- 森田智史ブログ
自律神経シリーズ Vol.039|
「血液検査では異常なし」
「MRIやCTでも大きな問題はない」
「心電図も問題ないと言われた」
それでも、
頭痛
めまい
動悸
息苦しさ
胃腸の不調
身体のだるさ
痛み
不眠
などが続いている。
こうした状態になると、
「異常がないのに、なぜこんなにつらいの?」
「気のせいなのかな」
と不安になる方も少なくありません。
ここで最初に大切なのは、
「検査で異常がない」=「症状が存在しない」ではない
ということです。
近年は、このように数か月以上続く身体症状を原因の有無だけで区別するのではなく、「Persistent Physical Symptoms(持続性身体症状)」という枠組みで考える動きがあります。
感染症、けが、身体疾患、ストレスなどをきっかけに始まり、その後複数の要因が重なって症状が持続することがあります。(PubMed)

そもそも「検査で異常なし」とは何を意味するのか
病院で行われる検査には、それぞれ目的があります。
血液検査では、
貧血
炎症
甲状腺機能
肝臓・腎臓
血糖
などを確認できます。
画像検査では、
腫瘍
骨折
椎間板や関節の状態
脳や内臓の構造的な問題
などを調べることができます。
心電図なら心臓の電気的活動を確認します。
つまり、
「異常なし」という結果は、調べた病気や構造的な問題が見つからなかったという重要な情報です。
決して「検査をしても意味がなかった」ということではありません。
一方で、検査は身体のあらゆる働きを一度に測っているわけでもありません。
心拍、呼吸、消化、血圧、筋緊張、痛みの感じ方などは、身体の状態や環境によって常に変化しています。
そのため、構造的な大きな異常がなくても、身体症状が続くこと自体は医学的にも知られています。(PubMed)
「構造」と「機能」は同じではない
例えば、車に例えると分かりやすいかもしれません。
部品が壊れている。
これは構造的な問題です。
一方、
部品は壊れていないけれど、複数のシステムの連携がうまくいかない。
これは「働き方」の問題です。
人間の身体もそれほど単純ではありませんが、
形の異常と、身体がどう働いているかは必ずしも同じではありません。
自律神経系も、
心拍
血圧
呼吸
消化
発汗
体温調節
などを状況に応じて絶えず調節しています。
通常の血液検査や画像検査だけで、こうした動的な調節をすべて直接評価できるわけではありません。
だからといって、
「検査が正常だから自律神経が原因」
と結論づけることもできません。
ここが非常に重要です。
症状は「身体から脳に入る情報」として感じている
私たちは身体の状態を、そのまま直接認識しているわけではありません。
心拍。
呼吸。
胃腸の動き。
筋肉の緊張。
体温。
こうした身体内部からの情報を脳が受け取り、
「胸が苦しい」
「胃が気持ち悪い」
「身体が重い」
「痛い」
と認識しています。
この身体内部の感覚を捉える仕組みを「内受容感覚(interoception)」と呼びます。
研究では、実際の身体内部の変化と本人が感じる身体感覚には必ずしも完全な一致がなく、過去の経験、注意、予測なども身体感覚の認識に影響することが示されています。(PubMed)
以前の症状を身体が「学習」することもある
例えば、
以前強い動悸が起きた。
そのとき、
「心臓がおかしいのでは」
と強い恐怖を感じたとします。
医学的な検査では問題がなかったとしても、その経験は残ります。
すると次に、
少し心拍が上がる
↓
身体に意識が向く
↓
「また起きるかもしれない」
↓
さらに身体が緊張する
↓
動悸を強く感じる
という循環になることがあります。
持続性身体症状では、炎症や免疫・代謝などの生物学的要因だけでなく、症状への注意、予測、過去の経験、症状への不安、回避行動など複数の要因が症状の持続に関わると考えられています。(PubMed)
これは、
「心理的な問題だから症状が出ている」
という意味ではありません。
身体と脳が一つのシステムとして症状を作っている
という考え方です。
自律神経系も「症状をつくる一部分」
ここで、自律神経系も関係してきます。
例えば緊張したとき、
心拍が上がる。
汗をかく。
胃腸の感覚が変わる。
身体に力が入る。
呼吸が変わる。
こうした変化の一部には、自律神経系が関与しています。
そして、
睡眠不足
慢性的な疲労
痛み
心理的ストレス
身体の緊張
などが重なっていると、身体の調節に必要な「余裕」が少なくなることがあります。
ただし、
検査で異常がない症状を、すべて「自律神経の乱れ」で説明することもできません。
持続する身体症状は、生物学的・心理的・社会的な複数の要因が関係するというのが現在の考え方です。(PubMed)
慢性的な痛みでは「痛みの仕組み」が変化することもある
痛みに関しては、さらに別の仕組みも考えます。
