- 森田智史ブログ
自律神経シリーズ Vol.043|
「MRIでヘルニアがあると言われた」
「首から腕にかけてしびれる」
「腰から脚にかけて痛みが走る」
「ヘルニアがあるから、一生この症状と付き合うしかないのでは?」
このように不安になる方は少なくありません。
椎間板ヘルニアとは、背骨の間にある椎間板の一部が正常な範囲を越えて突出・脱出した状態です。
頚椎で起これば腕や手に、腰椎で起こればお尻や脚に症状が出ることがあります。
ただし、最初に非常に大切なことがあります。
「MRIでヘルニアがある」=「そのヘルニアが現在の症状の原因」ではありません。
画像上の椎間板変性や突出は、症状のない人にも比較的よくみられます。腰椎では年齢とともに無症候性の椎間板変性・膨隆が増えることが報告されており、画像は症状や神経学的所見と合わせて判断する必要があります。(PubMed)

椎間板ヘルニアで症状が出る仕組み
椎間板は、
外側の「線維輪」
内側の「髄核」
などから構成されています。
椎間板の一部が後方や側方へ突出し、その近くにある神経根に影響すると、
痛み
しびれ
感覚低下
筋力低下
などが出ることがあります。
ただし、症状は単純な「圧迫」だけでは説明できません。
神経根周囲の炎症や化学的刺激も、神経根性疼痛に関係します。
つまり、
神経が押されているかどうか
+
神経周囲にどの程度炎症・刺激があるか
の両方を見る必要があります。
フォッサムD.O.の神経学資料でも、椎間板や椎間関節などは侵害受容性入力の発生源となり得ること、神経根性の痛みと深部組織からの関連痛を区別することが重要とされています。
腰椎椎間板ヘルニアでは脚に症状が出る
腰椎では、
L4
L5
S1
などの神経根が影響を受けることが多く、
お尻
太もも
すね
ふくらはぎ
足部
などに痛みやしびれが広がることがあります。
いわゆる「坐骨神経痛」と呼ばれる症状です。
しかし前回もお伝えしたように、
脚へ痛みが広がる=すべて椎間板ヘルニア
ではありません。
椎間関節、仙腸関節、筋肉・筋膜などからも脚に関連痛が出ることがあります。
フォッサムD.O.の資料でも、脊柱周囲の組織から生じる深い関連痛と、神経根性疼痛は異なるパターンとして整理されています。
頚椎椎間板ヘルニアでは腕や手に症状が出る
頚椎では、ヘルニアや加齢による変化によって神経根が刺激されると、
首から肩、腕への痛み
手のしびれ
指の感覚低下
握力や腕の筋力低下
などが出ることがあります。
頚椎神経根症は、神経根の圧迫または刺激に関連して腕へ放散する痛みを生じ、感覚・筋力・腱反射の変化を伴うことがあります。(サイエンスダイレクト)
フォッサムD.O.の肩・頚部資料でも、Spurlingテストや反射、症状分布などを用いて頚椎由来の神経根症状と肩そのものの問題を区別する必要性が示されています。
「ヘルニアがあるのに痛くない人」もいる
ここは非常に重要です。
MRIでは、
椎間板が膨らんでいる
椎間板が変性している
神経の近くまで突出している
といった所見があっても、まったく症状がない人がいます。
腰椎MRIを調べた系統的レビューでは、無症状でも椎間板膨隆や突出などが多数みられ、その割合は年齢とともに増加していました。(PubMed)
頚椎でも、MRI上の脊髄圧迫があるにもかかわらず症状のない人が一定数存在します。(PubMed)
ですから、
画像だけを見るのではなく、画像と現在の症状が一致しているか
を見ることが重要です。
反対に、ヘルニアが小さくても症状が強いこともある
「ヘルニアが大きい=症状が強い」
とも限りません。
神経周囲の炎症。
神経の感受性。
症状が続いた期間。
筋肉の防御性緊張。
身体の動かし方。
なども症状の強さに関係します。
痛みが長く続けば、末梢からの侵害受容入力によって神経系の反応性が変化することもあります。
フォッサムD.O.の資料でも、急性・慢性痛では末梢性感作や中枢性感作の関与を考えながら評価するという考え方が示されています。
ただし、
椎間板ヘルニア=中枢性感作
という意味ではありません。
腰椎ヘルニアは自然に小さくなることもある
「一度飛び出した椎間板は、一生そのまま」
と思っている方もいます。
しかし腰椎椎間板ヘルニアでは、突出した椎間板組織が時間とともに自然吸収されることがあります。
特にextrusion(脱出型)やsequestration(遊離型)では自然吸収が起こりやすいことが報告されています。(PubMed)
そのため、重い神経障害がない多くの腰椎椎間板ヘルニアでは、最初から手術を行うのではなく保存療法が第一選択になります。
2024年のWFNS Spine Committeeの推奨でも、馬尾症候群や重大な運動麻痺などがなければ、まず保存的治療を行うことが推奨されています。(サイエンスダイレクト)
では、身体側では何を見るのか
椎間板ヘルニアがあるからといって、
「飛び出した椎間板を手で元に戻す」
ということはできません。
