2026.08.19
  • 森田智史ブログ
ストレスが続くと、なぜ身体のあちこちに症状が出るのか?

自律神経シリーズ Vol.040|

「最初は頭痛だけだった」

「そのうち首や肩も痛くなった」

「最近は動悸、胃腸の不調、めまいまで出てきた」

「検査をしても大きな異常はない」

「症状が増えるほど不安になり、突然パニックのようになることもある」

このように、最初は一つだった不調が、時間とともに身体のあちこちに広がっていくように感じる方がいます。

ここで、

「ストレスで自律神経が乱れたから、全部の症状が出ている」

と説明してしまうのは単純すぎます。

慢性的な症状では、

末梢から入り続ける刺激
+ 神経系の感受性の変化
+ 自律神経系を含むストレス反応
+ 睡眠や疲労
+ 症状への不安や警戒

などが重なり、身体が刺激に対して反応しやすい状態になっていることがあります。持続する身体症状についても、現在は単一原因ではなく、生物学的・心理的・社会的な複数の要因が症状の持続に関係すると考えられています。 (PubMed)


最初は「末梢」で起きていることも多い

例えば首を痛めた、頭痛が続いた、腰を傷めたとします。

組織に炎症や刺激があると、その周囲の侵害受容器が通常より反応しやすくなることがあります。

これが**末梢性感作(peripheral sensitization)**です。

末梢性感作について、

  • 炎症部位で侵害受容器の感受性が高くなる
  • 痛覚過敏
  • 局所の温度変化や浮腫
  • 防御的な筋緊張

などを伴う状態として整理されています。

つまり身体は、

「ここはまだ危険かもしれない」

という情報を神経系へ送り続けます。

これは本来、傷ついた場所を守るために必要な仕組みです。


刺激が長く続くと「中枢側」の反応性も変わることがある

末梢から侵害受容性の入力が繰り返し続くと、脊髄や脳など中枢神経系の処理が変化し、刺激に対する反応が増幅されることがあります。

これが**中枢性感作(central sensitization)**です。

フォッサム資料でも、中枢性感作は主に脊髄レベルで起こり、過剰な侵害受容入力によって駆動され、痛みの維持・増幅に関係すると説明されています。

さらに資料では、長期化した痛みでは脊髄や脳レベルの神経系が過敏になり、痛みの増幅や維持に関与するという臨床的な整理がされています。

ただし、ここは重要です。

慢性痛=中枢性感作ではありません。

実際の慢性痛には、侵害受容性、神経障害性、痛覚変調性など複数の仕組みが混在することがあり、「慢性だから中枢性感作」と決めることは現在の痛み科学でも推奨できません。 (PubMed)


中枢性感作が起こると「症状が広がったように感じる」ことがある

感作が進むと、

以前なら痛くなかった刺激が痛く感じる。

少しの刺激でも強く痛む。

最初の痛みとは違う場所まで敏感になる。

といった変化が起こることがあります。

フォッサム資料では、中枢神経系でグリア細胞などが関与する神経炎症やニューロンの過興奮性、抑制性シグナルの低下などが、慢性的な痛みの維持に関係する可能性が示されています。

また同資料では、後角のグリア細胞が炎症性サイトカインを介して脊髄性ファシリテーションや中枢性感作に関係するという神経生理学的な説明もされています。

これは、

「痛い場所すべてが傷んでいる」

とは限らないということでもあります。

神経系が刺激を処理する仕組みそのものが変化している可能性も考えなければなりません。


慢性的な頭痛でも感作は重要なテーマ

この仕組みが比較的研究されている代表例の一つが片頭痛です。

片頭痛では、頭痛発作を繰り返す中で、皮膚に軽く触れただけでも不快・痛いと感じる皮膚アロディニアが起こることがあります。

これは中枢性感作の臨床的な指標の一つと考えられており、片頭痛の慢性化との関連も報告されています。 (PubMed)

