2026.01.05
  • 近藤健心ブログ
世界で学び続けるために — スウォンジー大学で学位を取った理由

わからないを放置しないための学び直し

2025年、イギリスのスウォンジー大学(Swansea University)で BSc (Hons) Osteopathy(オステオパシー理学士)を取得しました。先に院のニュースとして報告記事は出していただいたのですが、今回は「結局、何がどう違うのか」「なぜそこまでして学位を取りに行ったのか」を、もう少し丁寧に書いてみようと思います。

結論から言うと、学位取得は“箔”のためではなくて、臨床の責任を引き受けるための土台づくりでした。


「オステオパシー」と名乗ることが、簡単すぎる日本の現実

日本では、オステオパシーは国家資格ではありません。学び方も、基準も、深さも本当にバラバラです。
同じ言葉を使っていても、中身が同じとは限らない。これは現場に立つほど痛感しました。

一方、イギリスでは「オステオパス」という肩書きは法律で守られていて、登録されていない人が名乗ること自体が違法です。つまり、社会として「安全と質」を仕組みで担保しています。


自分は日々、身体に触れている。判断を間違えれば、相手を傷つける可能性がある。
だったら、“それっぽい治療”じゃなくて、説明できる治療を積み上げないといけないと思いました。


なぜ学位を取りに行ったのか

自分の中で決定打になったのは、次の2つです。

1)「やりたいテクニック」より「安全な判断」を学びたかった

学位課程で強調されるのは、派手なテクニックよりも、

  • 解剖・生理・神経科学の前提
  • 病態生理(“何が起きている可能性があるか”)
  • 臨床推論(“なぜそう判断したか”)
  • リスク管理(触って良いのか/医療につなぐべきか)

みたいな、地味だけど臨床の根幹の部分でした。 

痛みが強い、夜間痛がある、しびれが進行する、全身症状がある——
こういう時に、勢いで触りにいかない。自信があるフリをしない。
“わからない”を認めて、必要なら検査や受診へつなげる。
この姿勢は、学位課程で今までの自分に足りないものだと気づきました。

2)「感覚」や「経験」を、独りよがりにしたくなかった

オステオパシーは、触診や感覚が大切です。これは自分も今も変わりません。

でも同時に、感覚は“主観”でもある。
主観を主観のまま使うと、再現性がないし、説明ができないし、改善もできません。

だから、感覚を否定するためではなく、
感覚を“検証可能な形”に近づけるために、エビデンスや研究の読み方を学び直しが必要でした。

それともう一つ、現実的な話ですが、学位を取得したことで海外の研修に参加するハードルが下がりました
特に頭蓋領域では、アメリカで行われる クラニアルアカデミー(Cranial Academy) のように、参加条件として学位や専門職としての背景が求められるケースがあります。
「行きたいのに条件で止まる」を減らして、世界の学びに直接触れられる状態を作っておきたかった。これも正直な理由の一つです。


スウォンジーでの学びは「世界基準の土台」を作る時間だった

スウォンジー大学のプログラムは、臨床家として必要な知識・技能を段階的に積み上げる設計になっています(学士レベルの要件や単位規定も明確に定義されています)。 hwb.swansea.ac.uk

また、スウォンジー大学は学部課程としてのオステオパシー初期学位(MOst)も提供しており、学術と臨床スキルを統合して登録オステオパスを目指す流れが整理されています。 swansea.ac.uk

自分が取り組んだのは「学び直し」でもあり、「臨床の言語化」でもありました。


学位課程で“臨床が変わった”と感じた論文テーマ

ここからは、実際に学位課程で繰り返し向き合った“論文のテーマ”を、臨床目線でまとめます。
(論文名は一例。長くなるので、重要ポイントだけ。)

1)非特異的腰痛:原因が特定できない痛みをどう扱うか

腰痛の多くは「画像で原因がはっきりしない」非特異的腰痛とされ、治療は“原因探し”より、痛みと生活への影響を減らす方向に組み立てる考え方が整理されています。

→ 臨床では「ここが悪い」と断定したくなる瞬間があるけど、断定が強いほど外したときのダメージも大きい。
“説明の確度”を丁寧に扱うようになりました。

2)EBP(エビデンスに基づく実践):理想と現場のギャップ

オステオパス(豪州の調査)でも、EBPに肯定的でも実践頻度が高いわけではない、という現実が示されています。 

→ つまり「エビデンスが大事」は全員言える。問題は“続け方”。
なので今は、背伸びして全部を追いかけるより、日々の臨床で迷いやすい場面をひとつ選んで、まずは総説やガイドラインで全体像をつかむ。そこから、目の前のケースに照らして「何が言えて、何が言えないのか」を整理する。
そうやって、学びを“知識”で終わらせず、毎日の判断に落とし込める形にすることを大切にしています。

3)プラセボ=悪ではない。治療効果の一部として理解する

徒手療法では、期待・安心・文脈(言葉、触れ方、関係性)が効果に影響する、という整理があります。 

→ 「技が効いた」の前に、安全な場を作れたか
説明、同意、ペース配分、触れ方の質が、結果を左右する。
ここは学位課程で一番良かった学びかもしれません。

4)筋膜:流行り言葉にせず、組織として捉える

筋膜は“なんとなく全身ネットワーク”で終わらせず、解剖学的・機能的に定義し直す視点が重要だと感じました。 

→ 「筋膜だから何でも説明できる」ではなく、
どの層で、何が起きていそうかを言葉にする努力をするようになりました。


TSOでの学びと、大学教育の学びの違い

TSO(東京スクール・オブ・オステオパシー)では、長い時間をかけて、触診・知覚・身体観を鍛える学びがあります。カリキュラムもWHO基準に沿った時間数が示されています。 Tokyo School of Osteopathy+1

大学(スウォンジー)では、そこに 研究リテラシー/臨床推論/リスク管理が強く乗ってきます。

自分の感覚としては、
TSOで「触れ方の軸」ができて、スウォンジーで「判断の軸」が太くなった、という感じです。 


最後に

学位を取ったことで、すごい治療家になれたわけではありません。
むしろ逆で、わからないことの多さが前より見えるようになりました。

でも、「わからない」を放置せずに学び続けること、
安全に、丁寧に、説明責任を持って身体に触れること。
それを続ける覚悟が、学位取得のいちばんの収穫でした。

近藤 健心
BSc (Hons) Osteopathy 

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