- 森田智史ブログ
パニック障害シリーズ Vol.05|
「また動悸が出たらどうしよう」「電車の中で息苦しくなったら逃げられない」「少しふらっとしただけで発作が始まりそう」。
パニック障害では、発作そのものだけでなく、「また発作が起こるかもしれない」という予期不安が大きな負担になることがあります。
そして徐々に、動悸・息苦しさ・めまい・身体の熱さなど、本来は危険とは限らない身体の変化まで怖くなることがあります。
今回は、この「身体感覚への恐怖」がなぜパニック症状を続かせることがあるのかを考えます。

発作を経験すると「身体の変化」を警戒するようになる
例えば最初の発作で、突然強い動悸と息苦しさを経験したとします。
すると次からは、
少し心拍が上がる
↓
「また発作かもしれない」
↓
心臓や呼吸に意識が集中する
↓
身体の感覚をさらに強く感じる
↓
不安が高まる
↓
心拍・呼吸・筋緊張がさらに変化する
という循環が起こることがあります。
Vol.02、03でもお伝えしたように、心拍や呼吸など身体内部の感覚を感じる仕組みを「内受容感覚」といいます。
パニック障害では、身体感覚そのものだけでなく、「この感覚は危険だ」という意味づけが重要になります。
「感じないようにする」ほど気になることもある
「動悸を出さないようにしよう」「息苦しくならないように深呼吸しよう」「めまいが出ないようにじっとしていよう」。
不安が強いと、このように身体の変化を避けたくなるのは自然なことです。
しかし、身体感覚を常に監視したり、発作が起こりそうな状況をすべて避け続けたりすると、
「この感覚は避けなければならないほど危険だ」
という学習が維持されることがあります。
電車に乗らない、人混みに行かない、運動を避ける、心拍が上がらないように行動する――こうした回避によって一時的には安心できますが、その安心が「避けたから大丈夫だった」という学習につながる場合があります。
あえて身体感覚を経験する「内受容感覚曝露」
パニック障害の認知行動療法で用いられる方法の一つに、**内受容感覚曝露(interoceptive exposure)**があります。
これは、専門家の指導のもとで安全性を確認しながら、心拍が上がる、呼吸が速くなる、身体が熱くなるといった感覚を意図的に経験し、
「この身体感覚が起きても、必ずしも危険ではない」
ことを学んでいく方法です。
2026年に発表されたランダム化比較試験では、パニック障害の成人72人を対象に、高強度運動によって心拍や呼吸の変化を意図的に起こす方法を内受容感覚曝露として用いました。12週間の介入後、リラクゼーション群と比較してパニック症状の重症度や発作頻度の改善が大きく、24週時点でも差が維持されていました。(PubMed)
これは「激しい運動をすればパニック障害が治る」という意味ではありません。心疾患などの確認も必要なため、自己判断で強い運動を行う方法ではなく、研究では管理された条件下で行われています。
「なくす」のではなく「感じても大丈夫」を増やす
もう一つ重要なのが、身体感覚そのものを消すことだけを目標にしないことです。
2026年のランダム化比較試験では、ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)に内受容感覚曝露を組み合わせた10週間のインターネット治療が検討されました。79人が参加し、待機群と比較してパニック症状が有意に改善し、治療後に診断基準を満たさなくなった参加者も一定数みられました。(PubMed)
ACTでは、嫌な感覚を完全になくそうとするのではなく、不安や身体感覚があっても、それに支配されず行動できることを重視します。
これはパニック障害を考えるうえで非常に重要な視点です。
オステオパシーの役割
ここは明確に分ける必要があります。
オステオパシーは、内受容感覚曝露や認知行動療法の代わりになるものではありません。
森田治療室では、身体感覚を怖がっている方に無理に動悸や息苦しさを起こすことはせず、まず身体から入り続けている緊張や違和感を評価することを大切にしています。
例えば、
- 後頭部・上位頚椎
- 顎・食いしばり
- 胸郭・第1肋骨
- 胸椎・肋骨
- 横隔膜
- 腹部
- 仙骨・骨盤
- 呼吸や姿勢、筋緊張
などを確認します。
「息が吸いにくい」と感じて首や肩の補助呼吸筋を常に使っている、「発作が怖い」ため胸や腹部に力が入り続けている、食いしばりが強い――こうした身体状態そのものが、新しい身体感覚として神経系へ入り続けることがあります。
オステオパシーでは、それらを一つの原因と決めつけず、身体から脳へ入る感覚情報を整理しやすい身体環境をつくることを目指します。
「発作が起きない身体」だけを目標にしない
パニック障害では、「二度と動悸を起こさない」「絶対に息苦しくならない」という目標にすると、身体の小さな変化を常に監視することにつながる場合があります。
人間の身体は、運動すれば心拍が上がり、緊張すれば呼吸が速くなり、疲れれば身体感覚も変化します。
大切なのは、
身体が変化しても大丈夫。
反応しても、また戻れる。
という経験を増やしていくことです。
森田治療室では、心理療法とは役割を分けながら、身体側からこの「余裕」をつくることを大切にしています。
医療機関での確認も大切です
森田治療室は診断を行う医療機関ではありません。強い動悸、胸痛、息苦しさ、失神などがある場合は、まず医療機関で身体的な疾患がないか確認することが大切です。
すでに精神科や心療内科を受診している場合は、医師の診断や治療方針を優先してください。当院には精神科や心療内科へ通院しながらオステオパシーを受けている方もいらっしゃいます。
オステオパシーは医療や心理療法に代わるものではなく、必要な治療と組み合わせながら身体面から補完する立場です。
次回はシリーズ最終回、**「パニック障害は『身体から整える』だけでいい?医療・心理療法・オステオパシーの役割」**について解説します。
シリーズバックナンバー
参考文献
Muotri RW, et al. Brief intermittent intense exercise as interoceptive exposure for panic disorder: a randomized controlled clinical trial. Front Psychiatry. 2026;16:1739639. PMID: 41737725. (PubMed)
Bäckman L, et al. Internet-Based Acceptance and Commitment Therapy With Interoceptive Exposure for Panic Disorder: A Randomized Controlled Trial and Working Alliance Analysis. Scand J Psychol. 2026;67(2):605-619. PMID: 41315783. (PubMed)