例えば、

髪をとかすと頭皮が痛い。

眼鏡が当たるだけでつらい。

枕に頭をつけるのが不快。

頭だけだった痛みが首や肩まで広がる。

このような訴えがみられることがあります。

ただし、すべての慢性頭痛が中枢性感作によるものではありません。

頭痛では片頭痛、緊張型頭痛、頚原性頭痛、薬剤使用過多などを含め、まず適切な評価が必要です。


内臓からの刺激も身体の別の場所に影響する

内臓からの侵害受容入力

脊髄後角での収束

分節性ファシリテーション

運動系・交感神経系への出力

という反射カスケードが示されています。

さらに、内臓からの求心性入力が集中することで脊髄分節が促通され、

筋緊張
痛覚過敏
組織性状の変化
交感神経出力の変化

などがみられるというオステオパシー神経学上のモデルも紹介されています。

これは、身体の症状を一つの場所だけで考えない理由の一つです。

ただし、これらは触診だけで内臓疾患や自律神経異常を診断できるという意味ではありません。


「検査では分からない症状」が続くこともある

長く続く身体症状では、

頭痛
めまい
動悸
息苦しさ
胃腸症状
疲労感
痛み

などが複数重なることがあります。

近年の「Persistent Physical Symptoms(持続性身体症状)」の考え方では、感染症、けが、病気、強いストレスなどをきっかけに症状が始まり、その後、

炎症・免疫などの生物学的要因
症状への注意
症状への予測
不安
過去の症状経験
回避行動

などが複雑に重なって症状が持続する場合があるとされています。 (PubMed)

ですから、

「検査で分からない=何も起きていない」

ではありません。

一方で、

「検査で異常なし=中枢性感作」

でもありません。

ここは分けて考える必要があります。


症状が続くほど「身体への不安」が増えていく

症状が一つならまだ耐えられていても、

頭痛が続く。

今度は動悸がする。

めまいもする。

胃も気持ち悪い。

検査をしても原因が分からない。

となると、

「自分の身体に何が起きているのだろう」

という不安が強くなります。

すると、

症状が出る

身体を確認する

不安になる

身体への注意が強くなる

緊張・心拍・呼吸などが変化する

さらに身体感覚を強く感じる

という循環になることがあります。

2024年のメタ解析では、不安が強い人ほど身体内部の感覚を否定的に評価したり、身体信号への注意や敏感さが強くなる傾向が示されています。ただし、これは「不安が症状を作っている」という意味ではありません。 (PubMed)


パニック発作が重なると、さらに「身体を警戒する」ようになることも

例えば動悸や息苦しさが続いたあとに、一度強いパニック発作を経験すると、

「また心臓が速くなったらどうしよう」

「この息苦しさは危険なのでは」

「また倒れるかもしれない」

と、身体の変化そのものが怖くなることがあります。

すると少しの心拍変化や呼吸の違いにも気づきやすくなります。

ここでも、

痛みや身体症状
→ 不安
→ 警戒
→ 身体感覚への注意
→ さらに症状を強く感じる

という循環が生まれる可能性があります。持続性身体症状では、症状への不安、症状への集中、予測、学習、回避などが持続要因になりうることが報告されています。 (PubMed)

ただし、

「パニックが中枢性感作を起こす」

と直接結びつける根拠は十分ではありません。

中枢性感作と、パニック・不安に伴う身体感覚への警戒は、関連し得る別の仕組みとして分けて考える方が正確です。


ストレスが続くと「悪い場所が増える」というより、身体の余裕が少なくなる

慢性的な症状がある人では、

痛み。

睡眠不足。

仕事や家庭のストレス。

不安。

食いしばり。

身体の緊張。

活動量の低下。

などが同時に存在することがあります。

すると一つ一つは小さな負担でも、重なることで身体にとっての総負荷が大きくなります。

その結果、

「今までは気にならなかった刺激にも反応する」

「以前より疲れやすい」

「症状が次々と出る」

という状態になることがあります。持続性身体症状や慢性痛についても、単一の組織障害ではなく複数の生物心理社会的要因が重なるという見方が現在の主流です。 (PubMed)

