- 森田智史ブログ
自律神経シリーズ Vol.049|
「朝は何度起こしても起きられない」
「学校へ行く時間になると、頭痛や腹痛が出る」
ところが夕方になると、話せるようになったり、ゲームをしたり、食欲も戻ってくる。
そんな姿を見ると、
「本当に体調が悪いの?」
「学校に行きたくないだけなのでは?」
と感じてしまうことがあります。
しかし、起立性調節障害など自律神経の調節に問題を抱えている子どもでは、午前中に症状が強く、午後になると軽くなるという日内変動が実際にみられます。
夕方に元気だからといって、朝のつらさが「怠け」だったということではありません。

1.なぜ朝の方がつらいのか?
人間の身体は、一日中同じ状態ではありません。
血圧
心拍数
体温
ホルモン
睡眠と覚醒
消化
などは、約24時間のリズムに合わせて変化しています。
このリズムを調節する仕組みが「概日リズム」です。
自律神経系も、この体内時計と連動しながら身体を調節しています。 (J-STAGE)
朝、横になっている状態から起き上がると、重力によって血液が下半身へ移動します。
本来であれば自律神経がすぐに反応し、
血管を収縮させる
心拍を調節する
血圧を維持する
脳への血流を保つ
といった調節を行います。
起立性調節障害では、この切り替えがうまくいかず、朝に
頭痛
めまい
吐き気
腹痛
身体の重さ
動悸
などが強く出ることがあります。
2.実際に「朝の方が反応が強い」ことが分かっています
小児・思春期のPOTS(体位性頻脈症候群)を調べた研究では、立ち上がったときの心拍数増加が、午後や夕方よりも朝に大きいことが報告されています。 (PubMed)
成人を含む別の研究でも、起立による心拍数の増加や症状には日内変動があり、朝の方が強く現れることが確認されています。 (PubMed)
つまり、
朝は起きられない
↓
午後になると少し動ける
↓
夕方は比較的元気になる
という状態は、必ずしも矛盾しているわけではありません。
自律神経や循環の調節能力が、時間帯によって変化している可能性があります。
3.思春期はそもそも体内時計が後ろにずれやすい
もう一つ重要なのが「睡眠のリズム」です。
思春期になると、子どもの睡眠時間帯は自然と遅い方向へ変化する傾向があります。
夜になっても眠くならない。
寝る時間が遅くなる。
朝になっても脳が十分に覚醒しない。
そのため、学校の時間に合わせて朝早く起きること自体が大きな負担になる子もいます。
睡眠・覚醒リズムが大きく後ろへずれる「睡眠・覚醒相後退障害」は、特に思春期から若年成人にみられやすく、朝の起床困難や学校生活への影響につながります。 (PubMed)
起立性調節障害についても、夜眠れず朝起きられないという概日リズムの問題との関連が研究されています。 (J-STAGE)
4.「夕方元気=学校へ行けたはず」ではありません
ここは保護者の方にとても知っておいてほしい部分です。
朝は、
起き上がる
着替える
朝食を食べる
通学する
授業を受ける
という大きな負荷が短時間に集中します。
一方、夕方は身体がすでに覚醒し、自律神経や循環の状態も朝とは異なります。
そのため、
「夕方ゲームができるなら学校にも行けるでしょ」
とは単純に言えません。
本人も、
「学校に行かないといけない」
と思っています。
でも身体は動かない。
その間で苦しんでいる子どもは少なくありません。
日本小児心身医学会も、身体がつらい状態で登校を求められる心理社会的ストレスが、症状を悪化させる場合があるとしています。 (一般社団法人 小児心身医学会)
5.森田治療室では「自律神経系の疲労」と説明することがあります
医学的には、起立性調節障害を「自律神経の疲労」という病名で定義しているわけではありません。
ただ、患者さんやご家族へ説明するときには、
「脳や自律神経系が疲れていて、身体を調節する余裕が少なくなっている状態」
と考えると理解しやすいことがあります。
自律神経は一日中、
血圧
心拍
呼吸
消化
体温
睡眠と覚醒
などを調節しています。
この調節に余裕がなくなると、
立ち上がる
食事をする
外出する
学校へ行く
といった日常的な活動でも大きな負担になることがあります。
近年の起立性調節障害の考え方でも、血圧だけを見るのではなく、睡眠、身体活動、心理社会的要因などを含めた包括的な評価が重要とされています。 (J-STAGE)
6.大人でも自分に合ったペースがあります
大人でも、
週5日働いて元気に過ごせる人もいれば、
体調を考えて週3〜4日にすることで安定する人もいます。
子どもも同じです。
毎日朝から学校へ行ける子もいれば、
午後からなら行ける。
週2日なら行ける。
保健室なら過ごせる。
まずは短時間からなら参加できる。
という子もいます。
重要なのは、
「みんなと同じようにできるか」
ではありません。
今の身体が、どのくらいの負荷なら回復できるのか
