- 森田智史ブログ
― 仙骨副交感神経・子宮靭帯・骨盤緊張を統合したオステオパシー的視点 ―
はじめに
生理痛を「ホルモン反応」や「子宮の問題」としてのみ捉えると、
臨床で説明のつかないケースに多く遭遇します。
本稿では、交感神経優位による子宮収縮の神経学的影響を主軸に、
- 仙骨副交感神経(S2–S4)
- 子宮靭帯(仙骨子宮靭帯・広間膜)
- 骨盤・硬膜・循環
を一つのシステムとして捉え、オステオパシー的評価と治療戦略を整理します。

① 交感神経優位と子宮収縮(神経学的背景)
子宮の自律神経支配は主に
- 交感神経:T10–L2
- 副交感神経:S2–S4(骨盤内臓神経)
から成ります。交感神経活動が高まると、
- 子宮平滑筋の緊張亢進
- 血管収縮による局所循環低下
- 求心性痛覚入力の増幅
が起こりやすくなります。実際、内臓痛に関する神経生理学では、交感神経活動の増加が内臓痛の感受性を高めることが示されています
(Janig, The Integrative Action of the Autonomic Nervous System)。
生理期に必要な収縮が、「交感神経優位が解除されない状態」で起こると、硬く、逃げ場のない収縮として痛みが知覚されやすくなります。
② 仙骨副交感神経と「ブレーキ不全」
ここで重要なのが、仙骨副交感神経の機能低下です。
副交感神経(S2–S4)は、
- 子宮のリズミカルな運動
- 骨盤内循環
- 内臓の回復・鎮静
に関与します。
しかし臨床では、
- 仙骨の可動性低下
- 骨盤底筋群の過緊張
- 硬膜テンションの偏位
がある症例ほど、副交感神経的な「緩める反応」が出にくい傾向があります。結果として、交感神経が強すぎるのではなく副交感神経が機能しにくいという状態が生まれ、月経痛が慢性化・重症化しやすくなります。
③ 子宮靭帯と骨盤の緊張パターン
● 仙骨子宮靭帯
- 子宮頸部〜仙骨前面を連結
- 子宮と仙骨を機械的・神経的に結ぶ構造
● 広間膜
- 子宮を側方から支持
- 血管・神経の通路として機能
これらの靭帯は、
- 腸骨の前後傾
- 仙骨のカウンターヌーテーション制限
- 腰椎–骨盤移行部の緊張
の影響を強く受けます。
骨盤の左右差や固定パターンが存在すると、子宮靭帯を介して子宮に持続的テンションが加わった状態が形成されます。この状態で交感神経優位が重なると、「構造的に逃げ場のない子宮収縮」が起こり、痛みとして強調されやすくなります。
④ オステオパシー的評価
生理痛症例で重要なのは、局所評価ではなく、レイヤー評価です。
神経系
- T10–L2の可動性・組織質
- 仙骨孔・S2–S4周囲の反応
- 交感神経チェーンの緊張パターン
構造・靭帯
- 仙骨子宮靭帯のテンション左右差
- 広間膜の引き込み感
- 仙骨・腸骨・恥骨の協調性
硬膜・循環
- 腰仙部硬膜の動き
- 骨盤内の循環感(うっ滞・圧)
- 横隔膜—骨盤隔膜の協調
⑤ オステオパシー的治療戦略
※テクニック名ではなく戦略レベルで整理します。
1. 交感神経入力を下げる
- T10–L2領域の過剰な刺激を減らす
- 胸腰移行部・横隔膜の協調を回復
👉 目的は「子宮を直接触ること」ではなく神経環境の調整
2. 仙骨副交感神経の表現を引き出す
- 仙骨の微細可動性を回復
- 骨盤底の過緊張を解除
- 硬膜テンションの偏りを調整
👉 副交感神経が「働ける場」を作る
3. 子宮靭帯テンションの再配分
- 仙骨子宮靭帯の過剰張力を逃がす
- 広間膜を介した左右バランスの回復
- 骨盤全体の張力ネットワークを再構成
👉 子宮収縮が生理的な範囲で起こる環境を作る
⑥ 関連論文・エビデンス(補足)
- Janig W. The Integrative Action of the Autonomic Nervous System → 内臓痛と交感神経活動の関係を体系的に整理
- Henley et al., JAOA, 2011 → オステオパシーマニュピレーションが心拍変動(HRV)に影響
- Hamaoui et al., Spine Journal, 2017 → 脊椎・頸部介入が自律神経活動に影響する可能性
- IJOM(2025)原発性月経困難症RCT → オステオパシー介入による生理痛・関連症状の有意な軽減
これらはすべて、「因果関係を断定するもの」ではなく、神経・構造・内臓の相互作用を支持する知見として位置づける必要があります。
おわりに
生理痛は、交感神経優位 × 副交感神経表現不全 × 骨盤靭帯テンションという多層構造の現象として理解することで、臨床の解像度が大きく上がります。オステオパシーの強みは、この複雑な関係性を「分けずに読む」ことにあります。
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