森田治療室で見るのは、
なぜ現在その部分へ負担が集中しているのか
です。
腰椎ヘルニアの場合
胸椎
↓
肋骨・横隔膜
↓
腰椎
↓
骨盤・仙骨
↓
股関節
↓
膝・足部
まで確認します。
前回の腰痛と同じように、
股関節が動きにくい。
胸椎が動きにくい。
骨盤の動きが少ない。
その結果、
腰椎が代わりに必要以上の動きを引き受けている
という身体もあります。
これは「それがヘルニアを作った」と断定するものではありません。
しかし、腰部へ繰り返し負担が集中する運動パターンがあれば、そこを整理することは重要です。
頚椎ヘルニアでは胸郭・肩甲骨まで見る
頚椎の場合も、首だけではありません。
頭部
↓
上部頚椎
↓
頚椎
↓
胸郭上口・第1肋骨
↓
胸椎
↓
肩甲骨・鎖骨
↓
上肢
まで確認します。
例えば、
胸椎が動かない。
肩甲骨が十分に動かない。
胸郭が硬い。
という状態では、
振り向く、腕を上げる、デスクワークをする
といった動作を首で補うことがあります。
これも、
「胸椎が硬いから頚椎ヘルニアになる」
という単純な話ではありません。
頚椎だけに負荷を集中させない身体環境をつくる
という考え方です。
オステオパシーでは「ヘルニアそのものを治す」とは考えない
オステオパシーで椎間板を押し戻したり、神経への圧迫を直接取り除いたりするわけではありません。
また、MRI上のヘルニアをなくすことを施術の目的にもしていません。
評価するのは、
関節の可動性
筋肉・筋膜の緊張
胸郭・横隔膜の動き
身体の左右差
過去の外傷
防御性の筋緊張
神経症状の変化
などです。
フォッサムD.O.の資料でも、脊柱の痛みを評価するときは、診断名だけでなく機械的モビリティ・神経的モビリティ・循環など複数の視点から全体像を組み立てることが重視されています。
森田治療室では、
症状がある神経を直接「治す」のではなく、身体全体から負担を減らし、神経・関節・筋膜などが働きやすい環境をつくる
ことを目的とします。
画像を「怖いもの」にしすぎない
MRIで、
「L4/5ヘルニア」
「C5/6椎間板突出」
と書かれていると、不安になると思います。
しかし大切なのは、
MRIに何が写っているか
+
どのような症状があるか
+
筋力・感覚・反射はどうか
+
症状が改善しているのか悪化しているのか
を合わせて判断することです。
画像は非常に重要な情報ですが、
画像だけが身体の状態そのものではありません。
すぐ医療機関で確認した方がよい症状
腰椎の場合
排尿・排便がしにくい、または失禁する
会陰部の感覚低下
両脚に急激な症状が出る
筋力低下が進行する
足が急に上がらなくなる
などは、馬尾症候群や重大な神経障害の可能性があるため、速やかな医学的評価が必要です。(PubMed Central (PMC))
頚椎の場合
手先が急に不器用になる
箸やボタン操作が難しくなってきた
歩行が不安定になる
両手・両脚に症状が出る
筋力低下が進行する
などでは、神経根だけでなく脊髄症の可能性も考える必要があります。
この場合も施術より医学的評価を優先します。
目指すのは「MRIを正常にすること」ではない
椎間板ヘルニアがあっても、症状なく生活している人はいます。
だから目標は、
「MRIからヘルニアを消す」
ことではありません。
痛みや神経症状を医学的に確認しながら、
胸椎が動く。
股関節が動く。
胸郭・肩甲骨が動く。
首や腰だけが頑張らなくてよい。
身体全体で負荷を分散できる。
という状態をつくっていくことです。
「ヘルニアがある身体」ではなく、「その身体全体がどう動いているか」を見る。
これがオステオパシーで大切にしている視点です。
シリーズバックナンバー
関連シリーズ
Vol.041|腰痛・坐骨神経痛はなぜ起こる?
Vol.042|五十肩とは?なぜ肩が上がらなくなるのか
Vol.009|首こり・肩こりが続くのはなぜ?
参考文献
Brinjikji W, et al. Systematic literature review of imaging features of spinal degeneration in asymptomatic populations. AJNR. 2015. (PubMed)
Yaman O, et al. The role of conservative treatment in lumbar disc herniations: WFNS spine committee recommendations. World Neurosurg X. 2024. (PubMed)
Zileli M, et al. Role of surgery in primary lumbar disk herniation: WFNS spine committee recommendations. 2024. (PubMed Central (PMC))
※本記事は情報提供を目的としており、医学的な診断や治療の代わりとなるものではありません。