- 森田智史ブログ
パニック障害シリーズ Vol.04|
「何もしていないのに身体に力が入っている」「胸や喉がいつも緊張している」「少しの物音や身体の変化にも反応してしまう」。
パニック障害の方から、このような訴えを聞くことがあります。
パニック障害を「交感神経が高いから」と説明されることもありますが、実際はもう少し複雑です。
大切なのは、交感神経か副交感神経かという二択ではなく、必要なときに身体が反応し、危険がなくなれば再び落ち着いた状態へ戻れるかという自律神経の「柔軟性」です。

自律神経は身体を常に調節しています
自律神経は、心拍、血圧、呼吸、発汗、消化、体温などを無意識に調節しています。
例えば危険を感じれば、心拍が上がり、呼吸が速くなり、筋肉に力が入ります。反対に、安全な環境では心拍や呼吸が落ち着き、消化や休息に適した状態へ戻っていきます。
この「反応する→戻る」という切り替えは、本来とても自然なものです。
しかしパニック障害では、一度強い発作を経験したことで、
「また発作が起きるかもしれない」
「この動悸は危険かもしれない」
「ここから逃げられなかったらどうしよう」
と身体が警戒し続けることがあります。
すると、発作が起きていない時間にも首や肩に力が入り、呼吸が浅くなり、心拍や身体感覚が気になりやすくなります。
HRVからみる「自律神経の柔軟性」
自律神経を研究する方法の一つに、心拍変動(HRV)があります。
心臓は時計のように完全に一定間隔で動いているわけではなく、1拍ごとの間隔にはわずかな変化があります。この変化を解析したものがHRVです。
HRVは「交感神経と副交感神経のバランスを直接測る検査」ではありません。しかし、RMSSDなど一部の指標は心臓に対する迷走神経性の調節をみる参考になります。
2023年の系統的レビュー・ネットワークメタ解析では、パニック障害を含む精神疾患群で、健康な人と比べHRVの一部指標が低い傾向が報告されています。(PubMed)
つまり、パニック障害では「交感神経がずっと高い」というよりも、身体の状況に合わせて心拍を細かく調節する柔軟性が低下している可能性があります。
2025年の研究ではHRVの変化も確認されています
2025年には、パニック障害の患者110人を対象に、8週間のマインドフルネス瞑想を行ったランダム化比較試験が発表されました。
55人が瞑想を行う群、55人が対照群に分けられ、介入前後のHRVが比較されました。
その結果、瞑想群ではRMSSD、SDRR、pNN50、総パワーなど複数のHRV指標が改善しました。(PubMed)
この研究は「瞑想をすればパニック障害が治る」という意味ではありません。
重要なのは、パニック障害に伴う自律神経の状態は固定されたものではなく、身体や心理への介入によって変化する可能性があるという点です。
「リラックスしよう」と頑張りすぎなくていい
パニック障害の方は、「副交感神経を上げなければ」「リラックスしなければ」と頑張ってしまうことがあります。
しかし、緊張すること自体が悪いわけではありません。
仕事、人混み、電車、初めての場所などでは身体が緊張するのが普通です。
目標は常にリラックスしている状態ではなく、
緊張する
↓
必要な反応が起こる
↓
状況が終わる
↓
自然に落ち着いていく
という切り替えができることです。
森田治療室では、この状態を「戻れる身体」と考えています。
オステオパシーでは自律神経だけを直接みません
自律神経は単独で働いているわけではありません。
呼吸、姿勢、筋肉の緊張、関節の動き、内臓感覚、循環など、身体全体から影響を受けています。
そのため森田治療室では、パニック症状のある方に対して、後頭部・頭蓋底、上位頚椎、胸郭上口・第1肋骨、胸椎・肋骨、横隔膜、腹部、仙骨・骨盤などを確認します。
特に大切にしているのが、自律神経・呼吸・循環の3つを一緒にみることです。
1.頭頸部・自律神経
後頭部や上位頚椎、顎周囲に強い緊張がないかを確認します。
不安が続くと、食いしばりや肩をすくめる姿勢が続きやすく、頭頸部から入る感覚情報も増えます。
2.胸郭・肋骨・横隔膜
「息が吸えない」と感じる方ほど、首や肩を使って大きく吸おうとすることがあります。
胸郭や肋骨、横隔膜が協調して動ける状態をつくり、頑張らなくても呼吸できる身体環境を目指します。
3.循環・全身のつながり
呼吸による胸腔・腹腔の圧力変化は、静脈還流など循環にも関係しています。
胸郭上口、横隔膜、骨盤などを含め、身体の上から下まで動きが連続しているかを確認します。
ただし、オステオパシーで「自律神経を直接正常化できる」「HRVを必ず改善できる」と証明されているわけではありません。2024年の系統的レビューでも、オステオパシー手技と自律神経・呼吸機能について一定の変化を示す研究がある一方、結果にはばらつきがあり、明確な結論には至っていません。(PubMed)
大切なのは「交感神経を下げること」だけではない
パニック障害に対する身体的なアプローチで最も大切なのは、
「交感神経を下げる」
ことだけではありません。
必要なときには身体が反応でき、必要がなくなれば再び戻れること。
呼吸が速くなっても戻れる。心拍が上がっても戻れる。緊張しても戻れる。
身体がこうした経験を繰り返すことが、「身体の変化=危険」という警戒を少しずつ弱めていく土台になると考えています。
医療機関での確認も大切です
森田治療室は診断を行う医療機関ではありません。強い動悸、胸痛、息苦しさ、失神などがある場合は、まず医療機関で身体的な疾患がないか確認することが大切です。
すでに精神科や心療内科を受診している場合は、医師の診断や治療方針を優先してください。当院には精神科や心療内科へ通院しながらオステオパシーを併用されている方もいらっしゃいます。
オステオパシーは医療に代わるものではなく、必要な医療と組み合わせながら身体面から補完していく立場です。
次回は、**「また発作が起きたらどうしよう」―身体感覚を怖がるほど症状が続きやすいのか?**について、最新の研究をもとに解説します。
参考文献
Jha K, et al. The effects of Rajyoga mindfulness meditation training on heart rate variability in panic disorder: A randomized controlled trial. Indian J Psychiatry. 2025;67:310-315. (PubMed)
Wang Z, et al. Heart rate variability in generalized anxiety disorder, major depressive disorder and panic disorder: A network meta-analysis and systematic review. J Affect Disord. 2023;330:259-266. (PubMed)
Stępnik J, et al. Effect of manual osteopathic techniques on the autonomic nervous system, respiratory system function and head-cervical-shoulder complex: a systematic review. Front Med. 2024. (PubMed)