慢性的な痛みには、
組織損傷による侵害受容性疼痛。
神経損傷による神経障害性疼痛。
そして、明確な組織損傷や神経損傷だけでは十分説明できない「nociplastic pain(痛覚変調性疼痛)」という考え方があります。(PubMed)
これは、
「痛みが気のせい」
という意味ではありません。
痛みを処理・調節する神経系の働きが変化することで、痛みが長く続いたり、通常より強く感じたりする可能性があります。
ただし、
慢性痛=すべて中枢性感作・痛覚変調性疼痛
でもありません。
痛みの種類を一つに決めつけないことが大切です。
「検査で異常なし」なのに身体が硬いことはある
医学的な検査で大きな問題が見つからなくても、
身体を触診すると、
首や肩が強く緊張している。
顎を食いしばっている。
胸郭が硬い。
深く呼吸しにくい。
背中や腰に力が入り続けている。
腹部が緊張している。
という状態がみられることがあります。
これらは病気そのものを診断するものではありません。
しかし、
身体に継続的な緊張や動きにくさがあれば、それ自体が身体へ入る刺激の一つになる可能性があります。
オステオパシーでは「検査で見つからなかった原因を探す」わけではない
ここは誤解してほしくないところです。
森田治療室で身体を評価する目的は、
病院で見つけられなかった病気を手で探すことではありません。
また、
「ここが硬いから、これがすべての原因です」
と決めるものでもありません。
まず、
後頭部・上部頸椎
顎・頸部
胸郭・肋骨
胸椎
横隔膜
腹部
腰椎
骨盤・仙骨
下肢
など身体全体を確認します。
呼吸のしやすさ。
胸郭の動き。
関節の可動性。
筋肉や筋膜の緊張。
左右差。
過去のけがや手術。
慢性的な痛み。
身体に力が入り続けていないか。
こうした問題を整理していきます。
オステオパシーでは、局所的な問題へ進む前に身体全体の状態を整えるという臨床的な考え方も用いられています。
「原因を一つ探す」から「負担を整理する」へ
症状が長く続くと、
「本当の原因はどこにあるのだろう」
と考え続けてしまうことがあります。
もちろん、必要な医学的検査を受けることは大切です。
しかし、大きな病気が除外されていて症状が長く続いている場合、
原因を一つだけ探し続けるよりも、
睡眠
身体の緊張
呼吸
痛み
活動量
ストレス
症状への不安
生活環境
など、
症状を持続させている可能性のある負担を一つずつ整理する
という考え方も必要になります。
持続性身体症状に対しては、「症状は本当に存在する」と認めながら、身体的な要因と心理・社会的要因の両方を含めて説明し、個別に対応することが重要とされています。(PubMed)
「異常なし」は終わりではなく、一つの安心材料
「検査では異常ありません」
と言われたとき、
「じゃあ、この症状は何なの?」
と思うかもしれません。
でも見方を変えると、
重大な病気が見つからなかったことは、大切な安心材料でもあります。
そのうえで、
今の身体に何が負担になっているのか。
なぜ回復しにくくなっているのか。
どこから整理していけるのか。
を考えていく。
森田治療室では、
「検査で異常がないのだから何もない」でもなく、
「すべて自律神経が原因」でもない
という立場を大切にしています。
身体的にも精神的にも余裕を取り戻し、
必要なときには反応しても、また元へ戻れる。
そのような身体環境を目指していきます。
症状が変化した場合には再評価も必要です
一度検査で問題がなかったからといって、その後に起こるすべての症状まで問題がないとは限りません。
急激に悪化した症状。
今までとは違う強い痛み。
失神。
麻痺やろれつの回りにくさ。
血便・黒い便。
原因不明の体重減少。
発熱が続く。
強い胸痛や呼吸困難。
などがある場合には、改めて医療機関で評価を受けることが重要です。
シリーズバックナンバー
関連シリーズ
Vol.003|自律神経失調症とは?
Vol.006|めまいが繰り返されるのはなぜ?
Vol.033|自律神経の乱れはなぜ起こる?
参考文献
Löwe B, et al. Persistent physical symptoms: definition, genesis, and management. Lancet. 2024. (PubMed)
Köteles F. Vague sensations: discordance between actual and perceived physiological changes. Clin Psychol Rev. 2024. (PubMed)
Kosek E. The concept of nociplastic pain—where to from here? Pain. 2024. (PubMed)
※本記事は情報提供を目的としており、医学的な診断や治療の代わりとなるものではありません。