- 森田智史ブログ
パニック障害シリーズ Vol.02|
「心臓がいつもより速く感じる」「息が十分に吸えていない気がする」「胸の違和感が気になって仕方がない」。
パニック障害では、検査では大きな問題がなくても、自分の心拍や呼吸など身体の変化を強く感じることがあります。
この背景を考えるうえで重要なのが、**内受容感覚(interoception)**です。

内受容感覚とは?
内受容感覚とは、身体の内側で起きている変化を脳が感じ取る仕組みです。
心臓の鼓動、呼吸、空腹、胃腸の動き、体温、筋肉の緊張など、私たちは意識していなくても常に身体内部から情報を受け取っています。
これは本来、身体を健康な状態に保つために必要な仕組みです。しかしパニック障害では、こうした身体感覚への注意が強くなり、小さな変化でも「何かおかしいのでは?」と感じやすくなることがあります。
2026年の研究で分かってきたこと
2026年に発表された系統的レビューでは、不安症などの成人を対象とした33研究がまとめられました。
その中でパニック障害では、身体内部への注意が高まりやすく、特に脅威を感じる状況では内受容感覚の処理が変化する傾向が報告されています。(PubMed)
重要なのは、「パニック障害の人は心拍を正確に感じ取れる」という単純な話ではないことです。
身体感覚への「正確さ」だけでなく、
身体へ注意が向きすぎる
身体の変化をどう解釈するか
その感覚を安全だと思えるか
という部分が重要だと考えられています。実際、客観的な心拍知覚の正確さと不安の関連については、これまでの研究でも結果が一致していません。(PubMed)
「心臓がおかしい」から不安が強くなる流れ
例えば、階段を上ったあとに心拍が速くなること自体は正常です。
しかし、一度パニック発作を経験すると、
心拍が少し速くなる
↓
「また発作が始まるかもしれない」
↓
心臓へさらに注意が向く
↓
鼓動をより強く感じる
↓
不安が高まり、呼吸や心拍がさらに変化する
という循環が起こることがあります。
呼吸も同様です。「息が浅い気がする」と感じて呼吸を何度も確認したり、深く吸おうと頑張り続けたりすると、さらに胸や首の筋肉へ意識が集中します。
つまり、身体の変化そのものだけでなく、「その感覚をどう受け取るか」がパニック症状に大きく関係します。
なぜパニックでは身体に意識が向きやすいのか?
パニック発作は非常に強い身体経験です。
突然の動悸や息苦しさ、「死ぬかもしれない」という恐怖を経験すると、脳はその感覚を重要な危険信号として記憶することがあります。
すると普段なら気にならない程度の心拍や呼吸の変化にも注意が向きます。
これは本人が意識的に「気にしよう」としているわけではありません。
身体を守るために脳が、
「また同じことが起きていないか?」
と身体内部を監視している状態と考えると分かりやすいでしょう。
オステオパシーでは「身体から脳へ入る情報」をみます
ここが森田治療室で大切にしている部分です。
身体から脳へ届く情報は、心拍だけではありません。呼吸、胸郭の動き、筋肉の緊張、顎の食いしばり、胃腸の感覚、首の緊張、姿勢など、膨大な感覚情報が常に神経系へ入っています。
そのためパニック症状がある方では、後頭部・頭蓋底、上位頚椎、顎、胸郭上口・第1肋骨、胸椎・肋骨、横隔膜、腹部、仙骨・骨盤などを確認します。
例えば呼吸が浅くなり、胸郭が動きにくい状態で「もっと吸わないと」と頑張ると、首や肩の補助呼吸筋を使い続けます。胸の張り、首の緊張、喉の違和感などが増えれば、その感覚がさらに脳へ送られます。
そこでオステオパシーでは、「心臓の感覚を消す」ことを目的にするのではなく、身体から入ってくる不要な緊張や感覚刺激をできるだけ減らし、呼吸・姿勢・循環・筋緊張が協調しやすい身体環境をつくることを考えます。
大切なのは「身体を感じなくなること」ではありません
身体の感覚そのものは必要です。
心拍が上がることも、緊張して呼吸が少し変わることも正常な身体反応です。
目標は、身体を感じなくなることではありません。
身体の変化を感じても、それをすぐに「危険」と判断せず、必要がなくなれば再び落ち着いた状態へ戻れること。
森田治療室では、この「戻れる余裕」を身体側からサポートすることを大切にしています。
医療機関での確認も大切です
森田治療室は診断を行う医療機関ではありません。初めて強い動悸・胸痛・息苦しさ・失神などがある場合は、まず医療機関で身体的な疾患がないか確認することが大切です。
すでに精神科や心療内科を受診している場合は、医師の診断や治療方針を優先してください。当院には精神科や心療内科へ通院しながらオステオパシーを併用されている方もいらっしゃいます。
オステオパシーは医療に代わるものではなく、必要な医療を受けながら身体面から補完していく立場です。
参考文献
Snell L, et al. The relationship between interoception and anxiety, stress and obsessive-compulsive disorders in adult clinical populations: A systematic review and narrative synthesis. J Affect Disord. 2026. (PubMed)
Smith R, et al. The association between anxiety and cardiac interoceptive accuracy: A systematic review and meta-analysis. Neurosci Biobehav Rev. 2022. (PubMed)