- 森田智史ブログ
自律神経シリーズ Vol.038|
「電車に乗ると急に息苦しくなる」
「車に乗って出かけようとすると不安になる」
「高速道路や渋滞になると、動悸がして逃げたくなる」
「人混みに入ると胸が苦しくなる」
「美容院でケープをかけられたり、シャンプー台に横になるのが苦手」
こうした症状には、一見すると共通点がないように見えます。
しかし、実際には、
「自分の意思ですぐに状況を変えられない」
という感覚が共通していることがあります。
電車なら、次の駅まで降りられない。
車なら、渋滞や高速道路ではすぐに止まれない。
美容院なら、自分のタイミングですぐ立ち上がれない。
人混みなら、すぐ外へ出られない。
こうした「自分ではどうしようもない」と感じる状況では、身体の警戒反応が強くなることがあります。

「逃げられないかもしれない」と感じると身体は反応する
自律神経系は、
心拍
血圧
発汗
呼吸
消化
血流
などを、そのときの状況に合わせて絶えず調節しています。
危険や負荷を感じたときには、身体はそれに対応できるように変化します。
これは異常な反応ではありません。
問題になるのは、実際には危険ではない状況でも、
「ここで体調が悪くなったらどうしよう」
「すぐ逃げられない」
「自分では止められない」
という感覚が強くなったときです。
実験研究では、同じような不快な刺激であっても「自分で止められない」条件では、緊張感や不安だけでなく、交感神経系やホルモン反応がより強くなることが報告されています。つまり、刺激そのものだけではなく「自分でコントロールできるか」という認識が、身体のストレス反応に影響することが分かっています。(PubMed)
電車・車・美容院で共通するもの
例えば電車の中で、
「息が苦しくなったらどうしよう」
と感じたとします。
すると、
電車に乗る
↓
「次の駅まで降りられない」
↓
身体が警戒する
↓
心拍や呼吸、筋緊張などが変化する
↓
胸の苦しさや動悸を感じる
↓
「やっぱりここは危ない」と感じる
↓
さらに身体が反応する
という循環になることがあります。
車でも同様です。
特に、
高速道路
トンネル
橋
渋滞
家から遠い場所
など、
「今すぐ止められない」「すぐ帰れない」
と感じる状況で症状が強くなる方もいます。
さらに症状が続くと、「車で出かけること自体」が不安になり、近所への外出でも身体が反応するようになることがあります。
広場恐怖では、公共交通機関、人混み、閉鎖された場所など、「症状が出たときに逃げることや助けを得ることが難しい」と感じる状況が問題になりやすいことが知られています。ただし、電車や車が苦手だからといって、それだけで広場恐怖やパニック障害という意味ではありません。(国立精神衛生研究所)
「何も起きていないのに苦しい」のではない
こうした状態では、
心臓や肺に大きな問題がないにもかかわらず、
動悸
息苦しさ
発汗
震え
胸の圧迫感
めまい
吐き気
身体のこわばり
などを実際に感じることがあります。
つまり、
「気にしすぎだから苦しい」
ということではありません。
脳が状況を「警戒が必要」と判断すると、身体を守るための反応として自律神経系を含む複数のシステムが変化します。
パニック障害の研究でも、脅威を予測している段階から心拍や皮膚電気反応などの生理的な変化がみられることがあります。(PubMed)
身体的にも精神的にも「余裕」が少ないときに起こりやすい
ここは森田治療室で特に大切にしている視点です。
同じ電車でも、
今日は大丈夫。
でも別の日は苦しい。
家族と一緒なら乗れる。
一人だと不安になる。
近所なら車に乗れるけれど、遠出は難しい。
ということがあります。
これは、その日の身体や精神状態によってストレスを受け止められる余裕が違うからと考えることができます。
例えば、
睡眠不足
慢性的な疲労
身体の痛み
食いしばり
首や肩の強い緊張
浅い呼吸
仕事や家庭のストレス
以前また症状が起きるのではという不安
などが重なっている状態です。
睡眠不足後にストレス刺激に対する心拍やコルチゾール反応が変化することを示した実験研究もあり、身体のコンディションがストレス反応に影響する可能性があります。ただし、この反応には個人差があり、「寝不足=自律神経の異常」と単純化することはできません。(PubMed)
「余裕がある」と、同じ場所でも反応が違う
この「余裕」は、単に精神的に強い・弱いという話ではありません。
身体に余裕があり、
よく眠れている。
身体に痛みが少ない。
呼吸が楽にできる。
