2026.08.22
  • 森田智史ブログ
手根管症候群とは?手のしびれはなぜ起こる?

自律神経シリーズ Vol.046|

「夜中に手がしびれて目が覚める」

「親指・人差し指・中指がジンジンする」

「スマホや車の運転で手がしびれる」

「手を振ると少し楽になる」

「最近、物をつまみにくくなってきた」

こうした症状でよく知られているのが、**手根管症候群(Carpal Tunnel Syndrome:CTS)**です。

手根管症候群は、手首にある狭いトンネル「手根管」の中で、正中神経が圧迫・刺激されることで起こる絞扼性神経障害です。(PubMed)

ただし、

「手がしびれる=すべて手根管症候群」

ではありません。

頚椎の神経根、肘・前腕での神経の問題、末梢神経障害などでも似た症状が出るため、まず症状の分布と神経学的な所見を確認することが大切です。


手根管とは?

手首の手のひら側には、

手根骨

横手根靱帯

によって囲まれた狭い空間があります。

これが「手根管」です。

その中を、

正中神経
複数の屈筋腱

が通っています。

この空間の中で圧が高まり、正中神経の働きが低下すると、しびれや感覚低下などが起こります。

手根管症候群では、単純な機械的圧迫だけでなく、局所の血流変化、神経への機械的ストレス、脱髄などが病態に関係すると考えられています。(PubMed)


どの指がしびれる?

正中神経が感覚を担当するのは主に、

親指
人差し指
中指
薬指の親指側

です。

そのため、

「小指まで全部しびれる」

という場合には、典型的な手根管症候群だけでは説明しにくいことがあります。

また、

手首だけが痛い
首を動かすと腕まで症状が変化する
肘より上からしびれる

といった場合にも、別の問題を含めて考える必要があります。


なぜ夜にしびれやすいのか?

手根管症候群では、

夜間や明け方に症状が強くなる

ことがよくあります。

睡眠中に手首が曲がった状態が続くと、手根管内の圧が高くなりやすいためです。

そのため、

「夜中にしびれて目が覚める」

「手を振ると少し楽になる」

という訴えは、手根管症候群でよくみられる特徴です。


正中神経は手首だけに存在しているわけではない

ここから身体全体を見るうえで重要です。

正中神経は、

頚部から出た神経

腕神経叢

上腕



前腕

手根管

手指

という長い経路を通っています。

つまり、症状が出る場所は手でも、神経そのものは首から手まで連続しています。

研究では、手根管症候群の人では健康な人と比較して、手首の運動時に正中神経の滑走・移動量が低下している傾向が報告されています。(PubMed)

ただし、

「首が硬いから手根管症候群になる」

という意味ではありません。

手根管症候群の中心となる病変部位は、あくまで手首の手根管です。


「神経を圧迫している」だけを見るのではない

正中神経は、腕を動かすたびに周囲組織の中を少しずつ滑走します。

例えば、

肩を動かす
肘を伸ばす
前腕を回す
手首を動かす
指を動かす

といった動作に合わせて、神経にも機械的な変化が起こります。

そのため臨床では、

手首そのもの
前腕

上腕
肩甲帯

なども確認します。

ただし、これらの部位への施術によって手根管内の正中神経圧迫が直接解除される、とまでは言えません。

手根管症候群そのものと、上肢全体の動きや神経の機械的環境は分けて考えることが大切です。


首からくるしびれとの違い

手のしびれで特に重要なのが、

頚椎神経根症との鑑別

です。

頚椎椎間板ヘルニアや頚椎の変性などによって神経根が影響を受けても、腕や手に痛み・しびれが出ます。

例えば頚椎由来の場合には、

首や肩から腕へ痛みが広がる
首の動きによって症状が変化する
特定の筋力が低下する
腱反射が変化する

などがみられることがあります。

つまり、

手がしびれるから手首だけを見る

のでは不十分な場合があります。


「ダブルクラッシュ」という考え方

臨床では、

首など神経の近位部に問題があり、さらに手根管でも正中神経が影響を受ける

という「Double Crush Syndrome」という考え方があります。

ただし、この概念については現在も議論があり、

「首の問題があるから手根管症候群になった」

と単純に説明できるほど確立したものではありません。

ですから森田治療室でも、

「手根管症候群だから原因は首です」

とは考えません。

手首に本当に正中神経障害があるのかを確認しながら、上肢全体の状態も評価する、という順序が重要です。


オステオパシーではどこを見るのか?