を探すことです。
7.回復するときは、朝から突然元気になるとは限りません
起立性調節障害の子どもをみていると、回復は一気に起こるとは限りません。
森田治療室の臨床では、
頭痛が減ってくる
腹痛が少なくなる
食欲が戻ってくる
昼間に動ける時間が増える
外出できる日が増える
そのあとに、
朝が少し起きやすくなる
起床時間が早くなる
学校へ行ける日が増えてくる
という経過をたどる子もいます。
もちろん、すべての子が同じ順番ではありません。
だからこそ、
「今日も朝起きられなかった」
だけで回復を判断しないことが大切です。
8.頭痛や腹痛が減ってきたことも大切な変化
例えば、
毎日あった頭痛が週2回になった。
朝の腹痛が以前より短くなった。
食事を少し食べられるようになった。
立っていられる時間が長くなった。
午後から外出できるようになった。
こうした変化も、身体の調節が少しずつ変わっているサインとして経過をみます。
自律神経系の調節が回復してくることで、複数の症状が落ち着き、その先に睡眠や朝の生活リズムが整ってくる子もいます。
回復を「朝7時に起きられたか」だけで判断しないことが重要です。
9.オステオパシーではどこを見る?
森田治療室では、
「起立性調節障害だから自律神経だけを見る」
という考え方はしていません。
確認するのは、
後頭部・頭蓋底
上位頸椎
胸郭上口・第1肋骨
胸郭・肋骨
横隔膜
腹部
背骨
仙骨・骨盤
呼吸
などです。
さらに、
睡眠時間
起床時間
頭痛・腹痛
食欲
活動量
学校生活
一日の中で症状が変化する時間帯
なども確認します。
オステオパシーで起立性調節障害を治したり、自律神経を直接正常化できることが確立されているわけではありません。
森田治療室では、呼吸・循環・姿勢・身体の緊張などを含め、神経系が働きやすい身体環境を考えていきます。
10.朝起きられないからといって、すべてが起立性調節障害ではありません
朝起きられない原因には、
睡眠不足
睡眠・覚醒相後退障害
鉄欠乏性貧血
甲状腺などの内分泌疾患
心疾患
神経疾患
精神的な不調
などが関係する場合もあります。
起立性調節障害の診断でも、他の病気を除外したうえで、新起立試験などを用いて評価することが推奨されています。 (一般社団法人 小児心身医学会)
症状が続く場合は、小児科などで医学的な評価を受けることが大切です。
まとめ
朝は動けない。
でも夕方になると元気になる。
この状態を見ると、周囲はどうしても、
「朝も頑張れば動けるのでは?」
と思ってしまいます。
しかし自律神経や循環、睡眠・覚醒リズムには一日の中で変化があります。
起立性調節障害では、実際に午前中の症状が強く、午後になると軽減することがあります。
大切なのは、
「夕方元気だから朝も元気なはず」
と考えることではありません。
頭痛が減った。
腹痛が減った。
日中に活動できた。
起きる時間が少し早くなった。
こうした小さな変化を見ながら、その子自身の回復できるペースを探していく。
周囲と同じ生活へ一気に戻すのではなく、自律神経系と身体全体が少しずつ本来のリズムを取り戻していくことを大切にしています。
シリーズバックナンバー
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Vol.008|頭痛が繰り返されるのはなぜ?
Vol.033|自律神経の乱れは何故起こる?
医療機関での確認も大切です
森田治療室は診断を行う医療機関ではありません。すでに医療機関を受診されている場合は、医師の診断や治療方針を優先してください。
当院には、精神科や心療内科などへ通院しながらオステオパシーを受けている方も多くいらっしゃいます。
オステオパシーは医療に代わるものではなく、医療を補完する立場です。必要な医学的評価や治療と組み合わせながら、身体全体の状態を整えていくことにメリットがあると考えています。
参考文献
一般社団法人 日本小児心身医学会「起立性調節障害」 (一般社団法人 小児心身医学会)
日本小児心身医学会「小児起立性調節障害ガイドライン」 (一般社団法人 小児心身医学会)
光藤 尚・齋藤千景.起立性調節障害による概日リズム障害に対する治療.自律神経.2025. (J-STAGE)
Lin J, et al. Diagnostic Value of Diurnal Variability of Orthostatic Heart Rate Increment in Children and Adolescents With POTS. 2021. (PubMed)
Narala B, et al. Delayed sleep wake phase disorder in adolescents: an updated review. Curr Opin Pediatr. 2024. (PubMed)