- 森田智史ブログ
■ 自律神経は「シーソー」なのか?
自律神経について説明する際に、「交感神経と副交感神経はシーソーのように働いている」といった表現を聞くことが多いと思います。
交感神経は活動や緊張、副交感神経は休息や回復。
どちらかが上がれば、もう一方が下がる。そういったイメージです。この説明は間違いではありませんし、患者さんに伝える上でも分かりやすいモデルです。ただ、実際に身体で起きていることは、もう少し複雑で、もう少し精密です。
臨床をしていても、単純に「交感神経が高い」「副交感神経が低い」といった一方向の問題だけで説明できるケースは多くありません。
■ 実際の身体ではどうなっているのか
最近の研究や考え方では、交感神経と副交感神経は単純に拮抗しているだけではなく、同時に働きながら調整しているという理解が主流になっています。
たとえば心拍一つとっても、単純に上がる・下がるではなく、細かく揺らぎながら変化しています。この揺らぎ(心拍変動)は、副交感神経の働きとして説明されることもありますが、実際には交感神経との相互作用の中で生まれているものです。
つまり、どちらか一方が働いているのではなく、両方が関わりながら調整している状態です。
■ 呼吸や姿勢でも同じことが起きている
呼吸に伴って心拍が変わる現象や、立ち上がったときに血圧が保たれる反応なども、単純なON・OFFでは説明できません。身体は常に「ちょうどいい状態」を保とうとしています。
そのためには、強く上げるだけでも、強く下げるだけでも足りず、同時に調整する必要があります。
このとき、交感神経と副交感神経は互いに影響しながら、同時に働いています。
■ シーソーではなく「協調」
シーソーのイメージだと、どちらかが上がれば、どちらかが下がるという関係になります。
ただ実際の身体は、それほど単純ではありません。
むしろ近いのは、複数の要素が同時に動きながらバランスを取っている状態です。
完全に逆の働きというよりも、役割の違う調整装置が同時に動いているようなイメージです。
■ 臨床で感じる違和感の正体
「自律神経が乱れている」と言われる方の多くは、
・緊張しやすい
・疲れが抜けない
・不安感が強い
・呼吸が浅い
といった状態を感じています。
これを単純に「交感神経が高い」と捉えてしまうと、副交感神経を上げればいい、という話になります。
ですが実際には、副交感神経をただ高めれば改善するというケースは多くありません。
むしろ問題になっているのは、切り替えがうまくいかないこと
あるいは同時に働くバランスが崩れていることです。
■ 「調整できない状態」が問題
自律神経の状態で重要なのは、どちらが強いかではなく、状況に応じて調整できるかどうかです。
必要なときに交感神経が働き、落ち着く場面で副交感神経に移行できる。さらに、その間の細かい調整もスムーズに行える。
この「余裕」があるかどうかが重要です。
逆にいうと、
・ずっと緊張が抜けない
・休んでも回復しない
・少しの刺激で不調が出る
といった状態は、調整の幅が狭くなっている状態とも言えます。
■ オステオパシーとしての捉え方
オステオパシーでは、自律神経そのものを直接操作するというよりも、
・呼吸
・循環
・組織の緊張
・頭蓋や内臓の動き
といった全体の状態を整えることで、自律神経が働きやすい環境をつくることを重視します。
結果として、
・過剰な緊張が抜ける
・呼吸が深くなる
・回復しやすくなる
といった変化が起きます。これは「副交感神経を上げた」というよりも、調整しやすい状態、余裕がある状態に戻ったと捉える方が自然です。
■ まとめ
自律神経は、単純なシーソーのような仕組みではありません。
交感神経と副交感神経は、必要に応じて同時に働きながら、細かく調整を行っています。
そして問題になるのは、どちらが強いかではなく、その調整がうまくいっているかどうかです。自律神経を整えるということは、どちらかを上げることではなく、状況に応じて自然に働ける状態を取り戻すことだと考えています。
■ 参考文献・研究
本記事の内容は、近年の自律神経研究に基づいた考え方を参考にしています。
・Berntson, G. G., Cacioppo, J. T., & Quigley, K. S.
Autonomic space and psychophysiological response
→ 自律神経は単純な拮抗ではなく、共活性・共抑制など複数のパターンで調整されることを提唱
・Porges, S. W.
The Polyvagal Theory
→ 自律神経を階層的・機能的に捉え、単純な二元論では説明できないことを示した理論
・Thayer, J. F., & Lane, R. D.
A model of neurovisceral integration
→ 心拍変動(HRV)を中枢神経と自律神経の統合的な調整の指標として説明
・Shaffer, F., & Ginsberg, J. P.
An Overview of Heart Rate Variability Metrics and Norms
→ HRVが交感・副交感神経の相互作用の結果であることを整理
■ 補足(臨床的な理解として)
これらの研究からも、
自律神経は単純なON/OFFではなく、
複数のシステムが同時に働きながら調整しているもの
として捉えることが重要だとされています。
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