけではなく、感じ方が変わることがある
もう一つ重要なのが、内臓知覚です。
腸は、
「中に何か入っている」
「張っている」
「便が移動している」
といった情報を常に神経を通じて脳へ送っています。
普段なら気にならない程度の腸の動きでも、ストレスや不安が強い状態では、痛み・張り・便意として強く感じることがあります。
IBSを対象とした実験では、ストレス下で同じ直腸刺激を与えても、健康な人より強い感覚や不快感を感じる人がいることが確認されています。別の研究でも、不安が強い人では痛みではない内臓感覚まで強く知覚する傾向が示されています。 (PubMed)
つまり、
「腸に大きな異常があるから痛い」
だけではなく、
「腸から入ってくる情報を身体がどのように受け取り、処理しているか」
も関係している可能性があります。
これは「気のせい」という意味ではありません。
実際に起きている神経生理学的な反応です。
「トイレがない」と思うほど便意が強くなる
このタイプの症状では、経験そのものが次の症状につながることがあります。
たとえば一度、
「電車の中で急にお腹が痛くなった」
という経験をすると、
次からは、
「またお腹が痛くなったらどうしよう」
「途中でトイレに行きたくなったら困る」
と考えるようになります。
すると電車に乗る前から身体が緊張する。
↓
お腹の感覚に注意が向く。
↓
普段なら気にならない腸の動きを感じる。
↓
「やっぱりお腹が痛くなってきた」
↓
さらに不安になる。
という循環ができることがあります。
IBSでは、便意の切迫感自体も珍しくなく、2023年のプライマリケア患者を調べた研究では、IBS群で便意切迫がより多くみられ、排便症状の重なりは自覚的ストレスの高さとも関連していました。 (PubMed)
これは過敏性腸症候群(IBS)なの?
緊張すると腹痛や便意が起こるからといって、すべてがIBSというわけではありません。
IBSでは一般に、繰り返す腹痛と、下痢・便秘・便の状態や排便頻度の変化などが続きます。
一方で、
「重要な予定の日だけ」
「学校へ行く朝だけ」
「電車や外出のときだけ」
強く症状が出る方もいます。
大切なのは、すぐに「自律神経だから」「IBSだから」と決めつけず、症状の経過や便の状態、食事、睡眠、ストレス、服薬などを含めて考えることです。
オステオパシーでは「腸だけ」をみない
森田治療室では、このようなお腹の症状がある方でも、最初から腹部だけに焦点を当てるわけではありません。
まず身体全体をみます。
たとえば、
後頭部・上部頸椎
↓
胸郭上口・肋骨
↓
胸椎・腰椎
↓
呼吸横隔膜
↓
腹部
↓
骨盤・骨盤底
↓
下肢
といったように、神経・呼吸・循環・関節・筋膜などを含めて評価します。
消化管は自律神経による調節を受けていますが、オステオパシーで「自律神経そのものの緊張を手で触って治す」ということではありません。
胸郭が十分に動くか。
呼吸がしやすいか。
横隔膜が呼吸に合わせて動いているか。
腹部や骨盤周囲に強い緊張がないか。
身体全体が常に身構えた状態になっていないか。
こうした、神経系や消化器系が働くための身体環境をみていきます。
呼吸とお腹も切り離せない
緊張している人をみると、お腹だけでなく身体全体に力が入っていることがあります。
肩が上がる。
顎を食いしばる。
呼吸が浅くなる。
腹部を固める。
こうした状態が続けば、腹部だけを「ゆるめればいい」という話ではありません。
呼吸横隔膜、腹壁、骨盤底は呼吸や腹腔内圧の調節に関わっています。
そのためオステオパシーでは、腹部症状であっても、胸郭・呼吸・背骨・骨盤まで含めて全体性を確認することがあります。
これは「横隔膜を整えればIBSが治る」という意味ではありません。
腸だけを一つの臓器として切り離すのではなく、身体全体の中で消化器がどのように働いているかを考える、ということです。
大切なのは「ストレスをなくす」ことではない
仕事、人間関係、家庭、学校。
現実には、ストレスの原因をすべてなくすことはできません。
だから森田治療室では、
「ストレスがない身体」を目指すのではなく、ストレスがあっても適応し、また元の状態へ戻れる身体
という考え方を大切にしています。
以前なら、
「電車に乗る」
↓
お腹が痛くなる
↓
不安になる
↓
トイレを探す
↓
さらに緊張する
という反応だったものが、
少し緊張しても身体が必要以上に反応しない。
反応しても、しばらくすると落ち着ける。
そうした**身体の「余裕」**を取り戻していくことが一つの目標です。
Vol.033でお伝えした自律神経とストレスの話とも、ここは深くつながっています。
「精神的な問題」と決めつけないことも大切
緊張すると腹痛が起こるからといって、
「ストレスだから大丈夫」
と自己判断することもおすすめできません。
特に、
血便・黒い便
原因不明の体重減少
発熱
夜間に目が覚めるほどの強い腹痛や下痢
繰り返す嘔吐
急に始まった強い腹痛
貧血を指摘されている
などがある場合には、まず医療機関で消化器疾患などを確認することが重要です。
必要な検査を受けたうえで、構造的な病気だけでは説明しにくい症状について、脳腸相関・自律神経・身体全体という視点を加えて考えていきます。
倉敷・岡山で、緊張すると腹痛や便意が出ることでお悩みの方へ
「検査では大きな異常がない」
「薬を飲んでいるけれど、外出するのが怖い」
「何年もお腹のことを気にしながら生活している」
「いろいろ試したけれど、なかなか変わらない」
そのような場合には、腸だけではなく、身体全体から一度整理してみることも一つの選択肢です。
森田治療室では、症状だけでなく、これまでの経過、呼吸、身体の緊張、過去の外傷、睡眠や生活環境なども確認しながら身体全体を評価しています。現在も過敏性腸症候群や原因不明のお腹の痛み、自律神経に関連するさまざまな不調を相談対象として案内しています。 (森田治療室 –)
初めての方には、施術内容・料金・時間・通院頻度や期間について事前に確認できるページもご用意しています。
シリーズバックナンバー
関連シリーズ
Vol.003|自律神経失調症とは?
Vol.015|過敏性腸症候群(IBS)とは?
Vol.022|お腹が張る・ガスがたまりやすいのはなぜ?
参考文献
Murray CDR, et al. Effect of acute physical and psychological stress on gut autonomic innervation in irritable bowel syndrome. Gastroenterology. 2004. (PubMed)
Posserud I, et al. Altered visceral perceptual and neuroendocrine response in patients with irritable bowel syndrome during mental stress. Gut. 2004. (PubMed)
Kellow JE, et al. Effects of acute psychologic stress on small-intestinal motility in health and the irritable bowel syndrome. Scand J Gastroenterol. 1992. (PubMed)
Van Oudenhove L, et al. Psychological factors selectively upregulate rectal pain perception in hypersensitive patients with irritable bowel syndrome. Neurogastroenterol Motil. 2016. (PubMed)
Böhn L, et al. Defecation symptoms in primary health care patients with irritable bowel syndrome. 2023. (PubMed)
※本記事は情報提供を目的としており、医学的な診断や治療の代わりとなるものではありません。