手根管症候群の場合でも、まず身体全体を確認します。

特に上肢では、

頚椎

胸郭上口・第1肋骨

鎖骨・肩甲骨

上腕



前腕

手首・手根管

というつながりをみます。

具体的には、

頚部や肩甲帯に過剰な緊張がないか。

胸郭や肩甲骨は腕の動きに合わせて動くか。

肘の屈伸や前腕の回内・回外はどうか。

前腕屈筋群に過剰な緊張がないか。

手根骨や手首の動きはどうか。

正中神経の経路周囲に強い機械的負担がないか。

などを確認します。


手根管だけを強く揉めばよいわけではない

正中神経がすでに刺激されている場合、

「しびれているから手首を強くほぐす」

ことが必ずしも適切とは限りません。

神経組織は、筋肉とは異なります。

強い圧迫や刺激によって症状が増えることもあります。

そのため、

神経そのものを強く押すのではなく、周囲組織の可動性や上肢全体の動きを評価する

ことが大切です。


医学的にはどのように評価する?

2024年の米国整形外科学会(AAOS)のガイドラインでは、成人の手根管症候群について、症状と身体所見を組み合わせたCTS-6が診断に利用でき、典型的な症例で超音波や神経伝導検査を routinely 行わなくても診断できる場合があるとされています。(AAOS)

一方で、

症状が典型的でない
筋力低下がある
他の神経障害との鑑別が必要
重症度を詳しく調べる必要がある

といった場合には、神経伝導検査や筋電図などが役立つことがあります。


保存的にみられる場合と手術が必要な場合

軽度〜中等度では、

手首を中間位に保つ夜間装具などが用いられることがあります。

ステロイド注射は症状を一時的に改善する場合がありますが、2024年AAOSガイドラインでは長期的改善をもたらす治療とはいえないとされています。(AAOS)

一方、

しびれが進行している
感覚が明らかに低下している
親指の筋肉が痩せてきた
物をつまみにくい
神経障害が強い

場合には、手根管開放術が検討されます。

必要な場合には、施術だけで経過をみ続けないことが重要です。


オステオパシーで手根管を「広げる」わけではない

オステオパシーで、

横手根靱帯を伸ばせば治る。

正中神経を直接解放できる。

手根管を手で広げられる。

と説明するのは適切ではありません。

森田治療室では、

手根管症候群そのものへの医学的評価を尊重したうえで、上肢全体に重なっている身体的な負担を整理する

という立場を取ります。

手首だけでなく、

首。

胸郭。

肩甲骨。

肘。

前腕。

手首。

まで連続して確認します。


目指すのは「手首だけを柔らかくすること」ではない

手や腕は日常生活で非常によく使います。

スマートフォン。

パソコン。

料理。

抱っこ。

仕事。

車の運転。

これらをすべて避けることはできません。

だから重要なのは、

肩甲骨が動く。

肘が動く。

前腕が回る。

手首が必要な範囲で動く。

神経や腱の周囲組織が動きやすい。

という状態です。

手首だけに負担を集中させず、腕全体で役割を分担できる身体環境をつくる。

手根管症候群でも、森田治療室ではこのような身体全体の視点を大切にしています。


医療機関での確認を優先した方がよい場合

次のような場合には、整形外科や手外科などでの評価を優先してください。

親指の付け根の筋肉が痩せてきた
物を頻繁に落とす
指の感覚が明らかに低下している
筋力低下が進んでいる
小指を含む広い範囲にしびれがある
首から腕に強い痛みが広がる
両手だけでなく足にも感覚異常がある

「手根管症候群だと思っていたら別の神経障害だった」という場合もあるため、進行する神経症状では鑑別が重要です。


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参考文献

American Academy of Orthopaedic Surgeons. Management of Carpal Tunnel Syndrome: Evidence-Based Clinical Practice Guideline. 2024. (AAOS)

Lin MT, et al. Impaired median nerve mobility in patients with carpal tunnel syndrome: a systematic review and meta-analysis. Eur Radiol. 2023. (PubMed)

Ellis R, et al. Is there a relationship between impaired median nerve excursion and carpal tunnel syndrome? A systematic review. J Hand Ther. 2017. (PubMed)

※本記事は情報提供を目的としており、医学的な診断や治療の代わりとなるものではありません。