つまり、

身体のあちこちが次々壊れているのではなく、身体全体として刺激を受け止める余裕が少なくなっている

と考えた方が説明しやすいケースもあります。


整理すると

今回のテーマに関係するポイントを資料からまとめると、

  1. 末梢組織への刺激・炎症によって侵害受容器が感作される。
  2. 過剰な侵害受容入力が続くことで、脊髄など中枢側の感作が起こり、痛みの維持・増幅に関係する。
  3. 神経炎症やグリア細胞の活動も、慢性的な神経系の反応性に関係する可能性がある。
  4. 内臓・筋骨格系などからの入力は脊髄で収束し、運動・交感神経系を含む反射反応につながることがある。

一方で、同じセミナー資料でも、症状の場所と感作している部位を安易に同一視しないこと、慢性痛を「脳のリワイアリング」のような単純な説明にしないことが強調されています。

ここは臨床上とても重要だと思います。


オステオパシーでは「中枢性感作を治す」のではない

オステオパシーで、

「中枢性感作を解除する」

「自律神経を正常化する」

と直接表現するのは適切ではありません。

森田治療室ではまず、

後頭部・上部頸椎
顎・頸部
胸郭・肋骨
横隔膜
胸椎・腰椎
腹部
骨盤・仙骨
下肢

など身体全体を評価します。

そして、

慢性的に刺激を出し続けている場所はないか。

身体に必要以上の筋緊張が残っていないか。

呼吸しにくい身体になっていないか。

関節や筋膜の動きに大きな制限がないか。

過去の外傷や手術の影響が残っていないか。

睡眠や活動を妨げる痛みがないか。

といった末梢から入り続けている負担を整理することを重視します。

痛みの病態を末梢性感作と中枢性感作に分けながら、末梢からの侵害受容入力を減らすという視点が示されています。

これは中枢神経を直接「治療する」のではなく、

身体から神経系へ入り続ける不要な入力を少しずつ減らし、身体全体が反応し続けなくてもよい環境をつくる

という臨床的な考え方です。


目指すのは「すべての症状の原因を一つ見つけること」ではない

頭痛。

動悸。

めまい。

胃腸症状。

身体の痛み。

不安。

パニック発作。

症状が増えてくると、

「全部を説明できる一つの原因があるはず」

と思いたくなります。

しかし慢性的な症状ほど、実際には複数の仕組みが重なっていることがあります。

大切なのは、

中枢性感作だから。
自律神経だから。
ストレスだから。

と一つの言葉で終わらせないことです。

必要な医学的評価を行ったうえで、

末梢からの刺激
神経系の感受性
睡眠
呼吸
身体の緊張
活動量
不安や警戒
生活環境

を一つずつ整理していく。

森田治療室では、

「どこが悪いのか」だけではなく、「なぜ身体全体が反応し続けているのか」

という視点を大切にしています。

最終的に目指すのは、

症状にまったく反応しない身体ではありません。

多少の負荷があっても過剰に反応せず、

反応してもまた自然に戻ることができる。

その**身体的・精神的な「余裕」**を取り戻していくことです。


医療機関での再評価が必要なこともあります

「以前の検査では異常がなかった」という方でも、

突然の激しい頭痛
今までと明らかに違う頭痛
麻痺・しびれ・ろれつの回りにくさ
失神
強い胸痛・呼吸困難
原因不明の体重減少
発熱が続く
症状が急激に悪化する

などがある場合には、改めて医療機関での評価を受けることが大切です。


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関連シリーズ

Vol.003|自律神経失調症とは?

Vol.006|めまいが繰り返されるのはなぜ?

Vol.033|自律神経の乱れはなぜ起こる?


参考文献

Löwe B, et al. Persistent physical symptoms: definition, genesis, and management. Lancet. 2024. (PubMed)

Velasco E, et al. Is chronic pain caused by central sensitization? A review and critical point of view. Neurosci Biobehav Rev. 2024. (PubMed)

Suzuki K, et al. Central sensitization in migraine: a narrative review. 2022. (PubMed)

Murphy J, et al. The relationship between self-reported interoception and anxiety: a systematic review and meta-analysis. Neurosci Biobehav Rev. 2024. (PubMed)

※本記事は情報提供を目的としており、医学的な診断や治療の代わりとなるものではありません。