首や肩に過剰な力が入っていない。
精神的にも大きな負担を抱えていない。
そして、
「もし少し苦しくなっても大丈夫」
と思える。
こうした状態では、身体が多少反応しても、そのまま強い警戒状態へ進まずに済むことがあります。
逆に、
身体的な余裕も精神的な余裕も少ない状態では、小さな変化でも「もう無理かもしれない」と感じやすくなる。
これが、
「自分ではどうしようもない状況になると苦しくなる」
という状態を考えるうえで重要なポイントです。
オステオパシーでは「自律神経だけ」を触ろうとは考えない
では身体側では何を見るのでしょうか。
森田治療室では、
後頭部・上部頸椎
↓
顎・頸部
↓
胸郭上口・第1肋骨
↓
胸椎・肋骨
↓
呼吸横隔膜
↓
腹部
↓
腰椎・骨盤・仙骨
↓
下肢
まで、まず身体全体を評価します。
特に息苦しさがある方では、
胸郭が十分に拡がるか。
左右の肋骨の動きに大きな差がないか。
横隔膜が呼吸に合わせて動いているか。
首や肩の呼吸補助筋に常に力が入っていないか。
身体全体が「力を抜けない状態」になっていないか。
などを確認します。
目的は、
自律神経を手で直接正常化することではありません。
身体に残っている緊張や動きの制限などを整理し、神経・呼吸・循環・関節・筋膜などが協調しやすい身体環境をつくることです。
まず身体全体の「余裕」をつくる
こうした症状では、
「胸が苦しいから胸郭だけ」
「首が硬いから首だけ」
とは考えません。
まず身体全体をみて、常に身体へ入力され続けている負担を減らしていきます。
そのうえで、
頭頸部の強い緊張なのか。
胸郭の動きなのか。
横隔膜なのか。
過去の外傷なのか。
慢性的な痛みなのか。
食いしばりなのか。
と、残っている問題を細かく確認していきます。
目指すのは、
「二度と緊張しない身体」ではありません。
電車や車、人混みで少し緊張しても、
「大丈夫」
と身体が対応できる。
多少心拍が上がっても、また戻る。
身体的にも精神的にも、
反応を受け止められる余裕をつくること。
長く続く自律神経症状では、この視点が重要だと考えています。
避ける場所が増えている場合は医療・心理的な支援も重要
電車に乗れない。
車で家から出られない。
高速道路を完全に避ける。
美容院や映画館へ行けない。
一人で外出できない。
というように、行動範囲が徐々に狭くなっている場合には、身体へのアプローチだけで解決しようとしないことも大切です。
パニック障害や広場恐怖では、認知行動療法などの心理療法や、必要に応じた薬物療法が標準的な治療選択肢です。(国立精神衛生研究所)
また、胸痛、失神、強い息切れ、不整脈を感じる、新しく強い呼吸困難が出た場合などは、まず医療機関での評価を優先してください。
外出すると身体が苦しくなる方へ
「電車に乗れない」
「車で出かけることが怖くなってきた」
「高速道路や渋滞で動悸がする」
「人混みや美容院で息苦しくなる」
「病院では心臓や肺に大きな異常がないと言われた」
このような状態では、
自分では状況を変えにくいことへの警戒
+ 自律神経系の身体反応
+ 身体的・精神的な余裕の低下
を分けずに考えることが大切です。
症状を無理に我慢するのではなく、
なぜ今の身体がそれほど強く反応しているのか。
森田治療室では、身体全体をみながら、その背景を一つずつ整理していきます。
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車の運転がこわい、トンネルがこわい―パニックと“空間”の問題をオステオパシー的に考える
参考文献
Peters ML, et al. Cardiovascular and endocrine responses to experimental stress: effects of mental effort and controllability. Psychoneuroendocrinology. 1998. (PubMed)
Bhanji JP, et al. Neural correlates of stressor controllability in humans. NeuroImage. 2022. (PubMed)
National Institute of Mental Health. Panic Disorder / Phobias and Phobia-Related Disorders. (国立精神衛生研究所)
※本記事は情報提供を目的としており、医学的な診断や治療の代わりとなるものではありません。